- 2023-9-9
- Artist (画家について), Artwork (芸術作品)
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今回は、版画家”ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ”について解説していこうと思います。
ところで美術館でも版画作品がよく展示されますが、じっくり観察していますか??
周りの人を見ていると、「あまり観方を分かっていないのかな~」と思う事もしばしば。私自身、人にカッコよく言える立場でもありませんが、少なくとも版画って結構面白いものだと思っています。特に私の様なマクロ派にとっては、ドハマりな部分もありますしね。
今回紹介する”ピラネージ”の版画も、まさに緻密で繊細でマクロ!個人的におススメの版画家の一人で、一見の価値あり!だと思っています。
今回は「ローマの景観」で知られる版画家で建築家”ピラネージ”について、私なりに分かりやすく解説していこうと思います。
【 目次 】 1、まず初めに、版画家ピラネージはぜひ覚えてほしい! |
今回はこの流れで話していこうと思います。
また随所にピラネージの作品も挙げていくので、鑑賞形式で気楽に読んでもらえると幸いですね。
まず初めに、版画家ピラネージは覚えてほしい!
個人的におススメしたい版画家の一人に”ピラネージ”がいます。本名はジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ(Giovanni Battista Piranesi)で、18世紀頃に活躍したイタリアの版画家で建築家だった人です。今回なぜ”ピラネージ”について解説しようかと思ったかと言うと、展覧会「永遠の都 ローマ展」で作品が展示されるから!これまで何度か取り上げていますが、個人的に注目している展覧会の一つです。
※「永遠の都ローマ展」は、東京と福岡で巡回開催されます。
・54.4×78.0cm、エッチング
これはローマの古代遺跡や都市景観を版画で表現したピラネージの代表作『ローマの景観(The Views of Rome)』です。「永遠の都 ローマ展」の公式サイト”みどころ”のページに載っていた作品です。
古代ローマの作品を通してローマの美術や歴史が垣間見れる展覧会という事で、結構私としては今からワクワクしていると言うか、注目しています。中でもピラネージの版画作品は個人的に一目置いていて、ルーペでじっくり見たい!と。やっぱり版画の醍醐味の一つに、細部の描写が挙げられますしね。版画には絵画にはない醍醐味というか魅力がありますし、この機会にピラネージの版画にちょっとでも興味を持ってもらえたらと思ったわけです。
・52.4×75.9cm、エッチング
それにしても”ヤバい!”の一言ですね。
当時は現代の様にコンピュータもなかった時代です。一面を覆っている小さな文字と図には圧巻です!エッチングですから、おそらく針(ニードル)で削っていったのだろうけど、相当な根気と労力を要したでしょうね。正直言って、見ているだけでニヤケてしまいます。^^(この感覚はマクロ派ならではでしょうね。)
とにかく細部まで描かれた緻密とも言える描写は必見。そしてピラネージならではの視点もポイントです。
”ピラネージならではの視点”!?
これは建築家として歩んだ、彼ならではの生い立ちにも関係していると思います。次では、生い立ちも交えて画風についても触れていこうと思います。
2、”ピラネージ”ってどんな版画家?建築家??
