- 2016-2-5
- Artwork (芸術作品), Word (用語)
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美術館に行くとよく見かける絵画「東方三博士の礼拝(Adoration of the Magi)」。
※東方の三賢人や東方の三賢者と呼ばれる事もあります。
絵画では頻繁に描かれるテーマの1つで、有名どころの画家で言えばルーベンスやエル・グレコ、ボッティチェリも描いています。
とはいえ「東方三博士の礼拝」は宗教画です。私たち日本人からすると苦手意識を持っている人も多いと思います。当の私も最初はちょっとというか、かなり抵抗がありました。どうしても難しいや堅苦しいというイメージがありますしね!
でも宗教画は西洋画の中でも結構重要な位置を占めていて、避けては通れない道でもあります。ここではちょっと苦手だな~という人に向けて、かなり分かりやすく話していければと思います。
1、”東方三博士”とは誰?どんな意味が隠れているの??
まず”東方三博士”は誰かというと、イエス・キリストが誕生した時に東の方からやってきた3人の博士(賢者)を言います。聖書ではそれぞれが黄金、乳香、投薬の贈り物を携え、誕生を祝い贈ったとされています。
そのため「東方三博士の礼拝(Adoration of the Magi)」は、イエス・キリストの誕生シーンと一緒に描かれる事がほとんどです。絵画中に登場する聖母マリアとイエス・キリスト、三博士はぜひチェックしてほしい人物になります!
※Adorationが礼拝を意味し、Magiが東方三博士を指しています。
押さえたいポイント1 …東方三博士の名前と贈り物
「東方三博士の礼拝」は聖書に書かれている一場面を切り取った絵画になります。当然ながら描かれている人物には名前や意味があるのです!下でそれぞれの名を挙げますが、ここで”アレッ!?”とお気づきの人も多いのでは??
…実は「エヴァンゲリオン」に登場してくるシステムの名前なのです。
【三博士の名前と贈り物の意味】 ・メルキオール(Melchior)…贈り物は”黄金”(王位の象徴) ・カスパール(Casper)…”没薬”(死を象徴) ・バルタザール(Balthasar)…”乳香”(祈り・神権を象徴) |
宗教画では描かれている持ち物も重要なポイント!三博士の持っている贈り物から、人物を特定するのも絵画を見る際の醍醐味だと思います。
押さえたいポイント2 …東方三博士の国籍と年齢から見えてくる意味

「東方三博士の礼拝」(1655-1660年)バルトロメ・エステバン・ムリーリョ
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「東方三博士の礼拝」(1655-1660年)
このムリーリョの作品は特に分かりやすいと思いますが、三博士の国籍や年齢層が違う事に気が付きませんか?
解釈によって様々で一概には言えませんが、三博士の国籍はヨーロッパ、アフリカ、アジア系で描かれている事がほとんどです。そして年齢も老年、壮年、青年と様々に描かれています。これは”老若男女がイエスの誕生を祝福している。”…
つまり世界中の人々が救世主イエスの誕生を待ちわびていた事を表わしているのです。
実に深いと思いませんか!?描かれている人物や物には何かしら意味が込められているのも宗教画の特徴で、私が思うに醍醐味の一つだと思っています。
聖書における”東方三博士”の物語
ここからが一番肝心な部分です。”東方三博士”のストーリーを簡単に話していきたいと思います。
ヘロデ大王が統治する時代に、イエスはベツレヘムでお生まれになりました。
ある日ヘロデ大王の元に東方から博士たちが訪れてきました。そして大王にこんな話をします。「ユダヤ人の王(イエス・キリスト)がお生まれになったと聞きましたが、どこにおられますか?私たちは東方でその方の星を見て、やってきました。」と。
この話を聞いたヘロデ大王は不安に駆られます。というのもこの大王は非常に猜疑心が強い性格の持ち主。近い将来神の子によって自分の存在が脅かされるのでは?と考えたからです。
そしてヘロデ大王は博士たちに「見つかったら私に知らせてくれ。私も拝みに行くから!」といい、博士たちをベツレヘムへ遣わしたのでした。
3人の博士たちは星に導かれる様に、神の子が生まれたとされるベツレヘムへ向かいます。
…
そこで3人の博士は救世主(イエス)の誕生を目のあたりにするのでした。そして3人の博士はイエスの誕生を喜び、3つの宝(黄金、投薬、乳香)を捧げ崇めたのでした。絵画「東方三博士の礼拝」はまさにこのシーンを描いているのです。
このストーリーが分かっただけでも”東方三博士の礼拝”という絵が、より面白いものに見えてきませんか!?

