『西洋美術解読事典』で”静物画”を調べてみたら、解説の深さに驚き!

『西洋美術解読事典』より

 

西洋美術について調べる際、参考として『西洋美術解読事典』を使用する場合があります。

ほとんどが宗教や歴史関連についてですが、今回はちょっとお試しで静物画で調べてみたのです。

 

 

ると、解説の充実度と深さ!に震えましたね。^^

 

『西洋美術解読事典』より

『西洋美術解読事典』は、単なる用語の解説をする辞書とは違い、背景や美術の鑑賞ポイントまで教えてくれます。私の様にある程度擦れた人間にも、実にタマラナイ一冊!なわけです。なかなか他を見渡しても、こういった辞書ってないですからね。

 

おそらく美術好きな人だったら、僕の気持ちが分かってもらえるかと思います。

 

目次

静物画を楽しむためのSTEP1 … ヴァニタスとは?
静物画を楽しむためのSTEP2 … 解釈!
静物画を楽しむためのSTEP3 … あなた次第!
まとめ

 

絵画鑑賞初心者~中級者の方も参考になるよう、今回はちょっと趣向を凝らして、段階的に静物画の楽しみ方について話していこうと思います。

 

 

 

 

 

静物画を楽しむための STEP1 … ヴァニタスとは?

なるほど!(We See!)

ずは”静物画を楽しむステップ1”と称し、基本的な事から話していこうかと。

静物画はどの辞書でもそうですが、一般的に「目の前の対象物(静物)を描いた絵画ジャンル」です。

おそらく知っている人も多いでしょうけど、歴史的に「静物画」は格の低い絵画と見られていて、なかなか評価される事がありませんでした。それが絵画のジャンルとして、ある程度の地位を確立したのは17世紀オランダと言われています。

 

静物画 still life

静物画は17世紀のオランダおよびフランドル絵画において成立した。この時期の静物画のモティーフには現世の無常や死の不可避性(「ヴァニタス」すなわち「人生の虚しさ」の主題)、またはこれをさらに展開して、キリスト教的な受難と復活についての寓意が秘められていることがしばしばある。こうした意味は、象徴的意味を付与された、大半は馴染み深い日常の品々によって伝えられている。

「ヴァニタス」(羅 vanitas、原義は「うつろ」)とは「無益」とか「虚栄心」ではなく、現生の財産のはかなさや空しさを意味している。静物画にこうした主題が潜んでいることを最も確実な形で示すのは、死すべき宿命をわれわれに想起させる「メメント・モリ」(mementomori)「死を忘れるな」)のモティーフとしての頭蓋骨である。~

・出典元:『西洋美術解読事典』

 

『西洋美術解読事典』では、”静物画は17世紀のオランダおよびフランドル絵画において成立した。”とあります。

 

そして絵画として一定の地位を獲得できた経緯には、ヴァニタスが大きな要因だったようです。

分かりやすく言えば、目の前の物を描いた静物画に寓意的な要素を盛り込んだ絵画と言ったら分かりやすいでしょうか。

 

「孔雀と果物、ザリガニと鳥の静物」アドリアーン・ファン・ユトレヒト

「孔雀と果物、ザリガニと鳥の静物」アドリアーン・ファン・ユトレヒト

・116×152.5cm、カンヴァスに油彩、個人蔵

 

「花と髑髏のある静物」(1642年頃)アドリアーン・ファン・ユトレヒト

「花と髑髏のある静物」(1642年頃)アドリアーン・ファン・ユトレヒト

・67×86cm、カンヴァスに油彩、個人蔵

絵に頭蓋骨髑髏が描かれているのが分かりますよね。

一見不気味にも見えますが、でもじっくり観ていると絵に深みも感じられる。

髑髏(ドクロ)は”人間はいつかは死ぬ 人生の虚しさ”を表わしているわけです。”人生には限りがある”という教訓的な意味合いもあれば、宗教画的な感じもある。単に目の前の物を描いた静物画とは、一線を画しているのが分かると思います。

ある意味”寓意画”と言っても、間違いはないと思っています。

 

17世紀のオランダは「黄金時代」と呼ばれていて、芸術の分野でも多くの巨匠を輩出していました。そんな時代に”格”の低かった静物画を、絵画として成立させた。当時の静物画の画家たちの功績は、計り知れないと思っているわけです。

中でも「ヴァニタスの存在感は大きかったでしょうね。静物画に寓意的な深みを盛り込んだからです。

 

 

 

静物画を楽しむための STEP2 … 解釈!

なるほど!(We See!)

