- 2023-3-8
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”愛”を描いた作品は様々あるけれど、パオロとフランチェスカ(Paolo and Francesca)ほど切なく悲しい愛ってあるだろうか!?
一見すると、とても純愛に見えるのに、ストーリーを知ってしまうと悲劇にしか見えない。しかも内容は現代のサスペンスドラマにも通じる感じで、非常に興味をそそられてしまいます。かなり昔の話にも関わらず、実に良く出来ているな~とさえ思ってしまう。多くの画家が作品の題材としてチョイスする理由も分からないでもないですね。
ダンテ『神曲』にさりげなく登場したり、先日開催した「ルーヴル美術館展 愛を描く」でも展示された悲恋。今後も様々な場面で見る機会もあるでしょうから、この機会に「パオロとフランチェスカ」のストーリーは押さえてほしいと思います。
「パオロとフランチェスカ」は、現代でも通用するドラマ
実に切ないというか、悲しいというか…。
私が初めて”パオロとフランチェスカ”を知ったのは、ダンテの『神曲』がきっかけでした。暴風によって吹きすさぶ地獄へ堕とされ、永延と叩きつけられ漂い続ける2人。地獄という悲惨な状況でありながら、それでも愛し合う2人の姿がとても印象的で、どことなく純愛というかロマンチックにも見えてしまう。(ロマンチストな私にとっては、タマラナイ場面ですね。)
でも、”パオロとフランチェスカ”の話を知ってしまうと、その印象も逆転してしまいます。現代版サスペンスドラマになりそうな話で、物凄く切なく悲しいストーリーになっている。読むたびに思いますが、やるせない気持ちになってしまいます。
でも文学作品として見たら、傑作と言っても過言ではないと思う内容です。もし私が画家だったら、間違いなく”パオロとフランチェスカ”をモチーフに絵を描いていたでしょう。
それだけ、心揺さぶられる話だと思うから。
そんな心を揺さぶる2人の話を、今回は『西洋美術解読事典』を参考に見ていこうと思います。
パオロとフランチェスカ Paolo and Francesca(ダンテ『神曲』地獄篇5)
フランチェスカ・ダ・リミニ(1288頃没)はリミニの城主で不具のジャンチョット・マラテスタに嫁した。フランチェスカは義弟のパオロと恋に落ち(それは一緒に本を読んでいたときだという)、離れ難い仲となる。ジャンチョットはある日2人が一緒にいたところを不意打ちし、恋人たちを刺し殺した。ダンテはパオロおよびフランチェスカの兄弟を知っていたので、恋人たちを『神曲』に登場させたのである。2人は他の史上名高い悲劇の恋人たちと共に、地獄の第二圏を風に吹かれて永遠に漂うという罰を受けている。この主題は19世紀のロマン主義の画家に愛好された。恋人たちは坐って読書しているか、あるいは本をなげうって抱き合っている。2人が地獄の中にいて、ダンテとウェルギリウスがこれを見ているという表現もある。
・出典元:西洋美術解読事典
政略結婚させられた女性フランチェスカですが、どうしても相手の男性を好きにはなれなかった。城主ジャンチョットは不具(体の一部に障害があったり、具合が悪い事)で、しかも容姿も非常に悪かったそうです。別に容姿が悪かろうが、恋愛して好きになれば関係ないとは思うけれど。騙されて結婚されられたわけです。フランチェスカにしてみれば、たまったものではありません。そして経緯はどうあれ義弟パオロと恋に落ちてしまったのです。
結果的に不倫にはなるけれど、でも私はフランチェスカに同情というか肩入れしてしまいますね。それに経験談になりますが”人を好きになるって、どうしようもできないですからね…。”
・98×227cm、カンヴァスに油彩、アッカデミア・カッラーラ美術館所蔵
もちろん2人の関係は、夫ジャンチョットにバレてしまいます。パオロとフランチェスカは殺されてしまった。ここまでの話を見る限り、何とも切ないですね。絵画でもよく描かれる場面ですが、ストーリーを知った上で見ると、本当にいたたまれない気持ちになります。
でも話はこれで終わりません。
『神曲』の著者ダンテは少なからず2人と接点があったそうで、パオロとフランチェスカを『神曲』に登場させてしまいます。しかも愛欲の罪によって2人を、吹きすさぶ暴風の地獄へ堕としてしまった。いくら不倫という罪を犯したとはいえ、悲劇的な死を遂げてしまった2人を、さらに地獄へ突き落すってひどすぎる!と思うでしょう。でも『神曲』を見る限りそうでもなく、逆に2人に救いを与えている様にも見えます。
パオロとフランチェスカに救いを与えている!?
