ボッティチェリの「地獄図(地獄の見取り図)」を、迫って解説!

地獄の門

 

本当にこれが”地獄の世界”なのだろうか??

 

サンドロ・ボッティチェリの「地獄図(見取り図)」は、迫って見ると物凄いリアルで臨場感に溢れています!現在バチカン教皇庁図書館に所蔵されていて、日本ではなかなか見る事が出来ない名画の1つ。私自身本物を目にした事がないので、もし来日した暁には、真っ先に見に行きたいですね!

もちろんモチーフの元となったダンテの『神曲』についても、ある程度知っておくのは前提ですが…。

 

このページの目次

①「地獄図」は、パッと見はなんてことはない!?

②ボッティチェリの描いた地獄の世界を迫って観よう!
 1、「地獄の第七圏」 …ここには、どのような地獄が描かれているの?
 2、「地獄の第八圏」 …ここには、どのような地獄が描かれているの?

③”地獄”は9つの地獄から構成されている!?

今回一番ポイントは②の地獄の世界を迫って観よう!です。ダンテ『神曲』を部分的に意訳しながら、「地獄の見取り図」に迫って解説してみました。ボッティチェリの「地獄図」が臨場感たっぷりで味わえると思います。実は細部の地獄描写は、結構リアルなので必見ですよ!

 

 

地獄図」は、パッと見はなんてことはない!?

「地獄図(地獄の見取り図)」(1490年)サンドロ・ボッティチェッリ

「地獄図(地獄の見取り図)」(1490年)サンドロ・ボッティチェッリ

・1490年、32×47cm、ヴァチカン教皇庁図書館所蔵。

さて、サンドロ・ボッティチェリの「地獄図」は、ダンテの思い描いた地獄の世界を忠実に再現した作品です。拷問で責めたてられている罪人たちの悲惨な様子、うめき声や泣き叫ぶ声が今にも聞こえてきそうな、壮絶極まりない様子が描かれています。

とはいえ、「地獄図」は32×47cmと比較的小さいサイズなだけに、パッと見の印象は怖い地獄の世界が描かれている様には見えない。でもボッティチェリの作風は、繊細な描写が特徴の画家でもあります。リアルな地獄の世界を見ようと思ったら、より迫って見るに限るのでは?と思っています。

今回は↓下記で、ルーペで見た様なリアルな地獄の世界をいくつか取り上げているので、ぜひ、ダンテ『神曲』のストーリーと照らし合せて見てほしいと思います。誰も行った事がない地獄の世界を創作したダンテの想像力?もさることながら、リアルに再現するボッティチェリの画力にも驚くと思います。私はつくづくボッティチェリってスゲ~と感じてしまいましたが…。

 

ここでCheck!
”地獄の世界”はどんな形だと思いますか??

サンドロ・ボッティチェリの「地獄図」は、一般的に”漏斗(ろうと)の形”と言われます。最近の人は漏斗状と言って、分かるのかな?もしくは円錐と言った方が分かりやすいでしょうか?ちなみに美術評論家の中野京子さんは”すり鉢状”という例えを使っていました。私はアリ地獄という印象ですが、あなたはどんな形に見えますか??地獄図を見る際は、こういった想像力を使って見た方が、より臨場感も増してくると思います。

 

 

ボッティチェリの描いた地獄の世界を迫って観よう!

地獄の炎

小さいながら、「地獄図(見取り図)」には、罪人たちの責め立てられる悲惨な光景…、拷問を受け逃げ惑う姿や、氷漬けにされ死んだ目をした罪人たちの表情が鮮明に描かれています。

本来なら、本物を目の前にしてルーペでじっくりと観察したいものですが、バチカン図書館にあるのでそう簡単に見る事は難しい。最近はネット上で手軽に「地獄図」を見る事も出来ますが、絵を見ただけだとどんな地獄が描かれているのか分からなかったりします。ボッティチェリの「地獄図」は『神曲』を再現した絵なので、出来れば『神曲』を理解したいところですが…、でも如何せん、原文は結構難しいんですよね~。

というわけで、『神曲』の世界を私なりに分かりやすく意訳しながら、「地獄図」のある場面をクローズアップで紹介していこうと思います。ぜひ、想像力を働かせて見てほしいと思います。すると、結構怖い地獄の世界が見えてくると思いますよ!!