何も知らないよりも、多少でも知ってた方が作品はよりおもしろくなる!私の持論でもありますが、正論でもあると思っています。今回のピラネージもその代表格だと思います。先ほどちょっと触れましたが、ピラネージの版画は緻密ともいえる細かな描写が特徴!それをルーペで観察する!これは版画作品ならではの醍醐味だと思っています。そしてもう一つの醍醐味は、ピラネージの生い立ちにも多少関係があります。
・53.5×78.1cm、エッチング
実は私自身ピラネージについて、カッコつけて解説できるほどではないけれど、以前作品を観た時に”コレはスゲ~!”と。やっぱり彼が建築家だからというのも大きいかと思います。
建築家だから!?これがピラネージ版画の真骨頂!でしょうね。
ここで、参考に『新潮 世界美術辞典』の解説も見てみるとしましょう。
ピラネージ、ジョヴァンニ・バッティスタ
(Giovanni Battista Piranesi)1720.10.4ー78.11.9イタリアの版画家、デッサン家、建築家、考古学者。ヴェネツィア近郊モイアーノ・ディ・メストレに生れ、ローマで没。ヴェネツィアで父と叔父から建築を学び、1740ー43年ローマでヴァシ(Giuseppe Vasi、1710-82)、ポランザーニ(Felice Polanzani)に版画を学び、とくにエッチング技法をきわめ、またコルシーニ(Corsini)枢機卿の版画蒐集から学ぶところがあった。1743年ヴェネツィアへ戻り、ティエーポロとカナレット(アントーニオ・カナル)から影響を受けた。45年ふたたびローマを訪れ、ローマ人であることを誇りとして終生そこを去らず、48年以降大版の『ローマの景観図』(137点)を逐次刊行した。古代遺跡に基づくローマのヴェドゥータやエジプト、エトルスクの古代建築図案等の約1000点にのぼるエッチングは各国に伝えられて新古典主義やロマン主義を培った。ギリシアよりもエトルスクやローマの優位を認める考古学の論争家でもあった。代表作はほかに、4点の『カプリッチ(気紛れ)』(1743ー45)、建築空間に関する思考を大胆かつ幻想的に表現した『牢獄』(14図、1745:16図、1760)など。版を重ねるごとに構図を変え、新生面を拓くエッチング技法は抜群であった。
・出典元:『新潮 世界美術辞典』
早速ポイントとなる一文は、”ヴェネツィアで父と叔父から建築を学び、ヴァシ、ポランザーニに版画を学び、とくにエッチング技法をきわめ。”
ピラネージは画家としてでなく、建築家としてスタートしている。そしてエッチング技法を極めたという点が大きい!土台と言うかベースに”建築”があるわけですね。
・53.5×77.5cm、エッチング
作品を観れば分かりますが、画風が緻密で計算され尽くされた感じです。まさに建築的版画という言葉がピッタリかな~と。ピラネージの版画は純粋な画家には描けないと言った理由は、建築家視点で描かれた版画だから。確かにピラネージは画家としても活動はしていたそうですが、基本は版画家or建築家が主。
画家が描いた版画とは一線を画している!これが最大のポイントでしょうね。
3、私が思うピラネージ版画の特徴は”CAD”?
さて、私が思うピラネージ版画の最大の特徴は”現代にも通じるCAD的画風”です。
ちなみにCAD(キャド)は「computer-aided design」、つまりコンピュータ支援設計の事です。
現在ではCADを使って、製図や構図、図案などを作成するそうですが、まさに現代風CADって感じがしませんか?(私自身建築関係の仕事ではないので、詳しくは分かりませんが、表現としては合っているかと思います。)感覚や感性よりも緻密な計算と分析、思うにピラネージは理知的な思考の持ち主だったのかな?という印象です。その思考が画風にも表れている様ですね。ここまで写実的ですから、後の新古典主義にも繋がっていくというのも頷けます。
ある美術系の本では、ピラネージを奇想の版画家という言葉で表現していました。
(※奇想は”普通では思いつかない変わった考え”という意味)
確かに空想的な景観を描いた作品もあるので、”奇想”も頷けますが、私的には”CAD的画風の版画家”が一番しっくりきますね。版画という平面で、3D的立体感や遠近感、空間描写を表現しているわけだから、”現代のCAD”にも通じる感じがしませんか!?
4、ここまでの”まとめ”として…
私が思うピラネージ版画の特徴は、”緻密な細部描写と建築家視点のCAD的画風”に尽きます!
あれこれ詳しい生い立ちまでは覚えなくても、この特徴だけでも頭に入れてほしい!これだけでピラネージの作品を深く味わえます。そして当日はルーペを使って観察!今話した2つのポイントは絶対に押さえてほしいと思います。版画は地味に見えて、実は細部に見所が凝縮されているので、迫って観察するに尽きると思うからです。
ぜひ参考にして、当日の版画鑑賞に役立ててほしいと思います。
ちなみに私が現在使っているルーペ(単眼鏡)がこちら↓です。色はパール調で上品な感じがするホワイト、そして視界の明るさは特にイイと思っています。眼鏡を掛ける私にとっては最適な相棒です。
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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