- 2016-3-24
- Artwork (芸術作品), Word (用語)
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美術や神話に詳しくない人でも、ミケランジェロの彫刻「ダビデ像」は知っている人も多いかと。
左手には何やら武器らしき物を携えた、筋肉質な裸体。
そして何より印象的なのが、鬼気迫る感じで一点を見つめた男性の鋭い目線!
一度観たら、目に焼き付くくらいインパクトのある彫刻ですよね。さすがルネサンスの3大巨匠と言われる”ミケランジェロ”だけあると思います。
でも意外と、どういった場面を表現した作品かは、知らない人も多いのではないでしょうか。
今回は絵画や彫刻で頻繁に描かれる神話『ダビデとゴリアテ』について解説しながら、作品の深みに触れていこうと思います。
【 目次 】 ・「ダビデとゴリアテ」を解説する前に、押さえたいポイント! |
「ダビデとゴリアテ」を解説する前に、押さえたいポイント!
一般的に神話画は、物語の一場面を描いたものなので、ストーリーさえ理解すれば大丈夫!と思うでしょう。
でも神話画は教訓的な意味やメッセージが込められている場合も多いので、ポイントを絞ってストーリーを追った方が、より理解も味わいも深まるというもの。
今回の「ダビデ」も同じ事が言えます。
ダビデは『旧約聖書』の「サムエル記」に登場する人物。絵画では、ダビデとゴリアテの戦闘場面やダビデが勝利している場面が描かれる事が多い。
ちなみにミケランジェロの「ダビデ像」は、左手に持っている”投石器”という武器で、石を投げて巨人ゴリアテと戦おうとしている場面が描かれています。
さて、ここで一つ疑問に思った方も多いのでは!?
… 石を投げる武器で巨人と戦って、勝ち目はあるの!?と。
常識的に考えて、到底ダビデに勝ち目はないでしょう。
・125×101cm、カンヴァスに油彩、ボルゲーゼ美術館所蔵
というわけで私の注目ポイントは、ダビデが勝利した方法です!
”どういった経緯で、ダビデは巨人ゴリアテに勝ったのか?”
次から神話の話をしていくので、ポイントを押さえながら読み進めてほしいと思います。
神話『ダビデとゴリアテ(David and Goliath)』
時は、紀元前10世紀頃…
ペリシテ人とサウル王率いるイスラエル軍が敵対していた場面が舞台になっています。
ペリシテ軍から2メートルを超す巨大な戦士”ゴリアテ”が姿を現し、挑発。さすがのイスラエル軍も、怖がり意気消沈の状態でした。
参考として、ゴリアテの特徴について
~ ペリシテ人の戦士ゴリアテは2メートル40センチを超える大男で真鍮の兜を頭に戴き、鎖かたびらをまとい、脚には真鍮のすね当てをつけ、機(はた)の巻棒のような長い槍を持っていた。 ~
・出典元:『西洋美術解読事典』より、一部抜粋
そんな中、イスラエル軍に付き従っていた青年”ダビデ”が名乗りを上げます。
しかしダビデは羊使いのため、剣を持っていませんでした。代わりに自分の投石器を手に取り、ゴリアテに戦いを挑みます。
※投石器は羊を誘導したり、獣を追い払うために使っていた道具。
勝負は一瞬で終わりました。
ダビデとゴリアテは罵りながら近づきます。
ダビデは投石器を使い石を投げると、石がゴリアテの額に命中し倒れます。この瞬間を見逃さず、ダビデはゴリアテの剣を引き抜き、首を切り落とした。
この予想外の展開にペリシテ軍は敗走。イスラエル軍は勝利を収めたのでした。
この後も話は続きます…
ペリシテ人との戦いで戦功を挙げたダビデは一躍英雄に!
