俵屋宗達の『源氏物語 関屋澪標図』屏風を観てきました。

「静嘉堂創設130周年 新美術館開館記念展:響きあう名宝 曜変・琳派のかがやき」…静嘉堂文庫美術館にて

 

先日”俵屋宗達”の代表作「源氏物語 関屋澪標図(せきや みおつくし)」屏風を観てきました。

さて、私が見に行ったのは2022年10月から始まった記念展「響きあう名宝 曜変・琳派のかがやき」での事。これは静嘉堂創設130周年と丸の内移転を祝しての記念展です。

今回は俵屋宗達の「源氏物語」屏風を存分に楽しんでもらうための鑑賞のポイントストーリーについて話していこうと思います。

 

それにしても本物を間近で観れるのは、実にイイものですね。実物は写真とは比べ物にならないくらい迫力も味わいもあります。

琳派の特徴ともいえる装飾性は、一度見たら目に焼き付くくらいですし…
予備知識を持ってから作品を観ると、味わいも深みも一層増してくるほど!

静嘉堂文庫美術館の展示ギャラリーが東京駅からすぐの場所に引っ越したので、これまで以上に気軽に行ける様になったと思います。ぜひ東京に行った際は行ってみるのもイイと思います。

 

 

「源氏物語」屏風を存分に楽しむための鑑賞ポイント!

美術鑑賞... 楽しく観たい!

俵屋宗達と言えば琳派を代表する画家なだけに、国宝や重要文化財に指定されている作品は結構あります。中でも特に有名なのが「風神雷神図」だと思いますが、今回挙げる「源氏物語」屏風も忘れてはならない傑作!

琳派と言えば、特に注目して欲しいポイントは装飾性の高さ!だと思います。シンプルながら目を惹く色遣いは、一度見たら目に焼き付くほどです。もちろんこの「源氏物語」屏風も装飾性も見所だと思います。構図的には比較的シンプルですが、金地の背景に緑や茶色、白が巧みに使われていて、実に色が映える点も注目!

でもこの色遣いだけに注目しては勿体ない。「源氏物語」屏風は紫式部の長編物語「源氏物語」を描いた屏風です。ストーリーや人間模様が凝縮されて描かれているわけです。

 

という事は…、描かれている背景が理解できると、より深く鑑賞出来るのです。これこそ物語屏風の最大の醍醐味だと思っています。噛みしめれば噛みしめるほど、味わい深くなってくる!というわけです。

それでは、肝心の俵屋宗達の「源氏物語」屏風を楽しむためのポイントやストーリーについて話していこうと思います。

 

 

「源氏物語 関屋澪標図」のストーリーを解説!

和風な古代貴族の車両

「源氏物語 関屋澪標図」は紫式部の長編物語「源氏物語」の一部を描いたもの。

実は今回初めて俵屋宗達の「源氏物語」屏風を見たわけですが、やっぱり美術品は生で観るに限りますね!^^。前もって「源氏物語」のストーリーをある程度知ってから観に行ったので、作品の印象も深みもより堪能できたと思っています。やっぱり予備知識はあった方が、絶対に作品を深く味わえると思います。

 

さて、「源氏物語」は平安時代に描かれた物語で、計54帖から成る主人公光源氏の栄光と苦悩、そして恋愛を書いた作品です。ここまでは学校の授業等で知っている人も多いだろうと思います。でも「源氏物語」は平安時代の作品なので原文で読もうと思ってもかなり難しい。地名や当時の政治、社会的背景も知らないと理解するのも困難です。そんなわけで、ここでは出来るだけ分かりやすく話していこうと思っているので、ぜひ参考にしてもらえると幸いですね。

 

「源氏物語」の第16帖を描いた「関屋図」

「源氏物語 関屋図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

「源氏物語 関屋図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

・153.0×356.4cm、六曲一双 紙本金地着色、静嘉堂文庫美術館所蔵

俵屋宗達の「関屋図」は、「源氏物語」第16帖”関屋(せきや)”の一場面を描いた作品。石山寺へ参拝途中の光源氏と、赴任先から京へ戻る空蝉(うつせみ)の一行が逢坂(おうさか)の関で再会する場面を描いています。ちなみに、逢坂の関は現在の滋賀県大津市にある逢坂山にあったとされる関所。

