- 2016-10-9
- Artist (画家について), Word (用語)
- コメントを書く
2016年で生誕300年を迎えた京の画家”伊藤若冲”ですが、特別展「生誕300年記念 若冲展」の行列は凄かったですね。4時間待ちとかって、これまでの絵画展なんかではあまりなかった現象です。もちろん今まで若冲の名が全く挙がらなかったわけではないですが、なぜか最近の注目ぶりは凄いものがあります。
さて、最近になって異常なほど若冲が評価されるに至った経緯には、もちろん生誕300年という節目もあると思います。私が思うに、今の時代だからこそ若冲の作品の良さ分かる様になったからだと思っているわけですが…。
今回はなぜ今になって若冲が再評価されるようになったのか?その理由と、若冲の作品の特徴について迫ってみました。
伊藤若冲は、なぜ今になって再評価されたの!?
若冲が残した言葉”私は理解されるまでに、1000年のときを待つ”
この言葉の真意は本人でないので分かりませんが、私が思うに”若冲自身、自分の作品が本当に理解されるのに1000年くらい要するだろう”と考えていたと思うのです。結果的に1000年ではなく、300年くらいの年数で理解されるに至ったわけですが…。
さて、なぜ今になって再評価されたのか?私なりに分析してみました。
1、今の時代だからこそ分かる若冲の技法の凄さ!
1つ目の理由は、卓越した技法が挙げられると思っています。
※後半の若冲作品の特徴・技法ではもう少し詳しく話します。
確かに誰が見てもすぐ分かる凄い技法もあるけれど、若冲の技法は専門家による検証や科学的な分析を要するものが多いと思っています。今の時代の様にある程度の科学的検証が可能になったからこそ、若冲の隠れた技法の数々がハッキリとしてきたわけですね。
例えば、若冲の作品でよく使用されている裏彩色や細密的な描写は、伝統的技法だったりするのですぐ分かります。でも使用されている顔料、例えば「群魚図」には、人口顔料プルシアンブルーが使用されたりと、当時では入手困難と言われる顔料が用いられている。さらには、絵の中に自然界の法則ともいえる”フルクタル構造”が含まれているのも驚愕な発見!若冲は自然や動物などしっかりと観察しながら、意図的に自然界に隠された”法則”を使っていたわけです。
※フルクタル構造とは、全体を拡大した部分も、全体と同じ規則性によって成り立っているという法則。例えば、樹木の枝分かれも、拡大していくと同じ枝分かれの繰り返しによって成り立っているという考え方です。
こう見ていくと、若冲は画家としての側面だけじゃなく、科学者、哲学的思考も持っていたって事なのか?そう考えたら、若冲という人物はいかに凄い画家だったのかが分かってくるわけです。
2、アメリカ人蒐集家プライス氏の評価がきっかけ!
若冲の再評価の立役者”ジョー・D・プライス”氏の影響も相当だと思っています。現在若冲の絵画展が度々開催されていますが、プライス・コレクションという名を目にしませんか?彼は日本画蒐集家で、早くから伊藤若冲という画家に関心を持っていたそうです。
1971年に日本で「若冲展」が開催されたわけですが、その前からプライス氏は若冲の作品を理解し蒐集していた。最近の若冲ブームの火付け役に”美術史家辻”先生の功績も大きいと思いますが、やっぱりジョー・プライス氏のコレクションが広く出回ったのも大きいと思うのです。多くの人に若冲の作品を見る機会を与えてくれた!このきっかけは若冲ブームには大きなきっかけでしょうね。
3、生誕300年という節目
プライス氏がいち早く若冲に惚れ込み作品を蒐集した。そして科学的検証によって若冲作品の隠された技法や法則も分かってきた。専門家や蒐集家が若冲を高く再評価したのも大きな理由でしょうけど、一番は時期的に生誕300年という節目は大きなきっかけでしょうね。多くの人が若冲作品を観て、その凄さと技術に驚かされた。さらに若冲を再評価するに至ったと考えると、この300年という節目は大きな要因だろうと思います。実際私も若冲の作品を観たけれど、知れば知るほど、見れば観るほど凄い!と分かってきます。まさに僕も若冲作品を再評価したわけです。(素人目線ですけどね!^^)
私のコメントとして
正直言って、若冲の再評価については個人的に不満もあります。というのも、若冲は日本の画家でありながら、その凄さに気付き真っ先に評価したのがアメリカ人の日本画蒐集家だったから。本来なら日本人が再評価すべきところ、そうでなかったからです。日本の浮世絵もそうだけれど、外国人の方が高く評価しているわけで、日本人として恥ずかしいというか…。
若冲を高く評価してくれるのは嬉しいけれど、本来なら日本人がしっかりと日本人の画家に目を向けないといけないと思うわけです。
作品の特徴や技法を分かりやすく解説!
