観る者を惑わす迷画!フラゴナールの「かんぬき(閂)」を解説!

かんぬき

 

絵画は時として、観る人に様々な解釈を持たせます。

 

例えば今回紹介するジャン・オノレ・フラゴナールかんぬきもその一つ。

”愛”をテーマにした作品で、情熱的な恋人同士を描いている様に見えるし、観る人によって一方的な求愛にも受け取れる。しかも、画のあちこちに惑わすネタが散らばっているだけに、解釈は人それぞれ分かれると思います。まさに”観る者を惑わす迷画”と言っても過言ではない!

というわけで、今回名画ではなく、”迷画”という字を使わせてもらったわけです。

 

現在ルーヴル美術館に所蔵されている作品で、3月1日から国立新美術館で開催の「ルーヴル美術館展 愛を描く」でも見る事が出来ます。ぜひ気になる方は今回の話を参考に、美術館に足を運んで見てほしいですね。

 

「かんぬき(閂)」(1780‐84年頃)ジャン=オノレ・フラゴナール

「かんぬき(閂)」(1780‐84年頃)ジャン=オノレ・フラゴナール

・73×93cm、カンヴァスに油彩、ルーヴル美術館所蔵

こちらが今回紹介する迷画ジャン・オノレ・フラゴナール(Jean Honore Fragonard)の「かんぬき」。

暗がりの部屋に居る若い2人の男女を描いた作品です。男性が女性を抱き寄せている様子が描かれていますが、でも女性は拒んでいる風にも見て取れる。しかも扉の鍵を閉めようとしている男性の姿から、2人の関係がどうなのか?気になってしまいますね。

 

あなたはこの絵を見て、男女の愛をどう解釈しますか?

若い男女の情熱的な愛?
それとも、単なる男の一方的な求愛に見えますか??

 

・・・

実はどういった愛を描いているのか、はっきりしていないそうです。

先ほどちょっと触れましたが、観る人の解釈に任せた、ある意味”迷画”です。人によって様々な解釈や意見が分かれそうな作品です。だから、”迷画”の鑑賞は楽しいわけですが…、反面、ドツボにはまると抜け出せなくなります。”迷画鑑賞は、正解を求めたら駄目!だと思うのです。ちょっと、いい加減くらいがイイのかもしれないですね。

 

さて、フラゴナールの「かんぬき」を観た私の解釈は、どうかというと…、

 

その前に、「かんぬき」の解説からしていこうと思います。

 

 

観る者を惑わす!?迷画「かんぬき」を解説!

何が見所!?

フラゴナールと言えば、”ロココ期”を代表する画家です。代表作「ぶらんこ」で有名ですが、繊細で柔らかい筆づかいと女性らしさのある作風は印象的ですよね。それに対して、「かんぬき」はどことなく古典的で、神話的な感じがしないでもない。フラゴナールの「かんぬき」は、様々な要素が組み合わさった作品に仕上がっているわけですね。

 

観る者を惑わす!? 迷画「かんぬき」の男女の描写は必見

「かんぬき(閂)※detail」(1780‐84年頃)ジャン=オノレ・フラゴナール

「かんぬき(閂)※detail」(1780‐84年頃)ジャン=オノレ・フラゴナール

まず迷画「かんぬき」で、注目してほしいポイントは、男女の関係を表現している描写に尽きると思います。

薄暗い部屋に居る若い男女の2人。男性は女性を強く抱き寄せながら、キス?を求めようとしています。でも、女性は右手でガードしながら嫌がる素振りを見せている。この時点で、男女の関係性に興味が注がれますね。一体この2人は強い愛で結ばれた恋人同士なのか?それとも、一方的に男性が愛を求めているだけなのか??

そこで、目線を右に向けてみると、男性は右手で扉に”かんぬき”をかけている様子が伺えます。女性が外へ出られない様にするためか?それとも、外から人が入ってこない様にしているのか??しかも、男女の2人と右手のかんぬきにスポットライトが当たっているのも注目です!光の当て方から、明らかに男女の関係性に目線が向くように仕向けている。まさに、観る人の解釈を惑わそうとしているとしか思えないのです。

私が思うに、観る者に様々な解釈を抱かせ、惑わそうとしている…、つまり挑戦的な迷画と言った感じでしょうか。

 

かんぬき
ちなみに、タイトルにもなっている”かんぬき”ですが、これは、一種の鍵(カギ)の様なものです。最近の人はちょっと馴染みのない言葉だと思います。僕の年代だと、ギリ分かる感じでしょうか。意味は「門や扉を閉ざすための棒状の部材」の事を言います。

 

 

 

さらに観る者を惑わす!?「かんぬき」の背景描写は必見!!

「かんぬき(閂)※detail」(1780‐84年頃)ジャン=オノレ・フラゴナール

「かんぬき(閂)※detail」(1780‐84年頃)ジャン=オノレ・フラゴナール

迷画「かんぬき」を、もうちょっと深堀してみようと思います。

男女を中心にスポットライトが当たっているだけに、どうしても目線は2人の行動と関係性に向かいがちです。でも、描かれている背景も実に興味深い!

