- 2023-1-28
- Enjoy This (観てほしい絵画展), Impression (絵画展の感想)
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これほどまでに質と量の伴った佐伯祐三作品を観れる機会は、なかなかないと思います。
先日、東京ステーションギャラリーで「佐伯祐三 自画像としての風景」展を観てきましたが、私の率直な感想は、”やっぱり良かった!!” これに尽きますね。
佐伯祐三は個人的に好きな画家なので、前々から楽しみにしていた画家でしたが、目の前でずら~と展示されると、本当に嬉しくなるというか心が湧きます。特に今回の「佐伯祐三」展は、関東に住んでいる人なら、ぜひ行ってほしい絵画展です。大阪中ノ島美術館の作品も多いので、普段なかなかお目にかかれない作品が多数見れるから。
【 佐伯祐三 自画像としての風景 】 (東京開催)…東京ステーションギャラリーにて ・会期:2023年1月21日(土)~4月2日(日) (大阪開催)…大阪中之島美術館にて ・会期:2023年4月15日(土)~6月25日(日) |
東京ステーションギャラリーと大阪中之島美術館の巡回開催になっています。ぜひ、試しに行ってみてもイイと思います。
まるで命を削って描いた様な、枠をはみ出した荒々しさ!
私が特に惹かれる佐伯祐三の魅力!それはまるで命を削って描いた様な、枠をはみ出した荒々しい作風です。佐伯は30歳という若さで亡くなってしまったけれど、まるで自分の命が短いことを分かっていたのか?命を削る想いで描いた作品は、私的にはファン・ゴッホとダブって見えてしまいます。それだけに、ちょっと作風に重い感じはあるけれど、一度見たら忘れられない存在感は必見ですね。
特に2度目の渡仏時の作品は、もう二度と日本の土は踏めないだろう…、そんな覚悟が詰まっている様で、私は好きなのです。

「立てる自画像」(1924年)佐伯祐三
・80.5×54.8cm、カンヴァスに油彩、大阪中之島美術館所蔵
まず、真っ先に登場するのが1924年に描いた自画像。
さて、ここでちょっと異様さを感じませんか?なぜ顔を塗りつぶしているのだろう?と。もちろん画家なので、気に入らないから塗りつぶしたのだろうけど、一体どんな理由で?実はこの絵の裏側には「夜のノートルダム(マント=ラ=ジョリ)」が描かれています。2014年と言えば、最初のパリ滞在中に描いた作品です。自分の画風に悩んでいた時期らしいので、おそらく佐伯なりの葛藤や悩みがあったのかもしれないですね。
ちなみに、私はこの自画像を見た瞬間、ルソーの自画像を思い浮かべてしまったのですが、雰囲気が似ていると思いませんか??
↑これは参考に挙げているので、実際は展示されていません。
1度目の渡仏
佐伯祐三、1度目の渡仏は1924年1月~1926年1月頃。約2年間の滞在でした。でもこのパリの経験は、その後の佐伯の人生に大きな影響を与えたのは間違いないでしょうね。特にこの年の6月、里見勝蔵に同行して訪問したモーリス・ドラマンクからの一言は相当響いたと思います。自身が描いた裸婦画を見せて、「生命感がない!アカデミック!」と否定されたのです。佐伯祐三が自身の画風を見つめなおす、大きな分岐点となったからです。

「レ・ジュ・ド・ノエル」(1925年)佐伯祐三
・71.7×59.4cm、カンヴァスに油彩、大阪中之島美術館所蔵

「靴屋(コルドヌリ)」(1925年)佐伯祐三
・72.5×59.0cm、カンヴァスに油彩、アーティゾン美術館所蔵
佐伯はドラマンクからの一言に触発され、自身の画風を見直し始めるわけですが、その答えが↑上の「靴屋(コルドヌリ)」シリーズになると思います。数点描いた「靴屋(コルドヌリ)」の1枚が、サロン・ドートンヌで入選した事からも、佐伯は何かを掴んだのでは?と思えてならない。本来なら建物の全体を描いてもいいようなもの、壁と扉にクローズアップして描くって、ちょっと着眼点が違いますよね。
佐伯作品で、見てほしいポイント!
さて、佐伯作品で特に見てほしいポイントが、枠に収まり切れないくらいにクローズアップされた作風です。カンヴァスに収まり切れないくらいにデカデカと描くって、確かに佐伯が建物の質感を表現したいという意図もあったかもしれないけれど。私が思うに、自身の画家としての殻を飛び出したい!高みを目指した思いが作品に表現されているのかな~と。もちろん、その要因にはグラマンクからの一言があるとは思いますが…。
特に2度目の渡仏頃の作品はそれが顕著に出ている感じです。この「佐伯祐三展」では”枠をはみ出した作風”にポイントを置いて見るのも面白いと思います。
日本滞在時
1926年に佐伯はいったん日本へ戻ります。

