- 2023-2-8
- Enjoy This (観てほしい絵画展), For you (”Art”なイイ話)
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私の中で佐伯祐三の「立てる自画像」は、ある意味”傑作”と呼べる代物!!
傑作というよりも、重要作品という表現の方が適切でしょうけど。
つまり何が言いたいかというと、佐伯を語る上で重要な作品だという事です。そして完成作品ではないというのも大きなポイントでしょうね。未完成?失敗作?かは人によって解釈が分かれるだろうけど、完成作ではないのに佐伯祐三を代表する作品になっているのも、実にオモシロイ!!
完成していないのに、なぜ佐伯を代表する作品なのか??
それは、佐伯祐三の葛藤が読み取れるから!!
まさにこれに尽きますね。
・80.5×54.8cm、カンヴァスに油彩、大阪中之島美術館所蔵
おそらく絵自体は一度完成させていると思います。でもその後に顔が塗りつぶされています。というか、削り取っている様にも見えますね。もし普通に顔を描いていないだけの状態(未完成)だったら、ここまで有名にはならなかったでしょう。顔が故意に塗りつぶされている点が大きなポイントでしょうか。
普通に考えて作品が気に入らなかったら、塗りつぶして描き直すか、もしくは破って捨てているでしょう。でも顔だけを塗りつぶしているのは明らかにおかしい。描いた顔が気に入らなかったのか?それとも作品自体が気に入らなかったのか??理由はともあれ、画家”佐伯祐三”の葛藤が読み取れるのが一番の醍醐味だと思うのです。
佐伯祐三の葛藤?…
では、佐伯は一体何に対して葛藤があったのだろうか??
どんな葛藤があったのか?
作品「立てる自画像」が描かれる、約1年前にさかのぼって話をしていこうと思います。
1923年3月、佐伯は東京美術学校西洋画科を卒業します。
そして翌年1924年1月に、フランスのパリに渡ります。同年6月30日、佐伯は里見勝三と共にフォーヴィスムの画家”モーリス・ド・ヴラマンク”を訪ねますが、ここで佐伯の画家人生を左右する出来事が起こります。ヴラマンクから「アカデミックめ!」と批判されてしまったのです。
※”アカデミック”の意味は「伝統的、古臭い、格式的」。
それまで佐伯は藤島武二に師事し、美術学校で西洋画を学んでいました。良くも悪くも伝統的というか、型にはまった画風だったのだろうと思います。対してヴラマンクはほぼ独学で絵画を学んでいった画家です。”フォーヴィスム”は野獣派とも言われていて、荒々しい野獣の様な画風が特徴。強烈な色彩感に荒々しいタッチは、伝統とは真逆な画風ですよね。そんなヴラマンクからすれば、格式ばった佐伯の画風は何の面白味も個性もなかったんでしょうね。
でもヴラマンクの一言があったおかげで、今の佐伯祐三があると思うので、私的にはいい意味での分岐点だったのでは?と思ったりもします。とにかく、この一言が佐伯の画風を大きく変えたのは間違いないでしょうね。
そんなヴラマンクとの出会いから、程なくして描かれたのが「立てる自画像」という作品だったのです。
ここまでの過程を見ると、一度は描いた自画像だったけれど、自分の納得のいくものではなかった。自分の目指すべき画風が描けない事への葛藤が読み取れるわけです。別に顔がカッコよく描けなかったとか、そういった類の理由ではないのは間違いないですね。
・80.5×54.5cm、カンヴァスに油彩、大阪中之島美術館所蔵
その証拠に、約1年後「立てる自画像」の裏側に「夜のノートルダム(マント=ラ=ジョリ)」が描かれています。↑作品を見て分かるように、荒々しいタッチが際立っていますね。夜の風景なので暗い色遣いなのは分かりますが、それでも言われないと何が描かれているのか分からないくらい豪快です。ちなみに佐伯はノートルダム教会の作品を数点描いていますが、どれも荒々しいタッチが特徴です。ただどれにも共通して言えるのが、石造りの質感が表現されている点でしょうか。豪快で荒々しいタッチから、ゴツゴツした壁の質感が見て取れませんか??
佐伯は以降、建物中心の作品を数多く制作しているけれど、どれも壁や建物の表情がしっかりと表現されているものばかり!そういった点からも、佐伯の目指すべき方向性が決まってきた事を証明する作品でもあると思うわけです。
・78.7×52.5cm、カンヴァスに油彩、大阪中之島美術館所蔵
↑これは佐伯が描いた他の「ノートルダム(マント=ラ=ジョリ)」です。現在は大阪中之島美術館に所蔵されています。こちらも2023年開催の「佐伯祐三展」で展示されているので、併せて見てほしいと思います。
とにかく同年(1925年)9月に、サロン・ドートンヌで作品「コルドヌリ(靴屋)」が入選した事からも、佐伯は何かしら掴んだ!と思えてならない。佐伯にとって「夜のノートル・ダム」がどれほど満足のいく作品だったか分からないけれど、少なくとも表の「立てる自画像」よりは満足のいく出来だったろうと思います。そう考えると「立てる自画像」は未完成ではなく失敗作だった。逆に「夜のノートル・ダム」は、完成品でそれなりに満足のいく作品だったのが分かりますよね。
しかし…、現在では失敗作だろう「立てる自画像」方が有名というか、代表作の一つとなっているのは皮肉ですね。もし佐伯が生きていたら、この事実にどう思っていただろうか?とにかく私も「立てる自画像」の方が代表作と思っています。別に有名だからというよりも、佐伯の葛藤が読み取れる作品だから。画家の葛藤や試行錯誤が読み見れる作品って、なかなかないですしね ^^。普段スケッチや素描、未完成の作品など観る事はあっても、顔を塗りつぶした状態の作品はなかなかお目にかかれない。そういう意味でもかなり貴重だろうと思います。
現在「立てる自画像」は特別展「佐伯祐三 - 自画像としての風景」で見る事が出来ます。2023年4月15日~6月25日まで、大阪中之島美術家で展示されます。まだ見ていない人は、ぜひ見てほしい!!表の自画像と裏側に描かれた「夜のノートルダム」の両方を鑑賞できる演出になっているので、必見ですよ!!
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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