琳派を近代風に!図案家で画家の”神坂雪佳”を解説!

神坂雪佳

 

たまに画集を見る度に思う事があります。”最近のデザイナーの作品じゃないの!?”と。

約100年経った現在でも、神坂雪佳のデザインは全く古臭さを感じさせない。つくづく時代を先取りした図案家だな~と思うわけです。

 

神坂雪佳(Kamisaka Sekka)は江戸時代に栄えた琳派を、近代風にはアレンジして発展させた立役者です。確かに琳派のデザインや装飾性は現代にも通じると言われているけれど、それをモダン風へと昇華させ、展開させていった。最近海外から注目され、再評価されている理由も納得できますね。

 

今回はそんな近代琳派の立役者”神坂雪佳”の代表作と生い立ちを見ていこうと思います。

 

 

神坂雪佳の代表作

日本画、水墨画

図案家で画家、それから工芸デザインなど様々な分野まで手掛けた”神坂雪佳”。今で言うデザイナーの様な職業人だったと思います。

そんなマルチに活躍した神坂雪佳の代表作は?と問われると、正直言ってどれにしようか迷ってしまいます。幅広く活躍した図案家でもあるし、どれも質の高い作品ばかりだから…。でも個人的に挙げるとすれば”琳派”らしさがある「八つ橋」になると思います。

 

『百々世草』より「雪中竹」(1909年頃)神坂雪佳

『百々世草』より「八つ橋」(1909年頃)神坂雪佳

 

「⼋つ橋」は図案集『百々世草(ももよぐさ)』に収められている作品。

非常にシンプルな構図と、色彩豊かで鮮明な色遣い。しっかりと琳派らしさを受け継いでいるのが感じられますね。ちなみに、この「八つ橋」は2001年(平成13年)、エルメスの季刊誌「LE MONDE D`HERMESルモンド・エルメス)」の表紙を飾った作品。ファッションブランドのエルメスが、約100年前に制作された作品を表紙に採用するわけだから、よっぽどデザイン性がファッションにも通じると考えたのかもしれませんね。

それにしても本当に尾形光琳の燕子花を彷彿とさせますね。もし背景が金地で、屏風として制作されていたら…。ぜひ見てみたいな~と思ってしまいます。

 

『百々世草』より「雪中竹」(1909年頃)神坂雪佳

『百々世草』より「雪中竹」(1909年頃)神坂雪佳

 

そしてもう1点挙げてみたいのが「雪中竹」で、これも同じく図案集『百々世草』に収められている作品です。見所は何といっても、竹にクローズアップし、画面からはみ出た部分を切り取るという大胆な構図!浮世絵ではよく目にする構図です。「雪中竹」は、愛らしさとデザイン性と豪快さ!の3つが合わさった作品。神坂雪佳の画力の高さが見て取れると思いませんか!?

 

神坂雪佳 図案集「蝶千種・海路」
神坂はこの『百々世草』以外にも、『海路』や『蝶千種』などの図案集を制作しています。どのデザインもどこかで見た事のある愛らしさがあって、現代にも繋がる感じがしてならないのです。ぜひ一度は目を通してみるのもイイと思います。

 

 

 

神坂雪佳の生い立ちと作品

ZOOM

神坂雪佳”は明治から昭和にかけて活躍した図案家です。時代的に海外から様々な文化がやってきて、日本の芸術界が影響され大きく変化していった時期です。当時は西洋美術への憧れと研究で、西洋に渡った画家が多くいました。もちろん神坂も同じく西洋に行った人物の一人でした。

1901年に「グラスゴー国際博覧会」でイギリスに行きますが、この視察が神坂にとって大きな転換期になった様です。日本の装飾芸術の素晴らしさを再確認するきっかけになり、その後”琳派”に本格的に傾倒していったからです。

私が思うに、この海外経験があったからこそ、その後の神坂雪佳の活躍もあったのかな?と。

 

さて、簡単ですが生い立ちを見ていこうと思います。

 

神坂雪佳(本名は吉隆)

1866年(慶応2年)…
京都御所で警護役を務めていた武士の長男として生まれます。

慶応2年ですから、歴史的にちょうど幕末の時代になります。翌年(1867年)に大政奉還があり、15代将軍徳川慶喜が朝廷に政治の権限を返上する出来事があったりと、時代的が大きく変わろうとしている時代だったのです。

 

1881年(明治14年、神坂16歳の頃)…
四条派の日本画家”鈴木瑞彦(ずいげん)”に弟子入りします。

 

1890年…
装飾芸術に興味を持ち始め、図案家岸光景(きし こうけい)に師事します。岸光景は琳派にとても関心を持っていた人物でした。そんな影響もあって神坂も琳派に魅了されていきます。

 

