- 2023-5-30
- Impression (絵画展の感想)
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先日”山種美術館”で開催した特別展「小林古径と速水御舟 ~画壇を揺るがした二人の天才~」を観てきました。
早速私のまとめコメントを言ってしまいますが、ここ最近開催した展覧会の中で、ピカ一に良かった!と思っています。それくらい展示作品の内容が濃く充実していた印象です。しかも小林古径に関して言えば、他の美術館から代表作を借りてまで展示しています。元々山種美術館は古径や御舟の作品を結構所蔵しています。それらにプラスして公開するわけだから、今回の展覧会に対する意気込みの高さを感じますね。
【 目次 】 ・「小林古径と速水御舟」のレビュー …古径と御舟の作品を観ながら、レビューします。 |
この特別展「小林古径と速水御舟」は2023年7月17日まで開催します。それから展示替え作品もあるので、行く際は展示リストをチェックしておく事もお忘れなく!今回は私のレビューも交えながら、見所などを話していきたいと思います。参考にしてもらえたら幸いですね。
「小林古径と速水御舟 ~画壇を揺るがした二人の天才~」のレビュー
山種美術館は速水御舟だけで約120点、小林古径で言えば46点もの作品を所蔵しています。他には川合玉堂や上村松園、村上華岳など、日本を代表する画家の作品を多数抱えています。つくづく日本画専門の美術館と謳うだけの事はあるな~と思いますね。それに抱えている作品の質というか、センスもイイと思っています。各々の代表作はもちろんだけど、私が言うのもなんですが”イイ!”と思える作品が多い印象です。
実は行く前から展示リストを眺めていたのですが、正直言ってワクワクしてしまったほどです。例えば小林古径の「極楽井」や「出湯」は、作品名を目にした途端、”アッ!!”と思わず声が出るくらいでした。実は古径についてそこまで詳しくないのですが、そんな私でさえ嬉しくなったくらいですから。^^
・193.5×100.8cm、絹本裏箔・彩色、東京国立近代美術館所蔵
まず古径の代表作「極楽井」ですが、これは本来は東京国立近代美術館所蔵の作品です。おそらく古径生誕140年を記念して、わざわざ借りてきたのだろうと思います。この作品がやって来ただけでも、山種の意気込みが感じられますね。
ちなみに、「極楽井」という作品は、東京の文京区小石川に実在する”極楽井”がモチーフになっているそうです。名水と言われる湧き水で、もちろん現在はパワースポットとしても人気だそうです。「聖地巡礼」ではないですが、今度行ってようかなと。住所は東京都文京区小石川4丁目16ー13の小石川パークタワー内にある様です。
上で挙げた「極楽井」や後半に展示の「出湯」もそうですが、小林古径の描く女性の姿が印象的です。特に肌の白さと美しさが際立っている感じがします。これまで古径の作品を色々と観てきて思うのは、女性の美しさを描かせたら、日本の画家でもトップ3に入る!と。女性の美しさを知らないと、こういった絵は描けないと思いますね。
・「極楽井」1912年(大正元年)、東京国立近代美術館所蔵 ※展示期間:5月20日~6月18日
・「出湯」1921年(大正10年)、東京国立博物館所蔵 ※展示期間:6月27日~7月17日
※この2つの作品は展示期間が異なるので注意してほしいと思います。
さて、ここでちょっと気分を変えて御舟の作品も見てみたいと思います。今回は重要文化財の「炎舞」も展示されていますが、それ以外にもイイ作品はたくさんあります。私の好きな「柿」もそうですが、下で挙げる「桃花」も実に素敵な作品でした。
・19.8×19.5cm、紙本金地・彩色、山種美術館所蔵
これまで何度か目にした作品ですが、良いものは何度見てもイイですね。金を背景に桃の花を描いた非常にシンプルな作品ですが、何よりも作品の雰囲気が物凄く良い!金が使われているため華やかさがあるかと思いきや、実は上品に仕上がっているのが素晴らしい!金によって桃の花がより美しく見えるし、何よりも花の気品さが倍増している感じです。琳派の屏風で見かける様な金箔を使った装飾さではなく、上品な美しさを活かすために金を使用したという感じでしょうか。
それから、もう一つ忘れてはいけないポイントもあって、物凄くリアルに描かれた花の写実性も必見です。シンプルではあるけれど、純粋に絵の上手さも感じる作品だと思います。
そういえば御舟の「翠苔緑芝(すいたいりょくし)」も良かったですね。^^
この作品も何度かお目にかかっていますが、琳派を感じさせる画風は何度見てもイイですね。装飾的な映えもそうですが、一番は御舟のチェレンジ精神が溢れていると思うから。例えばコケや芝生の下地に、花緑青(はなろくしょう)という合成絵具を使用している点は、まさに御舟のチェレンジ精神を象徴していると思います。絵具”花緑青”は発色は良く美しいけれど、毒性が強いため変色しやすく下地を劣化させやすかったそうです。日本画ではほとんど使われる事がなかった絵具を、御舟はあえて使っている。これまでの日本画の伝統や常識をイイ意味で破っているわけですね。実際に御舟は花緑青の性質(毒性)を知った上で使っていたか分かりませんが、少なくとも発色の良さ重視で使っていたのだろうと思います。
またもう一つの必見ポイントもあって、”紫陽花(あじさい)”の描き方も注目してほしい。唯一無二とも言うべき独特な質感は、何度観ても面白い!つくづく山種美術館はイイ作品を所蔵しているな~と思いますね。
・48.9×104.9cm(8面の内の1面)、紙本・彩色、山種美術館所蔵
そして小林古径の「清姫」シリーズも挙げておきたいと思います。
「清姫」は紀伊国(現在の和歌山県)にある道成寺にまつわる伝説を描いた作品で、8枚すべてが展示されるのは5年ぶりだそうです。小林古径生誕140周年を記念する展覧会だけありますね。
・48.9×104.9cm(8面の内の1面)、紙本・彩色、山種美術館所蔵
個人的に8面の内、一番好きな画風は「鐘巻」ですね。
ちなみに「鐘巻」に描かれているのは、龍に見えますが実は”大蛇”です。「安珍・清姫」伝説を知っている人なら分かるでしょうけど、知らないと龍に見えてしまうかも!?この辺りは、物語の背景を知っているに越したことはないと思います。
ここでは参考として、8面の内の数点を挙げておきました。
↓画像をクリックして大画面で見てみるのも面白いと思います。
これは8連作の2番目に当たる「寝所」という作品。清姫が若いお坊さん”安珍”に、夜這いを描ける場面を描いています。
物語を知っている人は分かると思いますが、必至で逃げる安珍を追いかけている清姫の姿が表現されています。
物語のある場面を描いているだけに、せっかく作品を見るならストーリーを流れで知っておきたい!その方がより深く味わえると思います。
「古径と御舟」展のまとめ・見所は? …私のおススメ作品をピックアップ!