これはダンテの『神曲』を見るのが一番分かりやすいと思います。
『神曲』を読むと分かる!? パオロとフランチェスカへの想い
ダンテは『神曲』にパオロとフランチェスカを登場させています。地獄の暴風が吹きすさぶ”愛欲の地獄”へ、2人を堕としてしまったのです。いくら不倫という罪を犯してしまったとはいえ、話を聞く限り不憫とした言いようがない。悲劇的な死を遂げて、さらに地獄へ突き落すってひどすぎる!と思うでしょう。でも『神曲』を見る限り、そうではない様です。
逆に2人に救いを与えている様にも見えてしまう。
ここでダンテの『神曲』の一部分を挙げて見たいと思います。
ダンテとウェルギリウスは次なる地獄へとやってきてしまった。ここはあらゆる光が届かない場所。永遠と止む事のない暴風が、罪人たちを苦しめています。あらゆる方向へ吹き飛ばしては、互いに叩きつけられる。その度に阿鼻叫喚の叫び声が上がってきます。私(ダンテ)はここが愛欲の地獄だと一瞬で分かりました。
・・・
ダンテは遠くでもつれあう2人の姿を見つけました。暴風で流されるように、2人は近づいてきました。私はこんな話をします。「フランチェスカよ。あなたの心の苦しみや悲しみは痛いほど分かる。一体何があったというのだ?」
「惨めな時に、楽しい頃のことを思い出すほど辛いことはない。でも、話しましょう。」と。「私たちはランスロット卿の恋物語の本を読んでいました。この話はあまりにも私たちと似ていたため、つい夢中になって読み進めてしまったのです。私たちは互いに見つめ合っては、そして唇を交わしてしまった。これがきっかけなったのです。そしてこれ以上本を読むことはなくなったのです。」
私たち2人は意識を失い、崩れ落ちるように倒れ込んだのでした。
※パオロとフランチェスカの不倫を目撃され、夫ジャンチョットによって殺される場面が書かれています。
『神曲』地獄篇の5歌の一部分を、私なりにまとめてみました。
ちなみに、こちらが今回参考にさせてもらった書籍です。『神曲』は歴史的傑作とまで言われる文学作品ですが、如何せん原文で読もうにもかなり難しい。上の2冊は特に分かりやすいので、おススメですよ!
内容を見る限り、パオロとフランチェスカの地獄での悲惨さはあまり描かれていないのが分かりますよね。逆に地獄へ堕とされても、愛し合っている2人の姿が強調されているようです。
・171×239cm、カンヴァスに油彩、ルーヴル美術館所蔵
アリ・シェフェールの「ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊」
左側で抱き合っている男女がパオロ(男)とフランチェスカ(女)です。そして右側で赤い衣装を着た人物が『神曲』の著者のダンテ、奥に描かれているのがウェルギリウスになります。
地獄に堕ちても、強い絆で結ばれたパオロとフランチェスカの姿。悲劇的な死を遂げた2人に対して、何とか地獄では結ばれてほしい!アリ・シェフェールは、そんなダンテの気持ちが汲み取って描いたのかな?と思います。
・152.4×129.5cm、カンヴァスに油彩、Watts Gallery所蔵
絵画は画家の解釈がモロに表れると思っています。悲惨な状態で描かれる事もあれば、時にはチョイハッピーな感じで締めくくられる事もある。画家の解釈や想いで、いかようにも表現できるのが絵のオモシロさで魅力!でしょうね。もちろん、観る側にとっても同じことが言えます。観る人によって様々な解釈がされるからです。
・279.4×194.3cm、カンヴァスに油彩
絵画でも描かれる事が多い”パオロとフランチェスカ”の話ですが、個人的には地獄で抱き合うシーンが一番好きですね。確かに殺され地獄に堕とされるという悲惨な結末になってしまった2人ですが、でも最後だけでもハッピーエンド的にさせてあげたい!そういう気持ちはあります。悲惨なままで終わってほしくないですからね。
それに、地獄へ堕とされても愛し合っている恋人。この描写って、何だか素敵にも思えませんか?別に”愛”に飢えているというわけではありませんが、どんな形であれ純愛はイイものですよね。^^
ちなみに、ちょっと余談になりますが…
今回使用しているトップ画像(アイキャッチ画像)ですが、味のあるイラストだと思いませんか!?
版画を思わせる感じとコメディテイストな画風は、実にオモシロイと感じ使用してみました。これはshutterstockの画像で、私がよく使用しているイラストや画像を扱っているサイトです。料金は多少かかりますが、結構アーティステックな素材が多いので、私は好んで愛用しています。もちろん利用規約や使用範囲を考慮した上で、扱っていますが、興味のある方は参考にどうぞ!
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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