まず、薄暗い部屋に描かれた赤いベッドカーテンが何とも魅惑的です。暗い中に、異常なほど存在感を見せる深みのある鮮烈な赤色!まるで抑えきれない情熱というか、性欲を表現しているかの様な…。(私個人の妄想もちょっとありますが。)

さらに、テーブルに描かれた赤いリンゴも深い意味がありそうですよね…。

ちなみに、リンゴは古くから禁断の果実と言われています。『旧約聖書』の創世記で、アダムとイヴが禁じられた果実を口にすると、裸でいる事を恥ずかしく感じるようになり、局部をイチジクの葉で隠すようになった。これを知った神は怒り、楽園から追放したという話です。

禁断の果実と言われるリンゴがテーブルに置かれている。小さく描かれているとはいえ、妙にリンゴに存在感が感じられるのです。何かを暗示しているかの様な…、深みもあるけれど、同時に何とも言えない怖さも感じられますよね。

 

ここでCheck!
ここまでを推理して、解釈すると…

「かんぬき」に描かれた男女の描写と背景。ここまでの話を読み解いていくと、私なりの解釈が見えてきました。(私の妄想も含まれますが)

それは、男性の女性へ対する一方的な愛情と性的欲求が見えてきますね。まるで若い時の私の様…^^。なんてね。

女性をちょっと強引に抱き寄せて、求愛を求める男性の姿は野生的にも見えるけれど、これも若かりし男性なら、誰しもある事かも!?まず散らかっている部屋の状況から、この場面の前に、ちょっとした女性の抵抗があったのかもしれませんね。実際に男性は今にもキスをしようとしているけれど、女性はそれを拒もうとしている。でも…、おそらくこの後に女性は身体を許してしまったと思います。つまり、禁断の行為を冒してしまった。それはテーブルに置かれた赤いリンゴが、暗示しているかの様です。

 

「かんぬき(閂)」(1780‐84年頃)ジャン=オノレ・フラゴナール

「かんぬき(閂)」(1780‐84年頃)フラゴナール

本来部屋に男女2人でいる時点で、ちょっとおかしい状況です。少なからず女性は男性にある程度心は許していたと思うのです。確かに心は許していたとはいえ、実際に男性から求愛されたら、少なからず嫌がる素振りはしてしまうもの??女性側にどんな理由があるか分からないけれど、でも、結果として禁断の行為に走ってしまった。ある程度私の妄想もありますが。

これは私の実体験ですが、若い時に付き合っていた恋人に、ちょっと強引に求愛を求めた事がありました。当時私は若かったので、性欲もそれなりに強かったわけですね。でも、相手は嫌がる素振りを見せてきた。恋人同士なのに、どうして!?と当時は思ったものでした。(女心は今でも分かりませんね。)でも、相手の女性も本能?に委ねたのか、結局僕らは交尾に走ってしまった。おそらく「かんぬき」に描かれた心理は、この私の実体験に近いものなのかな??

…という感じの私の解釈ですが、あながち間違っていないと思うのです。解釈は観る者によって様々なのだから!どんな解釈を抱こうが、どんな意見を持とうが正解はないからです。

正解は、描いたフラゴナールにしか分からない”わけだから。

 

惑わす

名画は時として、観る者に様々な解釈を持たせるもの。だから、絵画は面白いわけですが、これって、正解がないだけに、本当に迷宮入りな謎でもあるわけです。芸術鑑賞は、正解を求めるよりも、絵を見てどう解釈するかを楽しむもの。私みたいに妄想を膨らませて愉しむくらいがちょうどいいのかもしれませんね。

とにかく、2023年に開催の「ルーブル美術館展 愛を描く」はチェックしてほしいですね。今回紹介したフラゴナールの「かんぬき」が展示されますし、何よりも他にも名だたる名画があるから!

 

ルーヴル美術館展 愛を描く 】

(東京開催)…国立新美術館にて
・会期:2023年3月1日(水)~6月12日(月)
・時間:10:00~18:00(金曜、土曜は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで

(京都開催)…京都市京セラ美術館にて
・会期:2023年6月27日(火)~9月24日(日)

ぜひ、作品の前でじっくりと観ながら、あなたなりに解釈し妄想を膨らませてほしいと思います。

 

 

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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コメント

    • 匿名
    • 2023年 3月 03日

    男性の服装がラフであること、裸足であるということから「事後」の可能性も有りますよね。帰るように促す男性と帰りたくない女性、という図にも見えます。

    • サダ
    • 2023年 3月 03日

    コメントありがとうございます。本当に観る人によって、解釈が様々なのが面白いですね。

    • 匿名
    • 2023年 3月 04日

    閂はかけるもの、その思い込みが罠だとしたら…実は閂ははずそうとしていた。つまり引きこもり女性を強引に部屋の外に出そうとしていた。そう考えるとリンゴも瑞々しくもなくどこか干からびているような。あるいは人さらいの線も暗いリンゴは部屋主の未来の暗示かも。

    • サダ
    • 2023年 3月 05日

    コメントありがとうございます。その発想は全く思い浮かばなかったですね。閂はかけるものという思い込みを取っ払うと、そういった解釈も出来るのが面白い。色々と解釈の共有が出来てイイですね。^^

    • 匿名
    • 2023年 4月 09日

    TVの日曜美術館で「かんぬき」を観ながらふと、何処かで見た構図と思いました。
    自分の部屋の壁に飾ってある、ルーベンス「キリストの降架」!
    貴族の女性をキリストに、男性をヨハネに例えると、十字架のキリストをヨハネが支え降ろしている=現在の十字架にかけられているような生活から男性が女性を救い出すため閂を開けようとしている・・と見えてしまいます。
    リンゴは禁断の意味の他に、キリストの血やヨハネの纏っている真っ赤な衣服になぞらえている・・・
    ちょっと考え過ぎですかね(笑)
    見方によっていろいろ解釈できる迷画ですね。

    • サダ
    • 2023年 4月 09日

    コメントありがとうございます。その解釈は斬新ですね^^。時代的にも「かんぬき」は、100年後くらいに制作した作品なので、「キリストの降架」に寄せている可能性はあり得るかも!?ポーズが本当にそっくりなので、可能性もなきにしもあらずだと思います。

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