クールベの連作「波」、なぜ海を好んで描いたのか?私は何となく分かる。

フランス、ノルマンディー地域のエトルタ

 

ギュスターヴ・クールベの代表作に「(The Wave)」シリーズがあります。

 

調べるとクールベは実に多くの”海”の絵を描いていますが、興味深いことに、”波のみ”という作品が非常に多い!海と人物や船など、組み合わせて描く画家は多くいても、クールベの様に”波のみ”描く画家は、他にはなかなか見当たらない。なぜここまで”海”を描く事にこだわったのか?というか、執着したのか??

でも、海なし県に住んでいる私からすると、クールベの気持ちも何となく分からなくもないわけです。今回はクールベの海を描いた連作」をについて、私なりの考えも交えながら話していこうと思います。

 

 

私にとって、クールベの一番の「波」はこちらです!

コレが観たい!

ギュスターヴ・クールベが連作「波」を描いた時期は、大体1870年前後が多い様です。ちょうどフランスのノルマンディー地域にある”エトルタ”に居た頃です。エトルタはよく絵で描かれる事の多い場所で、事実クールベも多くの海を題材にした作品を制作しています。

例えば、私にとって一番馴染みのある「波」と言えば、国立西洋美術館所蔵のものですが、これもエトルタの海を描いた作品として知られています。

 

「波」(1870年頃)ギュスターヴ・クールベ

「波」(1870年頃)ギュスターヴ・クールベ

・72.5×92.5cm、カンヴァスに油彩、国立西洋美術館所蔵

荒れ狂う海の様子、岩にぶつかり大きな水しぶきを上げる波の豪快さ!観ているだけで、その場にいるかの様な臨場感を味わえてしまう。ありのままを描こうとしたクールベらしい作品だと思いませんか??これが点描画だったら、まずこういった臨場感を味わうのは難しいと思います。国立西洋美術館の「波」は、松方コレクションとして常設展でもたまに展示されています。

 

ここでCheck!
国立西洋美術館の「波」を解説!

素人の私が言うのもなんですが、シンプルな絵ほど、画家の画力が問われると思っています。例えばこの国立西洋美術館の「波」だってそうです。見た所、嵐の波を描いたに過ぎないけれど、でも高い技術が注ぎ込まれているそうです。国立西洋美術館の公式HPでも見る事が出来ますが、波の質感やリアルさを追求するため、鉛筆とペインティングナイフを使って質感を表現していた。こういった技術的な面は、やっぱり専門家の意見に限ると思うのですが、見えないところに高い技術が注ぎ込まれているから、異様なほどの臨場感を味わえるのかもしれないですね。

 

 

他のクールベの「波」はどんな感じだろう!?

見れば、観るほど...

調べて見ると、クールベは本当に多くの「海」を題材にした作品を描いているのが分かります。

さすがに数えたらキリがないですし、描いた全部を挙げようにも無理ってものがあります。今回はその一部を挙げてみますが、気になる方は自身で、調べて見るのもイイと思います。

 

「波」(1869年)ギュスターヴ・クールベ

「波」(1869年)ギュスターヴ・クールベ

・46.0×55.0cm、カンヴァスに油彩、スコットランド国立美術館所蔵

豪快な水しぶき!今にも爆音がしてきそうですね。

 

「波」(1869‐70年頃)ギュスターヴ・クールベ

「波」(1869‐70年頃)ギュスターヴ・クールベ

・63.0×92.0cm、カンヴァスに油彩、シュテーデル美術館所蔵

 

「波」(1870年)ギュスターヴ・クールベ

「波」(1870年)ギュスターヴ・クールベ

・80.0×100.0cm、カンヴァスに油彩、オスカー・ラインハルトコレクション

どれも本当に”波”しか描いていないのには、ちょっとびっくりですね。というか、今回チョイスしたのが”波だけ”なのもありますが…^^、それでもたくさんの”波”を描いているのは確かです。しかも、穏やかな波というよりも、荒れ狂う波を描いた作品が多い印象なのもポイント!

画家は自分の気に入った景色やモチーフを描く傾向があるけれど、このクールベも例外なくそうですね。例えば私の好きなクロード・モネに至っては、「睡蓮」睡蓮シリーズだけで、200点以上制作していると言われています。

そう考えたら、クールベって一体何枚の”海”を描いたのだろう??ちょっと気になりますね。

 

 

クールベが海に魅了された理由は、私も何となく分かる!