 

「源氏物語 関屋図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

「源氏物語 関屋図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

屏風の左側に描かれている車と従者たちは空蝉の一行。車が停められている描写から、光源氏が通り過ぎるのを待っている様子が分かると思います。

 

「源氏物語 関屋図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

「源氏物語 関屋図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

そして右側に描かれている牛車と従者たちは、「源氏物語」の主人公”光源氏”一行。車を引いている牛の様子が、実に生々しく描かれています。平面的でアニメチックにも関わらず、今にも動き出しそうな描写力!宗達の画力の高さが見て取れます。

 

光源氏と空蝉は若かりし頃に恋しあった仲。そんな2人が10年以上の月日を経て、逢坂の関で再会したわけです。再会というと、何だかロマンチックにも聞こえますが、でも”関屋”で描かれているのは、ちょっと違います。恋愛の切なさ儚さが描かれているわけです。”関屋”の最大のポイントは、すれ違う2人の気持ちだろうと思います。

 

季節は9月末、紅葉色づく秋の頃…

光源氏は滋賀県にある石山寺へ参詣途中、若かりし時(17歳の頃)に恋した空蝉と逢坂の関で再会します。この時光源氏は29歳。対して空蝉は夫”常陸の介”が任期を終え、一緒に京に戻る途中でした。空蝉一行は逢坂の関で源氏一行を見かけるや否や牛車を止め、光源氏一行を通します。

光源氏は懐かしさのあまり、空蝉の弟”右衛門佐”(小君)を呼びよせ、手紙を通して空蝉に消息を伝えるのでした。結局、光源氏と空蝉は逢坂の関で再会しますが、直接出会うことなく手紙のやり取りで終わります。

そして手紙を読んだ空蝉は昔を懐かしみ、こんな歌を詠むのでした。

~”行くと来と せきとめがたき涙をや 絶えぬ清水と人は見るらむ”~
…逢坂の関から出ていく時も、帰ってくる時も、私の涙はせき止める事も出来ずただ流れるばかり。光源氏様は絶えず流れる関の清水と見るのだろうか?決して私の涙の意味はあなた(光源氏)には分からないでしょう…。

空蝉の奥ゆかしさや女心は何とも言えませんね。「関屋図」を見ていると、なんて切ない話なんだろう…と思ってしまいます。屏風には物語の一部が描かれているだけですが、読み解いていくと人物の人間模様や心情が見えてくる。これこそ物語屏風の一番の醍醐味でもあると思うのです。

 

 

「源氏物語」の第14帖を描いた「澪標図」

「源氏物語 澪標図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

「源氏物語 澪標図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

・153.0×356.4cm、六曲一双 紙本金地着色、静嘉堂文庫美術館所蔵

そして「源氏物語」第14帖の一場面を描いたのが、この「澪標図(みおつくし)」になります。明石の君を乗せた船が住吉大社を訪れます。そこで偶然光源氏一行と出くわします。今回も”再会”が描かれていますが、この”澪標”もすれ違いを描いているのです。

 

「源氏物語 澪標図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

「源氏物語 澪標図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

屏風左側には多くの従者を引き連れた行列が描かれているのが分かります。

 

「源氏物語 澪標図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

「源氏物語 澪標図屏風」(江戸時代、寛永8年)俵屋宗達

多くの家来や従者が描かれていて、明らかに身分の高い人物の行列なのが分かると思います。これは光源氏の一行です。そして奥に小さく描かれているのは、明石の君を乗せた船です。明石の君は以前光源氏と男女の関係になった仲。それが縁で、明石の君は姫君を身ごもり、産んでいたのです。ある日、船で住吉大社を訪れた際、偶然光源氏一行と出くわします。しかし明石の君は身分の違い感じ、参拝せずに引き返してしまうのでした。この場面も光源氏とのすれ違いと儚い恋愛がポイント!描かれている背景と作品を照らし合せてみると、本当に切なく感じてしまうのです。

 

光源氏28歳から29歳の頃…

やっと光源氏は京へ返り咲きます。そして翌年の春、朱雀帝は位を退き、冷泉帝が即位。光源氏も内大臣へと昇進を果たします。時は同じ頃、以前男女の関係になった明石の君には姫君が誕生します。