伊藤若冲の代表作「動植綵絵」の様な色鮮やかな作品もあれば、対照的に水墨画もある。さらには、モザイク風の作品も制作しています。江戸時代でここまで多才な画家って他にいただろうか??私的には名前が思い浮かばないわけですが、それだけ当時でも異色だったのでは?と思うのです。
それでも若冲作品を見渡していくと、共通する特徴もあれば技法もあると思うのです。ここでは、特徴として4つ挙げてみました。
1、若冲の卓越した”細密描写”
まず伊藤若冲の凄さの1つが”細密描写”にあると言います。
例えば鳥の羽を描いたとしても、羽の線一本一本が精密に一寸の狂いもなく描かれている。実1粒1粒を描く際も、それぞれ明度を変えて描き全体的な奥行きを出しています。この一切の手抜きがなく、端から端まですべてに全力で描いている点は必見ですね。
西洋画では、主役となる対象物は細密的に描き、対照的に背景はあっさりと描く事で遠近感や奥行きを表現したりします。でも若冲に至っては、すべてに妥協することなく、こだわって描いています。逆に明度や裏彩色という技法を用いて、全体の奥行きを表現したりと、若冲なりの技法と工夫で作品が構成されている。まさに、伊藤若冲のすべてが作品に凝縮されているわけですね!!
私はこの原寸大の画集
『若冲原寸美術館 – 100%Jakuchu!』を見て実感した事ですが…。
(中身は見せられないので、言葉での説明になります。)
2、現在にも通じるユーモアとデザイン性!
江戸時代の画家とはいえ、伊藤若冲の作品は本当にユーモア溢れた作品を制作しています。この「」でもそうですが、何ともユニークで、今のアニメでも登場してきそうですよね。当時の京で若冲が実際にゾウを見たのか?というと、疑問ですが、思うに人からの話や過去の作品を参考にしたり、模写したものだろうと思っています。
3、若冲の”卓越した描写技法!”
伊藤若冲の技法や技術の多彩さも凄いと言われています。
例えば、若冲はこんな技法までも使っています。
”裏彩色”という技法です。
…裏彩色とは表からと裏から絵具を塗る事。
元々中国絵画などでよく使用された技法だそうですが、若冲はこの”裏彩色”をより応用させていたと言います。
伊藤若冲「老松孔雀図」(1757‐1760年頃)
この絵で特に注目は鶴の描写です。
鶴を覆う白い羽の中に金色が透けて見えると言います。
ここには裏彩色で黄土が使われているから。表面から見ると、羽の白色がより輝いて見えるわけです。
裏彩色で裏に色を施すことで、
表から絹の縫い目の隙間を通して裏面の色が見える様になるわけです。
これによって色の深みや微妙な色合い、
それから見る角度によって色合いも変わってくるわけです。
・顔料と染料の巧みな使い分け!
伊藤若冲は顔料と染料の性質を理解していたのが作品から分かります。
”顔料”は粉末状を液体にして絵具として使用するもの。染み込ませるというより上に載せるイメージの絵の具です。対して染料は日本伝統の着物でもある様に、染み込む性質を利用して色を付けるもの。
柔らかい質感を表現するために上から染料の赤色を載せているといいます。
色を乗せると染み込ませるでは、色合いや深さが微妙に違ってくる。色を染み込ませる事で、葉っぱや花びらの薄く柔らかい感じを表現しり、逆に花粉などは色を載せる事で、
厚みや立体感を表現したとも言われています。この風合いの表現のために、絵具を使い分けるこだわり!ここまでする画家って、これまで歴史的に見てもいただろうか?パッと見では分からない小さい箇所にも、こだわって絵具を使い分けたり技法を駆使していたわけですね!ある意味異常ともいえる若冲のこだわり様です。
4、自然界の法則を見抜き、意図的に取り入れた若冲の本質力!
私なりに分かりやすくかみ砕いて書いたので、
専門家の人から言わせたらちょっと違う!
って言われるかもしれませんが、
多少なりとも若冲の技法や
スゴさが分かってもらえたかと思います。
実はここまで挙げてきたどの技法も、
すべては”実物描写”を目指したからだと思いますが…。
単に”絵が好きで、絵を極めたかったから”なのか…。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。