特別展「小林古径と速水御舟」のまとめとして、私のおススメ作品をリストアップしてみました。
まずは、速水御舟の作品から!
・「柿」1923年(大正12年)、速水御舟
・「桃花」1923年(大正12年)、速水御舟
・「炎舞(重要文化財)」1925年(大正14年)、速水御舟 ※山種コレクションルームにて展示
・「翠苔緑芝(すいたいりょくし)」1928年(昭和3年)、速水御舟
御舟の代表作「炎舞」は言わずと知れた名画ですが、他に挙げた3点も超が付くほど必見です!
お次は、小林古径の作品をチョイスしてみました。
・「極楽井」1912年(大正元年)、小林古径、東京国立近代美術館所蔵 ※展示期間:5月20日~6月18日
・「出湯」1921年(大正10年)、小林古径、東京国立博物館所蔵 ※展示期間:6月27日~7月17日
・「果子」1936年(昭和11年)、小林古径 ※山種コレクションルームにて展示
・「赤絵鉢」小林古径、個人蔵 ※山種コレクションルームにて展示
・「竹雀」1937年(昭和12年)、小林古径 ※展示期間:5月20日~6月18日
※今回は山種美術館所蔵の古径作品が46点(37件)すべてが展示されます。ただ中には展示期間が限られているものもあるため、前もっと日程のチェックは大事!!
小林古径と速水御舟の比較展示は見逃せない!
今回の展覧会ですが私的に一番の見所は、御舟と古径の比較展示だと思っています。実は2人はほぼ同時期に生きた画家で、互いに接点があったのも注目!
※速水御舟(1894ー1936年)、小林古径(1883ー1957年)
交友関係にあって、互いに切磋琢磨していた仲だったようです。画風的に似ている部分もあれば、もちろん個性のある2人ですから違いもあった。今回の展覧会では、交互に展示されたりするので違いを探してみるのも面白い!ただ中には違いが分からないくらい似ている作品もあります。例えば「桔梗」や「鶴」はかなり似ています。専門家が見れば一目瞭然だろうけど、素人の私からすると…。古径と御舟のちょっとした違いが分かるには、まだまだ数年はかかりそうですね。
改めて日本画の奥の深さを感じた今日この頃でした。^^
鑑賞ポイントは、”線”を意識して古径作品を観てほしい!
小林古径は、人一倍”線”に対するこだわりが強い画家でした。それは彼のこんな言葉にも表れています。
いい線と悪い線
添わない線ーつまりその点によって分かれる。私は常に線はその内側ー言葉は足りないがーを描かねばならぬと思っている。内側という言葉よりは内に籠っているものを描かねばならぬと言いかえてもいい。だから線は立体的なものも現わせば、平面的なものも現わす。それは双方とも線にとっては真実である。
出典元:「東洋画の線」『美術新論』八巻三号 昭和八年三月
特に「果子」という作品は一番分かりやすいと思いますが、様々な線を使い分けて描いていたのが見て取れます。ぜひ古径の作品を観る際は、”線”に注目して観てほしいと思います。
「小林古径と速水御舟」展の開催概要について
いくら私がおススメとレビューしても、実際にあなたの目で鑑賞するのが一番です。
というわけで、開催概要も載せておきます。
(特別展)【 小林古径 生誕140年記念 小林古径と速水御舟 】 ・会期:2023年5月20日(土)~7月17日(月)まで |
JR恵比寿駅西口、地下鉄恵比寿駅2番出口から歩いて約10分
※近く(山種美術館より歩いて約10分ほど)に「ヨックモックミュージアム」や「岡本太郎記念館」もあるので、次いでに立ち寄ってみるのもイイと思います。
・「ヨックモックミュージアム」…ピカソのセラミック作品を中心に展示する美術館
・「岡本太郎記念館」…岡本太郎の自宅兼アトリエ
今回開催の「小林古径と速水御舟」展は、最近山種美術館で開催した展覧会の中で、一番良い仕上がりだったかな!?と思っています。ぜひ一度足を運んでほしいと思います。
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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