 

1、「地獄の第七圏」 …ここには、どのような地獄が描かれているの?

「地獄図、『神曲』第15歌より」(1490年)サンドロ・ボッティチェッリ

「地獄図、『神曲』第15歌より」(1490年)サンドロ・ボッティチェッリ

「地獄図」のある場面をクローズアップしたのが上の図。ここには、『神曲』第15歌の地獄の様子が描かれています。一体どんな罪を犯したのか?そして、罪人たちはどんな拷問を受けているのか??

この”地獄の第七圏”を見て、あなたはどのような地獄が描かれているか分かりますか!?

 

第七圏3層目…

ウェルギリウスに連れられ、ダンテは土手を歩み続けていく。すると、向こうから亡者の群れが土手に沿ってやってきて、私たちをじろじろと見てきます。

すると、ある男が私(ダンテ)の裾を掴み、「なんという事だ!」と叫んできたのです。 私はその男の顔をよ~く見てみると、確かに顔は焼けただれてはいたが、はっきりと見覚えのある顔だったのです。「ああ!ブルネット先生、なぜあなたがここに?」 するとブルネット・ラティーノは言いました。「懐かしいな~。 わが息子よ!もし差し支えなければ、少しの間だけ一緒に同行してもいいかな?」

私は「もちろんです。」と答えます。 しかしブルネットは「しかし、一瞬でも歩みを止めると、私は100年間、灼熱の炎から起き上がる事ができなくなる。」 と。そしてダンテとブルネットは少しの間だけ、話をする事に…。

ブルネット「なぜ、君(ダンテ)はここに?」
ダンテ「私が深い谷に迷い込んだ時、この方(ウェルギリウス)が道案内をしてくださったのです。」
ブルネット「私の見立てが正しければ、君は栄光を手にする男だ。もし私が早死にしなかったら、私は君を導けたかもしれないのに…」
ダンテ「有難うございます。私は先生の言葉を心に刻み、これからも先生の言葉を世に伝えてまいります。」

もっと話はしたかったが、向こうに見える熱砂から、煙が立ち上がるのが見えてきた。 ブルネットはダンテに背を向け、去っていくのだった。

※ダンテの『神曲』地獄篇、第15歌の一部を分かりやすく意訳

『神曲』地獄篇第15歌、18-29行、ギュスターヴ・ドレ

『神曲』地獄篇第15歌、18-29行、ギュスターヴ・ドレ

『神曲』地獄篇15歌で描かれている地獄は、ここではブルネットが登場してきますが、地獄の拷問を受けている描写があまりされていない様です。ただ、随所随所でヒントはあって、例えば顔が焼けただれている歩みを止めると灼熱の炎から起き上がる事が出来なくなる。つまり、ここは炎の雨が降り注ぐ地獄なのが読み取れます。

 

ここでCheck!
では、一体ブルネットはどんな罪でこの地獄に堕ちたのか?第7圏なので、罪としては重い部類になるはず。よっぽど大罪を犯したのだろうと思いますよね。実は、ブルネットが”男色者”だったのが理由。つまり同性愛という罪を犯したのです。当時キリスト教において同性愛は大罪だったそうです。

『神曲』地獄篇で描かれている罪人たちの罪は、当時の宗教観や価値観が大きく反映しているのが面白い点!単なる物語としてではなく、当時の価値観をうかがい知れる一つの資料的役割もあると思っています。そう考えると、『神曲』って奥の深い書物なのが分かりますよね!!

 

 

2、「地獄の第八圏」 …ここには、どのような地獄が描かれているの?

「地獄図、『神曲』第18歌より」(1490年)サンドロ・ボッティチェッリ

「地獄図、『神曲』第18歌より」(1490年)サンドロ・ボッティチェッリ

所々に角を生やした鬼?の様な魔物が描かれていますね。鞭で打たれ、そして逃げ惑う罪人たち..。

この”地獄の第八圏”を見て、あなたはどのような地獄に映りますか!?

