- 2022-4-7
- Artist (画家について), Artwork (芸術作品)
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アメリカ、ハドソン・リバー派の風景画家”フレデリック・エドウィン・チャーチ”
前回「スコットランド美術館展」で注目している画家で名を挙げましたが、正直言ってあまり聞かない名だと思います。
日本で開催される展覧会の多くは、西洋絵画か日本画がほとんどなので、アメリカの画家はどうしても陰に隠れがちです。もちろんこのフレデリック・チャーチも西洋画に影響を受けた画家の一人ではあるけれど、母国アメリカでの活躍の方が多いのです。
とはいえ、素敵な絵を描く画家なので、今回簡単ですが紹介したいと思います。
・101.6×229.9cm、カンヴァスに油彩、ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵
101×229cmという大画面の作品なのが分かりますよね。フレデリック・チャーチの特徴の1つが絵の大きさです。アメリカの大自然を大画面で描く!写真の様なリアルな描写とダイナミックさ!!特に絶賛したい点だと思っています。
絵画をよく知らない人でも、純粋に”オオッ!!”と唸るような作品はフレデリック・チャーチならでは!
ちなみに、フレデリック・チャーチの作品は4月22日から開催の「スコットランド美術館展」で展示されます。ぜひこれもお見逃しなく!
「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」 ・東京開催:2022年4月22日~7月3日まで、東京都美術館にて |
フレデリック・エドウィン・チャーチの風景画の特徴!
・142.8×213.9cm、カンヴァスに油彩、デ・ヤング美術館所蔵
まるでパノラマ写真の様に壮大で、ダイナミック!!
大画面のカンヴァスにパノラマ写真の様な大自然を写実的に描く!フレデリック・チャーチの風景画の最大の特徴だと思います。そして上半分を占める大きな虹も見逃せない!このロマンチックで美しい雰囲気も素敵ですよね!
フレデリック・チャーチがいた当時のアメリカは、時代で言えば19世紀中頃になるでしょうか。アメリカの風景画は、当時ヨーロッパで浸透していたロマン主義の影響を強く受けていました。
元々ロマン主義は古典主義に反発する形で誕生したもの。合理的で理性的な新古典主義とは対照的で、ロマン主義は感性や主観に重きを置いているのが特徴だったのです。
新古典主義とロマン主義をもっと分かりやすく!
新古典主義は合理的で、理性的と言われています。対してロマン主義は感性や主観を重きを置いていました。
もっと分かりやすく言うと、ルールに沿った形式的で、理想的な美を描く新古典主義に対して、ロマン主義は恋愛だったり自然に対する神秘性など、より自由な空想や個人の感性が描かれる様になったのです。
例えばチャーチの作品についても同じで、確かに写実的ではあるけれど、自然の中に神秘性や崇高さが描かれているというわけですね。そんなロマン主義の影響を受けながら、アメリカの大自然を描くためにアメリカ流に変化していったのです。
・カンヴァスに油彩、257.5×227.3cm、スコットランド美術館所蔵
ダイナミックでありながら美しいナイアガラの滝。
そして広々と雄大なハドソン川や険しくも美しいロッキー山脈…
フレデリック・チャーチはこういった神秘的で、自然の偉大さ溢れるアメリカの大自然をカンヴァスに残そうとしたわけです。まさにパノラマ写真を大きな絵にした作品ですね。
そしてもう一つ忘れてはならないのが、イギリスの風景画家ターナー(ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー)との共通点!
絵を見て分かる通りどことなくターナーにも似ていると思いませんか?
ターナーはロマン主義を代表する画家の一人で、もちろんフレデリック・チャーチも影響を受けています。
でも影響を受けたとはいえ、ターナーとは似て非なる作風です。広大で美しい風景という点は似ているけれど、でもターナーよりもより壮大で、劇的!スケール感の大きさで言うとチャーチの作品は抜きんでている感じですね。まるで映画のワンシーンを描いた様な壮大なドラマティックな絵と言った感じでしょうか。
フレデリック・エドウィン・チャーチの生い立ち
フレデリック・チャーチは19世紀中頃に活躍した風景画家。ちょうど西洋絵画の歴史で言えば、ロマン主義の終わりから写実、印象派へと移り変わった時期になると思います。
チャーチ、フレデリック・エドウィン(Frederik-Edwin Church)
1826.5.4ー1900.4.7 アメリカの風景画家。コネティカット州ハートフォードに生れ、ニューヨークで没。キャッツキルでトーマス・コールに学び、ターナーに心酔してその影響を受ける。その後ニューヨークを基点に南米、ラブラドル、西インド諸島、さらにヨーロッパ、中東を旅行し風景画の題材を得た。代表作『ナイアガラの滝』(1857年)
※新潮 世界美術辞典より
1826年5月4日…
アメリカのコネチカット州で裕福な家庭で生を受けました。ニューヨークとボストンのちょうど中間にある地”ハートフォード”で生れます。
これはエドワード・ハリソン・メイによって描かれた肖像画。
1844年(18歳)~1846年…
「アメリカの風景画の祖」と言われる”トーマス・コール”に弟子入りします。
トーマス・コールはイタリアやイギリスなどヨーロッパにも遊学し、そこでロマン主義に影響を受けます。自然の中に存在する神秘性や崇高さを描こうとしたのです。チャーチはそんなコールの影響を受けます。
そしてフレデリック・チャーチは早くして頭角を現します。
1845年にニューヨークのデザインアカデミー年次展にデビュー。1849年にはナショナル・アカデミーの正会員に選出されました。1849年というと、チャーチが23歳の頃になります。史上最年少という快挙!だったのです。
その後チャーチは絵の題材を求め、南米やヨーロッパ、中東と世界各地を旅します。
・121.9×194.3cm、カンヴァスに油彩、レイノルダ・ハウス美術館所蔵(アメリカ)
神々しい静けさ、宗教画にも通じそうな風景画だと思いませんか!?
・41.3×61.6cm、カンヴァスに油彩、ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵(スペイン、マドリード)
神秘性や崇高さが描かれている作品です。
・168×302.9cm、カンヴァスに油彩、メトロポリタン美術館所蔵
フレデリック・チャーチは様々な地へ赴き、そして自分が見た風景をカンヴァスに描きました。とはいえ、ここまで大きな絵です。実際に現地で描いたわけではないのです。スケッチした絵や写真を元に自分のアトリエで作品を制作していたそうです。
神がかった様に美しく神秘的な作品は、現地そのままというわけではなく、多少のアレンジが加えられているんでしょうね。
・121.9×215.9cm、カンヴァスに油彩、デトロイト美術館所蔵
まるで映画のワンシーンの様な劇的でドラマチックな風景画は必見!自然の広大さと崇高さ、そして神々しい雰囲気の風景画はチャーチならではですね。観方によってはちょっと大げさにとれるけれど、大画面のカンヴァスには自然の崇高さが表現されているわけです。
・142.5×212cm、カンヴァスに油彩、スミソニアン・アメリカ美術館所蔵
オーロラの風景画を描く画家ってなかなかいないでしょうね。こういう神秘的で幻想的な風景画もチャーチの特徴だろうと思います。
自然に対して敬意を持ち、大自然に向き合った画家”フレデリック・エドウィン・チャーチ”。
圧倒される雰囲気の理由は大画面による迫力もあるでしょうけど、チャーチの自然に対する敬意があるからだと思うのです。
ぜひフレデリック・チャーチの風景画を生で感じてみるのもイイと思います。
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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