1901年(明治34年)…
グラスゴー国際博覧会の視察のため、渡欧します。当時ヨーロッパは新しい芸術”アール・ヌーヴォー”が花開いた時期でした。神坂はエミール・ガレやアルフォンス・ミュシャなど、多くの作品と触れあったと言われています。

 

”アール・ヌーヴォー”スタイル
ちなみに、アール・ヌーヴォーは草や花、昆虫、動物などをモチーフにした曲線的で、装飾的なデザインが特徴。絵画、工芸、建築など様々な分野に取り入れられた様式でした。フランス語では”新しい芸術”を意味しますが、元をたどれば日本的芸術”ジャポニスム”が誕生のきっかけと言われています。

 

ここでCheck!
なぜ神坂雪佳は琳派の良さを再確認したの!?

ヨーロッパで盛んになった”アール・ヌーヴォー”という様式は、その後日本に大きな影響を与えます。でもアール・ヌーヴォーは元々日本美術”ジャポニスム”の影響を受け、そして生まれた芸術様式でした。神坂は西洋のアール・ヌーヴォー一辺倒になるのでなく、もっと日本の装飾芸術の素晴らしさを知るべきだと考えたのです。グラスゴー国際博覧会の視察は、神坂が日本の伝統的装飾芸術の素晴らしさを再確認する機会になったわけですね。

視察後、神坂はこれまで以上に琳派に傾倒し始めます。ただ、江戸からの琳派をそのまま引き継ぐというより、琳派の良さを残しつつ現代風にアレンジした感じです。神坂が近代琳派の立役者と言われる所以ですね。

 

こで参考にYou tube動画を紹介したいと思います。

これは富山県水墨美術館で開催した企画展「つながる琳派スピリット 神坂雪佳」展の紹介動画です。映像中に神坂の作品がいくつも登場してくるので、ぜひ参考に見てみるのもイイと思います。個人的に注目は味のある金魚の絵で有名な「金魚玉図(細見美術館所蔵)」と「四季草花図屏風(細見美術館所蔵)」です。

 

さて、神坂雪佳は琳派に傾倒し始めてからが、活動の最高潮と言ってもイイと思います。図案家から工芸デザイン、建築など活動の幅は多岐に渡ります。

神坂雪佳のその後の活動

1902年(明治35年)…図案集『海路』を出版(主に染織界に向けて制作)

1904年(明治37年)…図案集『蝶千種』を出版
 ※『海路』、『蝶千種』共に、鑑賞用としてではなく、不特定多数の工芸製作者に向けて出版されているのが特徴。様々な業界で自身のデザインが利用され、発展してほしいという思いが感じられます。

1907年(明治40年)…美術工芸団体「佳美会(かびかい)」を創立。
  ※1909年に佳都美会(かつみかい)へ、1919年に佳都美村へ改称

1909年(明治42年)…図案集『百々世草』(全3巻)出版。

1910年(明治43年)…富田誠らと共に、「競美会」を設立。

1935年(明治10年)…京都漆芸会が創立。顧問となる。

1936年(昭和11年)…京都市美術館評議員となる。

1937年(昭和12年)…フランスよりオフイシエーカンボジュ勲3等章を贈られる。

1938年(昭和13年)…「嵯峨野会」創立

1942年(昭和17年)に77歳で亡くなりますが、最後まで創作活動をし続けていたそうです。

 

ここまでの生い立ちを見ると、後半になると神坂は画家やデザイナーとしての活動より、京都の芸術界を引っ張る存在として活躍しています。

 

『百々世草』より「牧童」(1909年‐1910年頃)神坂雪佳

『百々世草』より「牧童」(1909年‐1910年頃)神坂雪佳

 

また神坂は画集も多数出版していて、どれも実用的なデザイン集という感じになっているのも特徴的。はしがきに”参考にして使用しても良い”と文面があるほどで、自身のデザインや作品を実用的に使ってほしいという柔軟な考えも見て取れたりします。今のデザインや工芸の礎を築いた存在と言っても過言ではないと思います。

 

 

締めに、神坂雪佳に対する私のコメント!

『百々世草』より「深見草」(1909年)神坂雪佳

『百々世草』より「深見草」(1909年)神坂雪佳

 

神坂雪佳の作品と生い立ちを見ていくと、江戸時代からの伝統的琳派と現代のデザインとを結びつけた、ある意味”つなぎ役”として生きた人物だったのかな~と。事実、今の僕らが見ても全く古臭さを感じさせないデザイン性だから。今のデザインの基礎を作った人物だと言っても過言ではないと思っています。そう思うと、最近再評価される理由も分かる気がします。

おそらく50年後も100年後も通用するデザインになるだろうと思います。

個人的に覚えておいてほしい人物なので、神坂雪佳の作品展など開催したら、ぜひ行って見てほしいと思います。

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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