 

第八圏…

地獄には悪の嚢(マルボルジェ)と呼ばれる場所があり、その底にはさらに10の嚢(ボルジェ)に分かれていた。 私はウェルギリウスに従って歩いていると、右手に悲惨な光景が広がっていた。

ここは第一の嚢(ボルジェ)これまで見た事がない悲惨で、責め立てられる拷問者たちの姿があった。そして、その底の方では裸の罪人たちがうごめいていた。 角を生やした悪魔が大きな鞭で罪人を容赦なく鞭打ち、そして罪人たちは逃げ回っているというあり様だった。

その時、ダンテはある男と出くわします。「お前は、あのヴェネディーコ・カッチャネミーコだな!!」 この男は、以前自身の妹を伯爵に売り飛ばそうと画策した張本人。そこに一匹の悪魔が、カッチャネミーコに対し、「とっとと行け!この女衒め!」と怒鳴りつけ鞭を打っています。私はウェルギリウスに従い、この場所から離れていったのです。

それから、少し歩くと岩下が穴になっている場所に辿りついた。 ウェルギリウスは、私に言います。「あそこにいる風格のある男を見よ!」 「あれはイアソンという名で、勇気と知恵でコルキス人から羊を奪った男だ。ある時イアソンは、レムノス島に立ち寄った。以前ここでは、女性たちが男を皆殺しにした場所だった。イアソンは島の女王ヒュプシピュレーをたぶらかし、そして身籠もった彼女を一人残して島に置き去りにした。こうした罪でイアソンはこの地獄に堕ちたのだ。 ここに居るのは、女性をたぶらかした者たちだ。」そして、2人は先を急いだのだった。

そして、第二の嚢(ボルジェ)に近づくと、下から立ち上る悪臭と苦しそうなうめき声が聞こえてきた。2人は、ボルジェを見渡せる高い場所まで昇り、そして下に目を下すと…。糞尿に漬けられている罪人たちが見えた。全身糞まみれで、顔の見わけも付かないほどに

その時、糞まみれの男が私に怒鳴ってきた。「俺がこの地獄に堕ちた理由は、自身の舌が災いしての事。お世辞とおべんちゃらを使って生きてきたのが原因さ!」と…。

※ダンテの『神曲』地獄篇、第18歌の一部を分かりやすく意訳

『神曲』地獄篇第18歌、38行、ギュスターヴ・ドレ

『神曲』地獄篇第18歌、38行、ギュスターヴ・ドレ

『神曲』地獄篇18歌の地獄には、女たらしの罪人は鞭を打たれ、おべっかやごますりの罪人たちは糞尿に漬けられる拷問が描かれています。想像するだけでも胸糞悪くなりますね。個人的には、第7圏の炎の雨の方がよっぽど苦しそうに感じますが、一体どちらの拷問の方が惨いのだろう??

とにかく、第8圏は、地獄の世界でも重い方の部類に入ります。当時の価値観として、女たらしやおべっかといった行動は、悪い行いだったという事でしょうか。

 

ここでCheck!
さて、どうだったでしょう??

普通にドアップの画像を見るより、ストーリーと照らし合わせながら見ると、より臨場感も増してくると思います。もちろん、一番臨場感を味わいたいなら、実際に地獄に行くに限るでしょうけど…^^

今回は”七圏”と”八圏の地獄”を挙げてみましたが、実際の『神曲』では、計9つの地獄から構成されています。「地獄図」はダンテの『神曲』が基本となっているだけに、どうしても『神曲』の内容を知る事は必要!でも原文だと相当ムズイ感じなので、分かりやすいモノから触れるのがベストだろうと思います。ちなみに、私がおススメの書籍はこちらなので、参考にしてみてはいかがでしょうか?

 

ダンテ『神曲』が分かる!おススメの本は?
読みはじめたらとまらないダンテ『神曲』(青春文庫)
やさしいダンテ<神曲>(角川文庫)
※個人的には左側の「読みはじめたらとまらないダンテ『神曲』」がおススメ!

