色彩を音楽的に例える!? 「オルフィスム」について解説します。

色彩を音楽的に!

 

様々ある美術用語の中には、時として”洒落ているな~”と思う言葉もあります。

今回解説するオルフィスム(Orphisme)もその一つです。

 

一般的に鮮やかな色彩のキュビスムという意味になるかと思いますが、これだけで終わっては勿体ない。

どう洒落ているのか?どういう作品があるのか?もう少し深堀していくと、美術鑑賞もより楽しくなるというもの。

 

目次

まずは「オルフィスム」について簡単に解説します。
「オルフィスム」をもう少し深堀して解説!
私が「オルフィスム」が洒落ている!と思う理由
竪琴の名手”オルフェウス”を描いた作品をちょっと見てみよう!

今回はロベール・ドローネーの画風が発端とも言われている「オルフィスム」について、私なりに解説していこうと思います。

 

 

 

 

まずは「オルフィスム」について簡単に解説します。

解説

さっそく「オルフィスム」の用語を説明するのもイイですが、”どういった画風なのか?”から話していく必要があると思います。

何事もイメージが大切だと思いますし、絵画鑑賞は絵を見てナンボですからね。

さて「オルフィスム」と言ったら、忘れてはならないのが画家ロベール・ドローネー(Robert Delaunay)です。

 

「同時的な開いた窓(第1部、第2モティーフ)」(1912年)ロベール・ドローネー

「同時的な開いた窓(第1部、第2モティーフ)」(1912年)ロベール・ドローネー

・40×46cm、カンヴァスに油彩、ハンブルク美術館所蔵

パッと見、明るく華やかな色彩が特徴に見えるかと思います。

「オルフィスム」は一言で表現するなら、”鮮やかな色彩のキュビスム”になると思います。というか、これ以上の説明がないくらい端的な表現だろうと思います。

ちなみに『鑑賞のための西洋美術史入門』では、”色彩のキュビスム”という表現がされていました。

 

元々ピカソやジョルジュ・ブラックから始まった「キュビスム」ですが、黒やグレーを基調とした作品が多かった。そんな「キュビスム」に、新たな画風の流れが興ってきました。ロベール・ドローネーを中心とする、鮮やかで明るい色彩のキュビスムだったのです。

そしてギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)が、これら一連の作品を見て「オルフィスム」と呼んだという流れです。

 

「オルフィスム」を代表する画家たち

ロベール・ドローネー(Robert Delaunay)
ソニア・ドローネー(Sonia Delaunay)…ロベール・ドローネーの妻で画家。

フェルナン・レジェ(Fernand Leger)
フランティセック・クプカ(Frantisek Kupka)
フランシス・ピカビア(Francis Picabia)…日本を代表する現代美術家横尾忠則が私淑した画家でも知られています。

 

ここまでの説明からも分かる通り、「オルフィスム」は”鮮やかな色彩のキュビスム”が一番ピッタシな表現になるかと思います。

 

 

 

「オルフィスム」をもう少し深掘りして解説!

ZOOM

さて、もう少し深堀していこうと思います。

 

ロベール・ドローネーはピカソやブラックのモノクロ的キュビスムに、華やかな色彩を加えた画風を描きました。この一連の作品を見たギヨーム・アポリネールが付けた呼び名が「キュビスム」と話したと思います。

 

こで、参考として『新潮 世界美術辞典』の解説も見てみようと思います。

オルフィスム orphisme(仏)

20世紀のフランス絵画の一傾向。オルフェウスにちなむ名称で、アポリネールが1910年ー14年頃のロベール・ドローネーの作にキュビスムの新しい展開を見てこう呼んだ。キュビスム初期のきびしい構成を受継ぎつつ、未来派のダイナミズムをも包括し、原色を詩的、音楽的に歌わせる。ドローネー、レジェ、ピカビア、デュシャンの名があげられる。

・出典元『新潮 世界美術辞典』

 

新潮「世界美術辞典」

『新潮 世界美術辞典』で、気になる一文を見かけませんか?