ここまでの話では、「ヴァニタス」=髑髏(ドクロ)と思う人も多いでしょう。

 

も、それだけではありません。

『西洋美術解読事典』にもありますが、象徴する物は実に様々あります。

時計や剣などの武器、さらには宝石だってあります。実は私が思うに、これが「ヴァニタス」のオモシロい部分だと思っています。

 

砂時計や時計や髑髏は時の経過を、覆された杯、水差し、椀などの容器は「ヴァニタス」の文字通り意味である「うつろさ」を示唆している。冠、笏(しゃ)、宝石、財布、硬貨は死が運び去ってしまう現世の権力や財産を象徴する(世界は地球儀によって表わされる)。剣などの武器は、武力が死に対する防御を果たし得ぬことを示している。こうした文脈の中では花、とりわけ露のしずくを付けたものは、短命および腐朽の象徴である。~

・出典元:『西洋美術解読事典』の静物画の解説より一部

 

花や時計、武器が描かれた静物画でも、”時間の経過”という意味が付与されれば、「ヴァニタス」になるわけです。

 

 

レって、もしかしたら

私の極端な意見になりますが、”人生の短さ”や”死”を象徴するものなら、何でもイイって事!?

これが私が思う「ヴァニタス」にオモシロさ!です。つまり観る者の解釈に依るところが大きいわけですね。

 

「ヴァニタスの静物」(1669年)エドワールト・コリール

「ヴァニタスの静物」(1669年)エドワールト・コリール

・33×46.5cm、カンヴァスに油彩、デンバー美術館所蔵

一般的に宗教画では、「アトリビュート」が描かれる場合がよくあります。

聖母マリアなら、それが百合(ユリ)の花だったり、イエスを抱えていたり。ある物や人が、人物を特定するヒントになっています。キーワードから人物の特定が出来るわけです。

 

「ヴァニタスの静物」(1665年)エドワールト・コリール

「ヴァニタスの静物」(1665年)エドワールト・コリール

・104×109cm、カンヴァスに油彩、個人蔵

でもヴァニタスの場合は、特定するキーワードではない。

どういった意味が付与されているか?これが大きなポイントの様です。物から”短命”、”死”、”儚さ”が読み取れれば、これもれっきとした「ヴァニタス」に成りえるから。

 

らには、葡萄酒と一塊のパンという「最後の晩餐」を意味する様な物が描かれていれば、キリスト教(つまり宗教画)としても読み取れる。

 

ここまで話を広げてしまうと、静物画に描かれている物をどう解釈するかで、「ヴァニタス」にもなれば、「宗教画」にもなるという事!?この記事を書いている私でさえ、静物画の奥深さを感じる一方、正直言って訳が分からなくなってきますね…。

まとめるなら私たちの解釈次第という事だろうと思います。

 

 

 

静物画を楽しむための STEP3 … あなた次第!

私が思う醍醐味

静物画を楽しむステップ3は、あなた次第!です。

静物画は私たちの解釈次第で、「ヴァニタス」にも何にでもなるから。

 

実は『西洋美術解読事典』でも、似たような解説がされていました。参考に挙げてみようと思います。

最後に、静物画におけるこうしたモティーフの存在は、必ずしも画家が寓意表現を意図した証拠とはならぬことを付記しておきたい。それらは特定の伝統的なモティーフが慣れ親しまれ、画家たちのレパートリーとして定着していたということ以上の何の意味も有していないかもしれないのである。

・出典元:『西洋美術解読事典』の静物画の解説より一部

 

画家が寓意的な意味を持って描いたものではなくても、僕らの勝手な解釈で意味を付与してしまえば「ヴァニタス」になる。

これだと「ヴァニタス」そのものが曖昧というか、ハッキリしませんよね!?

 

 

も私は、あえてハッキリさせる必要はないと思っています。

というのも、絵画の楽しみ方自体が鑑賞者の解釈に依るものだからです。

 

「花と時計のある静物」(1663年)ウィレム・ファン・アールスト

「花と時計のある静物」(1663年)ウィレム・ファン・アールスト

・62.5×49cm、カンヴァスに油彩、マウリッツハイス美術館所蔵

例えば上の「花と時計のある静物」だってそうです。

一見すると花の静物画ですが、一般的に「花の一生は短い」と言われています。それに時計という”時間の経過”を象徴する物が描かれているわけですから、これも「ヴァニタス」になると思います。

 

でも、もしかしたら画家は、単に花を描いただけかもしれない。

僕らの解釈で「ヴァニタス」と定義付けしているだけかもしれないから。

 

 

 

とめると…

考え

静物画は私たちの解釈次第でいか様にもなる!

静物画を楽しむステップ3”とはなっていますが、一番大事な楽しむポイント私たちの解釈!というわけです。

 

別にリンゴの静物画を観て、あなたが「これもヴァニタスだ!」と思っても、別に間違いじゃない。リンゴも時間の経過とともに腐りますからね。

 

「果物の静物」(1660年頃)ウィレム・ファン・アールスト

「果物の静物」(1660年頃)ウィレム・ファン・アールスト

・47×52cm、カンヴァスに油彩、個人蔵

花が時間と共に枯れていくのと同じ様に、果物だって時間の経過と共に腐るわけですから。

だから静物画もそうですが、絵を観てあなたなりに解釈するのが一番というわけです。思うにこれが絵画鑑賞の一番の楽しみ方だろうと思っています。

 

 

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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