何が見所!?

一体クールベは”海”の絵を何枚描いたのだろう??

おそらく海の絵だけで、1つの美術展が開催できるほど描いているとは思います。確かに、以前パナソニック汐留美術館で 「クールベと海」展が開催した事はありましたが、これはほんの一部分だと思うので、もし大掛かりな絵画展が実現したら見てみたいですね!

 

「エトルタの崖、嵐のあと」(1870年)ギュスターヴ・クールベ

「エトルタの崖、嵐のあと」(1870年)ギュスターヴ・クールベ

 

これはクールベの代表作の一つ「エトルタの崖、嵐のあと」。フランスのノルマンディーにある場所で、雨風によって自然に出来たアーチ状の断崖が特に有名。現在は観光地としても人気の場所で、石灰質の地層から成る崖と砂利の海岸も美しい事でも知られています。

 

フランス、ノルマンディー地域のエトルタ フランス、ノルマンディー地域のエトルタ

さて、エトルタはクロード・モネやウジェーヌ・ブーダンなど、多くの画家も描いている場所。それだけ魅了する美しさや何か?があったって事でしょうか。特にクールベに至っては、連作を描くくらい魅了された画家です。なぜこんなにも、クールベは制作意欲を掻き立てられたのだろう??

 

ここでCheck!
クールベが海に魅了された理由!

実はクールベの生まれた場所にヒントがあります。クールベが生まれた場所は、代表作「オルナンの埋葬」でも有名な村”オルナン”。ちなみに”オルナン”はフランスの東部、スイス国境に近い村。ここは周りを山に囲まれた、つまり海のない場所だったわけです。そんな海のない場所で生まれ、育ったクールベが初めて海を見たのが22歳の頃だった。

初めて海を見たクールベは一体どんな気持ちだったのか??それは本人にしか分からないけれど、でもその後に多くの”海”を題材にした作品を描いている時点で、よっぽど感動というか、魅了されたのは間違いないでしょうね。

 

「水平線上のスコール」(1872‐73年頃)ギュスターヴ・クールベ

「水平線上のスコール」(1872‐73年頃)ギュスターヴ・クールベ

・53.6×72.4cm、カンヴァスに油彩、東京富士美術館所蔵

さて、生まれた時から海を見ていた人には分からないだろうけど、海のない場所で生まれ育った人間からすると、少なからず”海”に対して憧れや思いがあると思うのです。私が生まれたのは埼玉県で、俗に海のない県です。自虐歌で有名な”はなわ”さんの「埼玉県」という歌で、”どんなに歩いても海がない”と言う歌詞がありますが、本当に海はありません。

そんな海なし県”埼玉”で生まれた私は、ちょうどクールベとほぼ同じ年齢だったと思いますが、初めてスキューバダイビングをしました。当時の私は、”海”自体はすでに見た事はあっても、”海の世界”に行って見る機会はなかった。元々ダイビングを始めたきっかけは、イルカやサメを見たい!という欲に駆られての事。普段から海に親しんでいる人には分からないでしょうが、海なし県出身の私にとっては、”海の世界”はある種の未知なる世界へ行く感覚なのです。

今でも初めて海でのダイビングは鮮明に覚えていますし、伊豆の海の光景はしっかりと残っています。正直言って、思ったほど伊豆の海は綺麗ではなかったのですが…。やっぱり夢と現実はちょっと違うのかな??と。もし、当たり前に様に海と接していたら、ここまで鮮明な記憶にはならなかったでしょうね。というか、ダイビングを始めようと思わなかったと思います。

そんな私の経験からも、広大で神秘的な感じがする”海”は、海なし地域出身の人間にとっては、ちょっと特別な場所なのかもしれない。クールベが海に魅了されたのも、何となく分からないでもないのです。

 

波
クールベは写実主義を代表する画家です。”ありのままに”、”あるがまま”に描く事を目指した画風なだけに、深いストーリーや神話的要素を絵に込める必要もない。だからこそ、”海”だけを描いた作品は、もの凄い臨場感を生み出せたんでしょうね!純粋に連作「波」を見て、衝撃を受け圧倒される。これはクールベにしか出来ない芸当だと思います。

普段行く国立西洋美術館の常設展で、クールベの「波」を観ますが、分かってはいるけれど、いつも衝撃を受けてしまいます。魅入ってしまう臨場感。ぜひ、行ってじっくりと観てほしいと思います。

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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