キュビスム初期のきびしい構成を受継ぎつつ、未来派のダイナミズムをも包括し、原色を詩的、音楽的に歌わせる。

 

ちょっと説明が分かりにくいかもしれないので、私的に噛み砕いて解説してみます。

「3つの窓、塔とホイール」(1912年)ロベール・ドローネー

「3つの窓、塔とホイール」(1912年)ロベール・ドローネー

・130.2×195.6cm、カンヴァスに油彩、ニューヨーク近代美術館所蔵

未来派のダイナミズム
…キュビスムと同時期に「未来派」という絵画運動が起こりました。「未来派」は絵画の中に連続写真の様な動きやスピード感をを表現しようとした運動で、特徴を一言でいうと、”ダイナミズム”がしっくりくるかと思います。

初期のキュビスムはモノクロ重視で、止まった感じの画風だった。対照的に「オルフィスム」はスピード感や動きの感じられる画風が特徴というわけです。

 

「オレンジのカーテンのある窓」(1912年)ロベール・ドローネー

「オレンジのカーテンのある窓」(1912年)ロベール・ドローネー

・56×56cm、カンヴァスに油彩、個人蔵

原色を詩的、音楽的に歌わせる
…アポリネールが命名した「キュビスム」は、ギリシャ神話に登場する竪琴の名手”オルフェウス(Orpheus)”が由来だと言われています。様々な色彩の豊かさを音楽的なリズムに例えたというわけです。

オルフェウスの奏でる竪琴は、森の動物たちや木々や花、周囲に集まったものすべてを魅了したという逸話があるほど。R・ドローネーの描いた”鮮やかな色彩のキュビスム”を最大限に褒め称えたと言っても過言ではないと思います。

 

なみに黒やグレーなどの色は、色彩心理的に”固く、止まったイメージを持たせる色”とも言われます。対して赤や黄色などの色は、進出色とも言われ飛び出している様な動きを感じさせるイメージがある。

 

「三美神」(1912年)ロベール・ドローネー

「三美神」(1912年)ロベール・ドローネー

・207×173cm、カンヴァスに油彩、個人蔵

ロベール・ドローネーは色彩について研究していたのは結構有名な話で、ミシェル=ウジェーヌ・シュヴルール(Michel-Eugene Chevreul)の代表的著書『色彩の同時対比の法則と配色について』から、かなりの影響を受けていたといいます。

こう見ていくと、R・ドローネーが、モノクロ的キュビスムに鮮やかな色彩や色彩心理を取り込んでいったのも、自然な流れだったのかもしれませんね。

 

 

になりますが…

一般的な解説では、「オルフィスム」という絵画様式は、1910年~1914年頃のR・ドローネーの一連の作品を見たアポリネールが付けた”名”です。

「オルフィスム」は色彩の音楽性やスピード感と言った、どちらかと言えばイメージを重視する画風です。つまり概念自体が曖昧な部分もあるわけで、ジャンル分けが難しいとも言われているそうです。

 

「本を読む裸婦」(1920年)ロベール・ドローネー

「本を読む裸婦」(1920年)ロベール・ドローネー

・81.7×93.5cm、カンヴァスに油彩、ビルバオ美術館所蔵

しかもR・ドローネーの作品は、その後”抽象画”に進んでいったという経緯もあった。専門家の間では、1910年~1914年頃くらいを呼ぶのか?もしくは抽象画は含めるべきか?

