- 2023-3-13
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日本ではキューピッドの名で知られる”愛の神”さまですが、絵画では”アモル(Amor)”や”クピド(Cupido)”、さらにはエロースと実に様々な名を持っています。別にどれが正しいというわけではないですが、色々な別名を持っている事は知っておいてほしいと思います。
絵画でも頻繁に登場してくる人物(神さま)で、描かれる時は決まって”愛”を意味するのもポイント!西洋画では、絶対に知っておいてほしい人物だろうと思っています。絵画通に一歩近づくためにも、それからロマンチストになるためにも、絶対に押さえてほしいですよね。
というわけで、今回はアモル(クピド)の絵画もいくつか挙げながら、私なりに解説していこうと思います。
まずは、クピド(アモル)について解説します!
Cupid …
クピドやクピードー、またスペイン語ではAmor”アモール”だったり、ギリシア語ではEros”エロス”と言われます。私たち日本人にとっては、英語読みの”キューピッド”が一番親しみのある名だと思います。
別にどれが正解というわけではなく、色々な呼び名がある事は知っておいてほしい!絵画では、色々な名で登場する事もあるからです。裏を返せば、様々な別名があるのは、それだけクピド(キューピッド)の存在が重要だって事を意味している証拠だと思うのです。
・116.9×76.9cm、カンヴァスに油彩、個人蔵
代表作「ヴィーナスの誕生」で有名なブグローが”キューピッド”を描くと、これほどまで可愛く美しくなるんですね。伝統的な描き方をベースとしながら、でもどことなく官能的でセクシーさもある。つくづくブグローと神話画の相性の良さを感じる瞬間ですね。
覚えてほしいクピドの誕生!
さて、愛の神で知られる”クピド”ですが、現在では愛の女神”アフロディーテ”と軍神”アレス”の間に生まれたとされています。おそらくこれが一般的に知られている話だと思います。
でも、神々の誕生や系譜とまとめた物語『神統記』では、ちょっと違います。『神統記』は紀元前700年頃に書かれたヘシオドスの著書で、世界の創造時に誕生した神(原初神)とされています。つまりギリシア神話に登場する神々の中でも、最も古く原点とも言える神というわけですね。
~ この世界は最初カオス(混沌)だけだった。その後に大地母神”ガイア”が、そして冥界の神”タルタロス”が誕生し、次に愛の神”エロス”が生まれた。 ~という話です。
・91.5×130.5cm、カンヴァスに油彩、ワルシャワ国立美術館所蔵
・72.0×105.0cm、カンヴァスに油彩、パラティーナ美術館所蔵
同じ”眠るクピド(アモール)”を描いても、画家によって全く画風が異なるのは面白いですね。カラヴァッジョの方はより明暗の対比が強く、神と言うよりも人間らしさが強く表現されている感じがします。
さて、この様にクピドがメインの人物として描かれる事もありますが、西洋画を色々と見ていくと、意外と脇役的な存在として描かれる事の方が多い印象です。よく、主役の端っこの方に登場したりしますよね。そして、絵の中で脇役としてクピドが描かれる場合は、絵全体を味付けする非常に重要な要素だったりもします。私的には”クピドは名脇役!”と表現していますが、それは、次で話していこうと思います。
絵画で描かれるクピドは、なくてはならない名脇役!?
絵画、特に神話画では、頻繁にクピド(キューピッド)が登場してきます。先ほどちょっと触れましたが、描かれる時は、決まって”愛”を意味しているのは忘れてはならないポイントです。主役として描かれる事は少なくても、でも主役級くらい大切な存在のクピド。ある意味、名脇役と言ってもいいくらい存在なのです。
絵画で登場する時は、決まって”愛”を意味するって!?
