国立西洋美術館の庭園にあるロダンの彫刻「カレーの市民」を解説!

「カレーの市民(Burghers of Calais) …国立西洋美術館にて」

 

オーギュスト・ロダンの彫刻「カレーの市民(Burghers of Calais)」。

 

国立西洋美術館に行った事のある人なら、間違いなく目にしている彫刻だろうと思います。下を向き絶望に暮れ、迫った死に対して呆然とする表情。一度見たら脳裏に焼き付くくらい衝撃的ですよね。しかも、”カレーの市民”というタイトルも、妙にインパクトがあります。

 

burghers.calais01「カレーの市民(Burghers of Calais) …国立西洋美術館にて」
知っている人なら、なんてことはないだろうけど、知らない人にとっては”カレー”の文字ばかりが気になってしまう。実は私も最初この彫刻を観た時は、”カレー”にばかり目が行ってしまったのです。

さて、国立西洋美術館でも一際異彩を放つ彫刻「カレーの市民」ですが、実は意味や背景が分かってくると実に深い作品だったりします。さすがロダンだな~と感心してしまうほどです。一体何を表わしている彫刻なのか、あなたは知っていましたか??

 

 

ロダンの彫刻「カレーの市民」の意味と背景

「カレーの市民(Burghers of Calais)」…国立西洋美術館にて
まず一番気になるだろう言葉”カレー(Calais)”から話した方がイイと思います。

ちなみに、カレーとは食べるカレーの事ではないのは一目で分かると思います。でも分かってはいても、どうしても食べるカレーがふと頭に浮かんでしまう。彫刻の背景を知っている私でさえ、ふと思い浮かべるほどなので、カレー好きの人間にとっては、本当に困ったタイトルではありますよね。

さて、”カレー(Calais)”についてですが、これは都市の名前を意味しています。フランス北部にある港湾都市”カレー市”の事です。

 

そして肝心な彫刻「カレーの市民」の背景ですが、今から600年以上前に起こった百年戦争ある出来事が元になっています。

さかのぼる事、約600年前…。

1339年~1453年の約100年間、イギリスとフランスの間で”百年戦争時代”と呼ばれる長期化した戦争の時代がありました。

1346年、当時イギリスを治めていたのが国王エドワード3世。対してフランスはフィリップ6世が国をまとめ上げていました。イギリス軍はクレシーの戦いで勝利し、その勢いに乗じフランスの重要な町”カレー市”を包囲。(俗に”カレー包囲戦”と呼ばれています。)

フランス軍はイギリスの包囲を解こうとしますが、カレーへの補給も上手くいかず、包囲を解けずにいました。そして、この状態が約1年間ほど続いたのです。

フランス軍からの補給もなく、食料も尽きてきた港町”カレー”は、ついに開城を余儀なくされます。イギリス軍は、カレー開城に伴い、降伏の条件としてカレー市の主要メンバー6人を人質として出す事を要求します。6人の人質の命と引き換えに、市民の命を助けるというのです。

そして、この要求に応じた主要メンバー6人というのが、当時カレー市の指導者だった”ウスターシュ・ド・サン・ピエール”。他には”ジャン・デール”、”ジャック・ド・ヴィッサン”、”ピエール・ド・ヴィッサン”、そして”シャン・ド・フィエンヌ”と”アンドリュー・ダンドル”の計6人でした。彼らはカレー市を守るために、己を犠牲にイギリス軍の陣営に赴いていったのです。

結果的にエドワード3世の王妃による助言もあり、6人は処刑される事なく助かります。その後人質として出向いた6人は、カレー市を救った功績と、彼らの勇気から”英雄”として語り継がれる事になるのでした。

 

「カレーの市民(Burghers of Calais) …国立西洋美術館にて」
市民を守るために、勇気を振り絞って出頭した6人。間違いなく英雄だと思います。

 

 

「カレーの市民(Burghers of Calais) …国立西洋美術館にて」
絶望感と苦悩に満ちた男性の表情、そして後ろには首を紐で縛られた男性の後ろ姿

確かに彼らは英雄ではあるけれど、でも私が観る限り、悲劇と絶望に満ち溢れた男たちにしか見えない。実は「カレーの市民」で描かれた男性たちの表情を巡って、過去にこんなエピソードがあったと言います。

依頼主は「カレーの市民」を英雄的象徴として、ロダンに制作を依頼しました。でも彫刻で描かれていたのは疲れと苦悩、絶望に溢れた表情だった。当然ながら、依頼主は彫刻の受け取りを拒否したのです。

依頼側と制作者側との意向の違いがあったって事ですね。

 

ここでCheck!
「カレーの市民」から思う、私の解釈!

依頼主は6人の男性を、英雄らしい表情で表現して欲しかった。当然ロダンは依頼人の要望は聞いていたと思いますし、それに応えていたと思います。依頼人とロダンが思う英雄像の違いが、この様な結果を生んだと思うのです。

依頼人は、6人の男性を堂々とした、カッコイイ姿で表現して欲しかったのかな?と思います。でもロダンの思う英雄像は違っていた。6人は街を救った英雄だけれど、でも生身の人間でもある。人間らしい弱さや生々しさを表現しつつ、英雄として描きたかったのだろうと思うのです。

オーギュスト・ロダンは、”ありのまま”、つまりリアルさを追求した彫刻家でも知られています。この人間味溢れた「カレーの市民」は、ある意味ロダンらしいと言えば、らしいと思います。

 

 

て、締めに、ロダンの「カレーの市民」をいろんな角度から観てみようと思います。

 

 

「カレーの市民(Burghers of Calais) …国立西洋美術館にて」

 

「カレーの市民(Burghers of Calais) …国立西洋美術館にて」

 

「カレーの市民(Burghers of Calais) …国立西洋美術館にて」

 

「カレーの市民(Burghers of Calais) …国立西洋美術館にて」
人によって、”英雄像”は違うと思います。私は英雄として堂々としているよりも、この悲観に溢れた人間味がある方が、より彼らに興味を惹かれてしまうし、僕はロダンの考える英雄像は賛成ですが。さて、あなたはどう思いますか??

まずは、実際に足を運んで本物を観てほしい!そして、あなたなりの解釈を持ってほしいと思います。^^

 

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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