など、解釈も様々だと言われています。そういった意味でも、ジャンル分けの難しい絵画というわけですね。

ただ私の持論も交えて話すと、”色彩的なキュビスム”は、後の抽象画への先駆けとも言われています。”美術の歴史はすべて繋がりがある!”と考えているだけに、美術史を語る上では重要な絵画様式だったのは間違いないと。

 

とにかく美術鑑賞する上では、別に深く考える必要はないと思っています。

「オルフィスム」の画風からリズミカルな音楽性が感じられれば、それだけで十分!純粋に作品を観て楽しめればいいわけですから。

 

 

 

 

 

「オルフィスム」が洒落ている!と思う理由

私の考え

私が「オルフィスム」は、何て洒落ているのだろう!?と思った理由は、色彩の豊かさを、リズミカルな音楽で例えるというセンスです。

さすがはフランス人だな~と思った瞬間ですね。
※ギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)は、1880ー1918年に生きたフランスの美術評論家で詩人。

こういったセンスの良さは、日本人にはちょっと思い浮かばないかな?と。

 

少し余談にはなりますが、星座に”彫刻室座”という星座があるのはご存知ですか?

18世紀頃に、フランスの天文学者”二コラ=ルイ・ド・ラカイユ”によって考案された星座です。見た感じ彫刻室のアトリエには見えないのですが、こういった芸術系の名を付けるのも、フランス人ならではのセンスというか、洒落っ気だと思います。

星座の命名からしても、フランスがいかに”芸術”を愛し大事にしているかが分かるエピソードだと思います。

 

 

 

竪琴の名手”オルフェウス”を描いた作品を見てみよう!

鑑賞

「オルフィスム」という用語は、元はギリシア神話に登場する竪琴の名手オルフェウス(Orpheus)が元になっています。

 

実は西洋画において、オルフェウスは神話画でよく描かれる題材だったりします。

せっかく「オルフィスム」の解説をしているので、ついでに”オルフェウス”の描かれた絵を見るのもイイと思います。

 

「音楽で動物を魅了するオルフェウス」(1627年)ルーラント・サーフェリー

「音楽で動物を魅了するオルフェウス」(1627年)ルーラント・サーフェリー

・62×131.5cm、木板に油彩、マウリッツハイス美術館所蔵(ハーグ)

絵の中央に小さく描かれた竪琴を弾いている人物が”オルフェウス”。そして周りには、奏でる音に魅了される動物や自然が描かれています。

画風的に神話画には違いないだろうけど、私的には”神話的風景画”と言った感じでしょうか。

 

「竪琴を弾くオルフェウス」(1670年頃)マイケル・ウィルマン

「竪琴を弾くオルフェウス」(1670年頃)マイケル・ウィルマン

・112×144cm、カンヴァスに油彩、ヴロツワフ国立博物館所蔵

ここで覚えてほしい逸話があり、”オルフェウスの奏でる竪琴は、森の動物たちや木々や花、周囲に集まったものすべてを魅了した…”と。

 

「オルフェウスとエウリュディケのいる風景」(1648年)ニコラ・プッサン

「オルフェウスとエウリュディケのいる風景」(1648年)ニコラ・プッサン

・124×200cm、カンヴァスに油彩、ルーヴル美術館所蔵

そしてオルフェウスと言ったら、忘れてはいけないのが巨匠二コラ・プッサン(Nicolas Poussin)の作品「オルフェウスとエウリュディケのいる風景」です。

竪琴の名手オルフェウスは結婚をしますが、すぐに妻となった樹木の精霊”エウリュディケ”は蛇に噛まれて死んでしまうという場面があります。

絵ではオルフェウスの奏でる音に魅了される様々な人々が描かれていますが、よ~く見ると物語の場面を表わしているのが分かります。

 

「オルフェウスとエウリュディケのいる風景(detail)」(1648年)ニコラ・プッサン

「オルフェウスとエウリュディケのいる風景(detail)」(1648年)ニコラ・プッサン

 

何かにおびえている女性がいますが、こちらが”エウリュディケ”です。

うっすらと描かれているので分かりにくいですが、足元の左に蛇がいるのが分かると思います。エウリュディケが蛇に噛まれて死んでしまう前の場面が描かれているわけです。

現在は「ルーヴル美術館」に所蔵されている作品で、近い将来日本でも展示してほしいものですね。神話画は多少なり物語を知ってから見ると、より深みも増してくるもの。ぜひこの機会に、「オルフェウス」について知ってみるのもイイと思います。

 

 

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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