しかしサウル王は、ダビデの活躍に対し嫉妬。次第に恨みへと変わり、ダビデの命を狙うようになります。ダビデはサウル王の追手から逃げ、各地を転々とすることになるのでした。
そんなある時、サウル王は再度ペリシテ人と戦闘をする事に!しかし追い詰められたイスラエル軍は追い詰められ、サウル王は死亡。
ダビデはサウル王の死を嘆き悲しみ、イスラエル王国の大王となったのです。
神話『ダビデとゴリアテ』には、こんな教訓的な意味が!
最初に話しましたが、普通に考えて”石で巨人を倒すなんて無理!”と。
でも物語のストーリーや背景が分かると、なるほど!と納得できたのではないでしょうか。
石も思いっきり投げ付ければ、相当威力もありますし、それが巨人の額に思いっきり当たったら…。
いくら武装した巨人とはいえ、防具で覆われていない額は弱点だったわけです。
・156×170cm、カンヴァスに油彩、個人蔵
ところで、弱そうな者が巨人を倒す!と聞いて、ある言葉が思い浮かびませんか!?
”ジャイアント・キリング(Giant-killing)”という言葉です。
直訳すると”巨人殺し”で、一般的には”番狂わせ”といった意味になると思います。
実はこのジャイアント・キリングは、神話『ダビデとゴリアテ』から来ているとも言われています。
よくスポーツなどで使われる言葉で、戦力の上回る強者に対して、格下の弱者が勝利する!といった場面で使われると思います。時には”奇跡”と呼ばれたりもします。
でも神話『ダビデとゴリアテ』を見る限り、”奇跡”という一言で済ませるには、ちょっと足りないだろうと思います。
もし巨人ゴリアテに対し、ダビデが力で戦っていたら、おそらく負けていたでしょう。多少偶然もあったかもしれないけど、ウイークポイントを狙ったから勝利できた。
どんな強者と言われる者にも弱点はある。
そこに一点集中で攻め入れば、勝ち目もある!と。
神話をちょっと深掘りするだけで、教訓的な意味も読み取る!
これも神話の面白さであり、醍醐味ですね。
もちろん絵画を深く味わう事にも繋がりますから、知っておいて損はないと思います。
ストーリーを頭に入れながら、絵画作品を観てみよう!
神話『ダビデとゴリアテ』のストーリー、そして教訓的なメッセージが読み取れたところで、次は実際に絵画作品を観て味わってみましょう!
点と点が繋がり線になったわけですから、どういった場面が描かれているのかすぐに分かると思います。
・220×145cm、カンヴァスに油彩、ルーヴル美術館所蔵
・185.5×136cm、カンヴァスに油彩、アイルランド国立美術館所蔵
オラツィオ・ジェンティレスキ(Orazio Gentileschi、1563ー1639年)は、バロック期に活躍したイタリアの画家です。
作品からも分かると思いますが、ダビデが投石器でゴリアテを倒し、剣でとどめを刺そうとしている場面が描かれています。
・37×29cm、銅に油彩、ベルリン美術館所蔵
よ~く見ると、ダビデの足元には”ゴリアテの頭”が!
・100×130cm、カンヴァスに油彩、プラド美術館所蔵
バロックを代表するフランスの巨匠”ニコラ・プッサン(Nicolas Poussin)”の作品です。
「凱旋」の意味は、”戦いに勝利して帰って来る”を表わしています。
絵の中央には翼を生やした天使が立っていて、まるでダビデの勝利を祝しているかの様ですね。
・235×295cm、カンヴァスに油彩、ルーヴル美術館所蔵
戦士というよりも、普通の青年の姿で描かれる事が多い様ですね。
いくら巨人に勝利したとはいえ、元々ダビデは羊使いの人間です。
・27×38cm、パネルに油彩、バーゼル市立美術館所蔵
・106.9×159.2cm、カンヴァスに油彩、コペンハーゲン国立美術館所蔵
一人の青年が勇気と知恵で強者を倒し、そして英雄となった!
戦いに勝利すると、男は凛々しくなるって事でしょう。
神話画はストーリーが分かると、より味わい深いものになる!
今度美術館で展示される機会があれば、ぜひ今回の話を参考に鑑賞してみてはどうでしょう!?
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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