結構分かりやすい内容なので、大まかなストーリーは理解できると思います。

 

 

 

”地獄”は9つの地獄から構成されている!?

地獄へようこそ!

ボッティチェリの「地獄図」には、計9つの地獄の世界が描かれています。

犯した罪の重さで、それぞれの地獄に振り分けられる。ふと”最後の審判”を思い浮かべてしまいましたが、実は地獄はキリスト教とも密接に関わっていたりします。私が思う『神曲』の最大の魅力は、まさにこれです!

『神曲』で書かれている地獄から、ダンテの生きていた時代の価値観や善悪、つまり当時の生き方の指標が見えてくるからです。

 

「地獄図(地獄の見取り図)」(1490年)サンドロ・ボッティチェッリ

「地獄図(地獄の見取り図)」(1490年)サンドロ・ボッティチェッリ

 

犯した罪から、当時の生き方の指標が垣間見れる!!

このポイントを頭に入れながら、9つの地獄の大まかな概要を見てみると、より深みも増してくると思います。

第一圏…”辺獄(リンボ)”の地獄。洗礼を受けなかった者は、永遠に時が過ぎるのを待つだけの世界。
第二圏…”肉欲の罪”を犯した者は、激しい暴風によって吹き流される。
第三圏…”大食いの罪”を犯した者は、永遠にケルベロスによって食いちぎられる。
第四圏…”ケチな者浪費家”は、重りを転がしては、互いに罵倒しあう。
第五圏…”怒り狂った者(傲慢)”は、沼地に漬け込まれながら、互いに怒号を発する地獄。
第六圏…”異端者”は炎と熱によって、真っ赤に熱せられた墓に葬られる。
第七圏…”暴力の罪”を犯した者が行く地獄。他人や自分、神に対する暴力者は、痛みの地獄が待っている。
第八圏…”悪意”を持って罪を犯した者が行く地獄
第九圏…”裏切り者”は、寒さで歯を鳴らし、氷漬けにされる拷問が待ち構えている。

 

まず、一番上の第一圏は、”辺獄(リンボ)”と呼ばれる地獄です。”辺獄”…洗礼の恵みを受けていない者。つまり神を信じていない人間です。洗礼の恵みを受けていないだけで、何もなく永遠に時を過ごすことになる地獄。ただ時間が過ぎるのを待つだけなのも辛い感じがしますが、ここも一応地獄になります。そして、下へ行くほど重い罪人に対する拷問も激しくなっていきます。

 

『神曲』地獄篇第34歌、サンドロ・ボッティチェッリ

『神曲』地獄篇第34歌、サンドロ・ボッティチェッリ

一番下に位置するのが第九圏裏切者”が行く地獄。特に最下層はコキュートスと呼ばれる氷漬けの地獄で、涙まで凍る寒さだとか。全身が氷漬けにされる極寒の世界で、堕天使”ルシファー(サタン)”が待ち構えています。頭には3つの顔を持ち、翼を生やした天使。でも、見た目はあまりにも醜い。羽ばたく度に冷たい風を起こし、辺り一面を凍り付かせているそうです。

 


『神曲』地獄篇は、読み進めていけばいくほど、重い地獄の旅路が待っています。現在ダンテの『神曲』は、歴史上最高の文学作品と称されていますが、それも納得してしまいます。少なからず現在の地獄の世界観を作った事に間違いはないわけですから。誰も地獄には行きたいでしょうが、でも細部まで地獄の世界を見たくなるのは、好奇心が故なのだろうか?とにかく、ボッティチェリの「地獄図」を味わうには、ルーペを通して細部に迫って見るに限ると思います。

 

ちなみに、ボッティチェリの「地獄図」が取り上げられた映画もあります。結構有名な作品ですが、映画『インフェルノ(Inferno)』は観た事がありますか?この映画で「地獄図」の細部描写がちょっと登場してくるので、これも結構見物ですよ!!

 

 
 
 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

 

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