「東方三博士の礼拝」(1624年)アブラハム・ブルーマールト
アブラハム・ブルーマールト「東方三博士の礼拝」(1624年)
このアブラハム・ブルーマールト(1566~1651年)はオランダの画家で、歴史画や風景画などを多く描いていた事でも知られています。自身がカトリック教徒だった事もあり、宗教画も多く描いていました。
さてここで気になるポイントが!それは絵の上の方で輝いている”星”です。
これは”ベツレヘムの星”と呼ばれ、イエスの誕生を知らせた星と言われています。ちょっと余談ですがクリスマスツリーの上に飾る星がありますよね!実はこのツリーの星飾りはこのベツレヘムの星から来ているのです。
宗教画「東方三博士の礼拝」には実に様々な要素が組み合わさっています。救世主イエス・キリストと横に位置するフードを被った女性聖母マリア。そして祝福する3人の賢者たちと誕生を知らせたとされる”ベツレヘムの星”。これらを知っているだけでも、”宗教画通”の仲間入りと言ってもイイと思います。
ぜひ美術館で目にする機会があったら、これらのポイントを押さえてじっくりと観てほしいと思います。
「東方三博士の礼拝」を描いた絵画
宗教画でよく描かれる事の多い”東方三博士の礼拝”ですが、もちろん画家によって作風はまちまちです。宗教画は教会などからの依頼によって描いていた場合も多く、同じ題材でも画家の個性がモロに出てくるのも絵画の面白さだと思います。ここではルネサンス期に活躍したイタリアの画家”ボッティチェッリ”とバロック期を代表する画家”ルーベンス”の作品を挙げてみました。
ボッティチェッリの「東方三博士の礼拝」
サンドロ・ボッティチェッリはルネサンス期に活躍した画家。イタリアのフィレンツェで生まれました。フィリッポ・リッピの元で修業し、その後多くの歴史画や宗教画を描いた事でも知られています。

「東方三博士の礼拝」(1470年~1475年)サンドロ・ボッティチェリ
・テンペラ画、ロンドン・ナショナル・ギャラリーにて所蔵

「東方三博士の礼拝」(1475年頃)サンドロ・ボッティチェリ
・テンペラ画、111×134cm、ウフィツィ美術館所蔵
この「東方三博士の礼拝」はおそらく一番知られていると思います。日本でも公開されたことがある作品で、一番右にはボッティチェッリ自身が描かれています。

「東方三博士の礼拝」(1478年~1482年)サンドロ・ボッティチェリ
・テンペラ画、68×102cm、ワシントン・ナショナル・ギャラリーにて所蔵
中央には聖母マリアとイエス・キリストが描かれていて、その周りには贈り物を持った人物が数人描かれています。ここから人物の特定が出来るのも宗教画の見所!
それにしてもボッティチェッリの描く「東方三博士の礼拝」は実に多くの群衆に囲まれているのが分かります。思うに多くの人々に祝福されている様子を描きたかったのだろうか?
ルーベンスの「東方三博士の礼拝」
本名はピーテル・パウル・ルーベンスで、バロック期を代表するフランドルの画家です。(現在のドイツ、ジーゲンで生まれました。)
おそらく日本でもルーベンスは馴染みのある画家のひとりだろうと思います。アニメ「フランダースの犬」にも作品が登場してくるほどです。歴史画、肖像画、風景画、宗教画、神話に寓意など様々なジャンルを描いていて、作品数は優に1000点を超えるほどと言われています。
宗教画「東方三博士の礼拝」という題材だけでも数点描いています。

「東方三博士の礼拝」(1617-1618年)ピーテル・パウル・ルーベンス
・カンヴァスに油彩、328×251cm、リヨン美術館所蔵

「東方三博士の礼拝」(1619年頃)ピーテル・パウル・ルーベンス
・カンヴァスに油彩、384×280cm、ベルギー王立美術館所蔵
ルーベンスの場合は聖母マリアとイエス・キリスト、そして3人の博士が強調されて描かれている様に見えませんか?光の当たり具合というか、スポットライトが当たっているのが分かります。

「東方三博士の礼拝」(1626‐1629年)ピーテル・パウル・ルーベンス
・カンヴァスに油彩、290×218cm、ルーヴル美術館所蔵
このルーベンスは画家の中でもかなり成功した方だと思います。生前中に全くダメで後々になって評価される画家が比較的多い中、ルーベンスの場合は画家としても上手くいき、外交官としても活躍しているほどです。
日本でも度々ルーベンスの作品を観る機会はあると思います。さすがに「東方の三博士」を日本で展示するのは…、いつかは分かりませんが見れる機会があったら要チェックですね。
この東方三博士はよく描かれる事も多いだけに、
ぜひ見かけた際には今回の知識を思い返してみては??
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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