さて、私の持っている絵画辞典は、この様に説明されていました。
~ ヘレニズムおよびルネサンス以後の美術では盛んに取り上げられた。多くの美術作品ではクピドの存在は象徴的なものである。物語の中で役割をもたずとも、ただ主題が愛に関わることを想起させるために登場するのである。それゆえにユピテルが乙女たちを誘惑する様々な場面でクピドは恋人たちの周囲を翔び回っているし、他方アドニスがウェヌスに別れを告げる場面では、クピドはアドニスの心が愛以外のものに向けられていることを示して、木の下でまどろんでいる。クピドがマルスの武器で遊んでいたり、ヘラクレスの棍棒を削って弓を作っていたりするのは、強者を武装解除する愛の力を象徴している。しばしば目隠しをして表わされるのは、単に愛が盲目であるからだけではなく、罪に結びついた暗闇への暗示でもある。クピドはその活動を承認しない神々、とりわけ純潔を代表するディアナとミネルウァによって罰せられる。当初ギリシア人にとって、エロスとは人間の本性の中にある最深最強の力を意味していたのだが、時代が下ると美術では親しみやすく可愛い有翼の少年へと縮小されてしまう。ルネサンスにはクピドは一般に有翼の少年として描かれた。しかしバロック、ロココの画家たちはしばしば丸々太った幼児として表わしている。 ~以下省略
・出典元:西洋美術解読事典
特に重要そうな部分は、太字で示しましたが、クピドは描かれるテーマによって、様々な”愛”を意味しているのが分かりますよね。
極端に言ってしまえば、絵画でクピドがどういった描かれ方をしているかで、どの様な”愛”を意味しているのかが分かるわけですね。具体的に作品挙げながら、分かりやすく解説していこうと思います。
「ウェヌスとアドニス(Venus and Adonis)」
・186×207cm、カンヴァスに油彩、プラド美術館所蔵
(描かれている人物)
・ウェヌス(Venus)…ローマ神話では”愛と美の女神”と呼ばれ、ギリシア神話では”アプロディーテー(アフロディーテ)”と同一視されています。日本ではヴィーナス(英語読み)の方が馴染みがあると思います。
・アドニス(Adonis)…ギリシア神話に登場する、愛と美の女神アフロディーテに愛された美少年。
アドニスは手に槍を持ち、今にも狩りに出かけようとしている。ヴィーナスはそんなアドニスを引き止めようとしていますが…、結局アドニスはヴィーナスの元を去ってしまうのでした。その後ヴィーナスの不安通り、猪に突き殺され亡くなってしまいます。
ポイントはクピドがどういった姿で描かれているか!?
この絵では、木の下でたたずんでいるクピドが描かれています。”愛の神”と呼ばれるクピドが、動かずにじっとしている。つまり、愛が動かず満たされていない状態を示しているわけですね。アドニスはヴィーナスへの愛が薄れ、他のものへと心が向かっている事を示しているのです。絵画のタイトルが「ウェヌスとアドニス」と、名前だけしか書かれていなくても、クピドがどういった姿で描かれているかで”ウェヌスの元を去るアドニス”を描いる作品なのが分かるわけですね。いかにクピドの存在が重要なのか?この絵からも分かると思います。先ほど私がクピド(キューピッド)は、なくてはならない名脇役!と言った理由はコレなのです。
「マルスとヴィーナス(Mars and Venus)」
・154.9×213.7cm、カンヴァスに油彩、ボストン美術館所蔵
(描かれている人物)
・マルス(Mars)…オリュンポス十二神の一人で、ローマ神話では”戦と農耕の神”と呼ばれています。ギリシア神話の”アーレス”と同一視される。
・ウェヌス(Venus)…先ほども説明しましたが、日本ではヴィーナスの名で知られる”愛と美の女神”です。
攻撃的で勇敢な戦士”マルス”ですが、攻撃的な性格にため時として嫌われることも多かった神。でもヴィーナスからはとても愛されていました。この絵では、ヴィーナスと戯れるマルスが描かれています。見ての通り、あちこちに武器が置かれ、マルスからは全く攻撃的な感じがしないと思います。ヴィーナスと愛し合い、”愛”によって支配されたマルスが表現されているわけです。
作品名が「マルスとヴィーナス」でも、マルスの武器で遊ぶクピドが描かれている事で、武装解除し愛に生きるマルスが読み取れる!ここでも、クピドはイイ味を出しているのが分かると思います。まさに”クピドは名脇役”ですね。
「目隠しをされているクピド」
・116×184cm、カンヴァスに油彩、ボルゲーゼ美術館所蔵
2人のクピドの間に、挟まれる形で座っているヴィーナス。特に注目したいのが真ん中で目隠しをされたクピドが描かれている点です。解釈は様々あるそうですが、一般的には”盲目的な愛”を意味しているそうです。恋によって物事の良し悪しの判断が出来なくなる状態を”恋は盲目”と言ったりしますが、この絵は盲目的な愛は危険だと助言しているとも言われています。右側で2人の女性が弓と矢を持っている事からも、危険性を暗示しているのが分かりますよね。
さて、この「ヴィーナスによって目隠しをされるクピド」という作品は、神話画ではあるけれど、同時に寓意画という側面を持っていたりします。神話の人物を登場させる事で、”盲目的な愛は危険だよ!”と、忠告的な意味合いを持っているわけですね。
とはいっても、人を好きになってしまったら、目の前しか見えなくなる。いくら忠告されても、どうしようもないと思いませんか??(私の実体験を元に)
まとめ
クピドが主人公として描かれていなくても、絵にはなくてはならない存在なのが分かったと思います。改めて”クピドは名脇役!”だと思いませんか!?画の中で、クピドがどういった姿で描かれているか?ここに着目して、これから絵を見ていくと、より深く作品を味わえると思います。
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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