- 2023-2-13
- Artwork (芸術作品), Other (その他)
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今や伊藤若冲の代表作にもなっている、30幅から成る「動植綵絵(どうしょくさいえ)」。
元々は相国寺の荘厳となるよう若冲が寄進したものでした。現在は宮内庁が管理する三の丸尚蔵館に所蔵されていますが、建て替えのため今のところ休業中。たまに他の美術館などに貸し出す事はありますが、30幅すべてが一堂に展示される機会はなかなかないのです。そう考えただけでも、”次はいつ見れるのだろう?”と今から待ち遠しくて仕方がないわけです。
前回「若冲原寸美術館 100% Jakuchu!」で、「動植綵絵」を数点紹介しましたが、今回は私が気になる作品をいくつか挙げていこうと思います。
・142.0×79.8、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「芍薬群蝶図(しゃくやくぐんちょうず)」は、「動植綵絵」の中で、最も初期の作品。初夏に紅、白の優雅で大きな花を咲かせる芍薬と、その美しさに惹かれて集まる蝶たち。ほとんどが鳥や植物が描かれている「動植綵絵」にあって、昆虫が描かれている作品も珍しいですね。
・142.8×80.1、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「秋塘群雀図(しゅうとうぐんじゃくず)」
実った粟を目指して、一斉に急降下してくる雀の大群。その中に1羽だけ白い雀がいるのに目が向いてしまいます。1つだけ違ったものを描くだけで、こうも作品に良い意味での緊張感が生まれてくる。個人的に若冲のセンスを感じる作品です。
・142.3×79.7、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「向日葵雄鶏図(ひまわりゆうけいず)」
虫食いの跡が残る向日葵の葉と、黄色い花。あちこちに散りばめられた朝顔の花も目を惹きますが、そんな向日葵と朝顔を凌駕するほどに色鮮やかな朱色の鶏冠(とさか)をした雄鶏。特に雄鶏の装飾的な羽の色には目を奪われてしまいますね。
・142.9×79.6、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「老松孔雀図(ろうしょうくじゃくず)」
老松…つまり年老いた松と、白と紅の牡丹の花の組み合わせ。中央に位置する華麗な姿の孔雀。背景の色も合いまって孔雀の白さがより美しく見えるし、何よりも浮かび上がる様なダイナミックさは必見ですね。牡丹の花や孔雀、松の木と様々なものが描かれているのに、でも喧嘩していないのは、若冲の計算によるものなのか?実際はありえない構図なだけに、ある意味夢の共演と言った感じでしょうか。
さて、ここでちょっと一休み!
「動植綵絵」はお寺から依頼され制作したものではなく、ましてや報酬をもらうためでもなかったのです。若冲は相国寺のお堂の荘厳のため、つまりお堂を美しく飾るために描いたものだったわけです。これがもし人に売却するためだったとしたら、今の様に30幅すべてが残る事はなかったかもしれないし、そう思うと当時若冲の”寄進”という行為は間違いではなかったのかもしれませんね。
・142.6×79.9、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「南天雄鶏図(なんてんゆうけいず)」
実った真っ赤な南天と雄たけびを上げているかの様な雄鶏の姿。何よりも、真っ黒な雄鶏の姿には、目を奪われてしまいますね。比較的鮮やかで美しい作品が多い「動植綵絵」にあって、この「南天雄鶏図」は強烈過ぎる鮮やかさが際立っている感じです。書籍の表紙を飾る事が多い作品だけに、おそらく「動植綵絵」の中でも特に知られている作品だと思います。
・142.6×79.7、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「蓮池遊魚図(れんちゆうぎょず)」
中央で泳いでいる9匹の鮎と、下では大きい尾びれのオイカワがさりげなく描かれている。水の流れの様子は描かれていないけれど、魚の泳ぐ姿から川の中を描いているのが想像できます。そして一際目を惹くのが、蓮の花の美しさ!です。個人的に蓮の花の紅から白へのグラデーションは、本物を間近で迫って見たい箇所。ここはルーペ必須の部分だと思います。
・142.6×79.7、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「群鶏図(ぐんけいず)」
鶏を得意とした若冲の集大成とも言える作品だろうと思います。13羽の鶏が華やかに描かれているのに、ごちゃごちゃにならずにバランスも保たれている。この計算され尽くされたかの様な若冲の絶妙な構図観は、素晴らしいの一言ですね。
・142.6×79.7、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「薔薇小禽図(ばらしょうきんず)」
江戸時代に薔薇という花は、個人的にイメージが湧かない組み合わせです。でも薔薇は日本では古くから描かれてきた花だそうです。
・142.7×80.0、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「牡丹小禽図(ぼたんしょうきんず)」
咲き乱れる牡丹の花と、さりげなく隙間から顔を見せる小さな鳥。花びら1つ1つとってもそうですが、細部までしっかりと描かれている点は圧巻ですね。この気の遠くなる様な細かな描写は、一体どれほどの歳月をかけて描いた作品なのだろう?と気になったりします。
・142.3×79.9、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「群魚図(ぐんぎょず)」
様々な魚が同じ方向に向けて、一斉に泳いでいる姿は圧巻!本物さながらって感じのリアルな描写は特に印象的です。純粋に絵が上手い!と分かる作品だと思います。
ここでチェックしてほしいポイントが!
左下に描かれている魚にちょっと目を向けてほしい。これは”ルリハタ”と呼ばれる魚で、特に注目して欲しいのが絵具です!実はルリハタの青色には、ブルシアンブルーという人工顔料が使用されているそうです。ブルシアンブルーは18世紀にドイツ(当時のプロイセン)で発明された青色の顔料で、この「群魚図」は、日本では初の使用例となる作品なのだそうです。
・142.7×79.1、絹本着色 一幅、宮内庁三の丸尚蔵館蔵
「菊花流水図(きっかりゅうすいず)」
おそらく多くの人が思っただろうけど、白い菊の花が”まるでフグの薄造りの様!”に見えませんか?別に食い意地が張っているわけではないですが、まさに薄造りそっくりと言う感じです。菊の花の細密過ぎる描写と、簡略化されて描かれている流水の様子。個人的に「菊花流水図」の一番の見所は、このメリハリのある描き方だと思っています。
今回は若冲の傑作「動植綵絵」30幅の内、一部を個人的なコメントなども交え紹介しましたが、やっぱり出来る事なら本物を間近で観たいものです。現在は休業中の三の丸尚蔵館に所蔵されていますが、もし今後30幅すべてが一堂に展示される機会があるとしたら…。
実は”辻 惟雄(つじのぶお)”先生も書籍で言っていますが、三の丸尚蔵館が再開館する時だろうと書いています。私も開館記念と称し、一堂に展示するだろうと思います。もちろんその際は、「動植綵絵」だけでなく、狩野永徳の『唐獅子図屏風』や絵巻物『蒙古襲来絵詞』も展示されるでしょうけど。
とにかく若冲の代表作「動植綵絵」が、一斉に姿を現すとしたら…、そう考えただけでも、今から待ち遠しくて仕方がないわけです。ぜひ、そんなチャンスがあったら、見逃すわけにはいかないですね!
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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