「下落合風景」(1926年)佐伯祐三
・60.4×72.8cm、カンヴァスに油彩、大阪中之島美術館所蔵
現在新宿に「佐伯祐三アトリエ記念館」がありますが、ここは佐伯祐三の住んでいた家が元になっています。1度目の渡仏前までと帰国時に住んでいた場所で、実際に住んでいた期間としては4年くらい。この地を拠点に、佐伯は下落合の風景画を描いていますが、パリの風景画というイメージが強いだけに、私にとってはちょっと新鮮な感じがしてしまいますね。
2度目の渡仏
1927年8月頃、佐伯は2度目となるフランス”パリ”へ。
佐伯は持病もあったそうで、自身の寿命をある程度分かっていたのでは?と思うのです。もう二度と日本の土は踏めないだろう…。そんな覚悟が作品に詰まっている様で、私はこの時期の作品が特に好きなのです。

「新聞屋」(1927年)佐伯祐三
・73.6×60.2cm、カンヴァスに油彩、朝日新聞東京本社所蔵
今回特に目を惹いた1枚がこの「新聞屋」です。描きたいものにクローズアップし、大胆で豪快な構図と筆遣い。もちろん枠をはみ出した作風は健在で、これにプラスして佐伯の覚悟が加わっていると思うと、やっぱり2度目の渡仏時の作品は、見ごたえがありますね。

「靴屋」(1927年)佐伯祐三
・60.6×73.2cm、カンヴァスに油彩、大阪中之島美術館所蔵
靴職人の熱心に仕事に従事している様に、佐伯は見とれてしまったのだろうか?

「カフェ・レストラン」(1928年)佐伯祐三
・59.9×73.0cm、カンヴァスに油彩、大阪中之島美術館所蔵
この「カフェ・レストラン」も今回特に印象に残っている作品です。線の描き方に佐伯のセンスを感じませんか?個人的に部屋に飾りたいな~と思う1枚ですね。

「テラスの広告」(1927年)佐伯祐三
・51.5×63.4cm、カンヴァスに油彩、アーティゾン美術館所蔵
荒々しさと尖った感のある作風なのに、でもスタイリッシュなセンスを感じてしまう。もうちょっと分かりやすく言えば、”豪快に見えて、でも品がある”と言った具合でしょうか。佐伯祐三の画風とパリは、相性がイイと感じてしまう瞬間ですね。もちろん佐伯自身も感じていたと思います。”パリで描きたい!”という強い想いが、2度目の渡仏行きの理由だったから。
佐伯祐三だけに”静物画”は新鮮!!
個人的に嬉しいのが、静物画が数点見れた事でしょうか。佐伯祐三と言えば、風景画家というイメージがあります。今回もそうですが、下落合やパリの風景画が多く展示されていましたから。でも静物画というと、あまりイメージはないのです。確かにこれまで見た事はありますが、ここまで勢ぞろいするのも珍しいと思います。

「蟹」(1926年頃)佐伯祐三
・31.8×41.0cm、カンヴァスに油彩、個人蔵(大阪中之島美術館寄託)
この「蟹」は茹でたズワイガニを描いたそうです。素早い筆さばきと豪快なタッチで、たった30分という短い時間で仕上げた作品。蟹の殻の感じがよく表現されている感じです。佐伯は普通に静物画を描いても上手いな~というのが分かります。
ちなみに、今回見れた静物画はこの「蟹」以外に6点ほどありました。
・「テレピン油のある静物」(1925年頃)大阪中之島美術館所蔵
・「絵具箱」(1925‐26年頃)大塚中之島美術館所蔵※前期のみの展示
・「ポスターとローソク立て」(1925年頃)和歌山県立近代美術館
・「にんじん」(1926年頃)高島匡夫氏蔵
・「鯖」(1926年頃)新宿区立新宿歴史博物館所蔵
・「薔薇」(1925年頃)ENEOS株式会社所蔵
今回展示された作品は、1925年~1928年の約4年間で描かれた作品がほとんど!もちろん今回展示以外にも多数作品を制作しているわけだから、この4年間の制作意欲は相当高かったのが感じられます。30歳という年齢で亡くなったため、画家としての人生は5~6年ほど??でも画家人生の密度で言えば、濃かったと思います。
”佐伯祐三”一色で染まった特別展「佐伯祐三自画像としての風景」。なかなかこれだけの量と質を一度に観れるのは、おそらくそうはないと思います。風景画あり、人物画あり、静物画ありと佐伯の描いた作品ジャンルのある程度を押さえているのでは?多くは大阪中之島美術館所蔵のものですが、つくづくこの美術館は、イイ作品を持っているな~と思いますね。
東京ステーションギャラリーでの開催は2023年4月2日まで。その後は、大阪中之島美術館でも開催します。ぜひ、時間を作って行ってみてはどうでしょうか?
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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