季節は変わり秋、源氏はお礼参りに住吉大社へ参詣します。多くの従者を引き連れ、立派な宝物を携えた、誰が見ても身分の高い人物の一行だと分かる行列です。そこへ偶然、明石の君が船で訪れます。しかし明石の君は、盛大な行列を引き連れた源氏一行を見て圧倒し、身分の差を感じてしまいます。結局明石の君は言葉を交わす事もなく、その場を立ち去ってしまうのでした。後になりその事を知った源氏は、明石の君を哀れに思い、使いを送り歌を交わすのでした。

明石の君は光源氏の子を産んだとはいえ、愛人の様な関係です。自身の立場、コンプレックスの強さゆえ、源氏と会おうとはせず引き返した明石の君の女心。何だか切なくも感じてしまいますね。

 

「源氏物語」は女性関係のエピソードが多いので、一見すると光源氏のプレイボーイさが際立ってしまいます。でも物語のストーリーを見ていくと、女性一人一人に対して真剣に接していたのが垣間見れるのです。こういった男女の微妙な心の機微が読み取れるのが「源氏物語」のオモシロさ!俵屋宗達の「源氏物語 関屋澪標図」屏風は、装飾性の高さゆえ目を惹く点も多いけれど、深く見ていくと絶妙な心の機微も描かれているのかな?…と思ってしまうのです。

女性の魅力に惹かれ、ついつい恋心を持ってしまう光源氏。光源氏との身分の差を感じ、身を引こうとする哀れな女心。「関屋図」も「澪標図」も共に男女のすれ違いを描いていますが、ストーリーを知っていると屏風絵がより味わい深くなってくる。この味わいこそ、俵屋宗達の「源氏物語」屏風の醍醐味でもあると思います。ぜひあなたも感じてみては??

 

 

 

俵屋宗達の「源氏物語」屏風を観る前に、私が読んだ一冊!

Book Review

物語屏風は物語の一場面を描いた作品です。今回の「源氏物語」屏風で言えば、屏風に描かれているものすべて、紫式部の「源氏物語」に登場する人物や物、風景なわけです。

俵屋宗達は琳派の画家なので、確かに琳派ならでは見ごたえを堪能するのもいいでしょう。でもそれだけでは、勿体ない!本当に勿体ないと思います。物語屏風の醍醐味のほんの一部分しか味わっていないと思います。せっかく本物の作品を生で鑑賞するなら、出来るだけ多くのものを味わった方がイイですしね。今回私が「源氏物語」屏風を観るに当たり、参考にした一冊があります。それがこちらです。

 

源氏物語は計54帖からなる長編物語。光源氏の栄光と苦悩を小説風にした内容ですが、私的に言うと恋愛物語と言った感じでしょうか。どれだけ多くの女性が登場し、どれほど多くの女性と関係を持ったのか?しかも心の機微が細部まで書かれているのも必見で、現代でも人気なのも分かる気がします。なかなか微妙な人間模様が描かれた物語ってそうはありません。でも書かれたのが平安時代なので原文で理解しようにもかなり難しい。仕方ないと言えば仕方ないわけだけど、「源氏物語」を理解する上で、一番ネックになっているのが文章的な問題なのです。

 

そういった意味では、この「ビギナーズ・クラシックス:源氏物語」は初心者向けって感じでしょうね。大まかなあらすじと古文と現代語訳がまとめて読めるのは便利!すべてを理解したい人にはちょっと物足りないでしょうが、大まかに理解したい初心者には最適な一冊だと思います。

 


ぜひ、参考にしてもらえると幸いですね。

 

この俵屋宗達の「源氏物語」屏風は、静嘉堂文庫美術館で見る事が出来ます。

【 静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展 I 】
ー 響きあう名宝 曜変・琳派のかがやき ー

・会期:2022年10月1日~12月18日まで
 (展示替え有)前期10月1日~11月6日、後期11月10日~12月18日
・時間:10:00~17:00(金曜は18:00まで)※入館は閉館の30分前まで
・場所:東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F

 

ぜひ、東京へ行く機会があったら、立ち寄ってみては?

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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