後半「アモルとプシュケ」は、まるで現代版”嫁姑問題”!?

クピドとプシュケの恋愛物語(後編)

 

今回は「アモルとプシュケ」の恋愛物語(後編)と称し、絵画作品を挙げながらストーリーを詳しく解説していこうと思います。

 

後編「アモルとプシュケ」の最大の見所は、プシュケに待受ける試練の数々です。ウェヌスから受ける試練をどうやって乗り越え、そしていかにしてハッピーエンドになるのか!?この経緯は現代の”嫁と姑”の関係と非常に似ている感じがします。結び付けて読み進めていくと面白いのでは?と思います。

 

 

「アモルとプシュケ」の恋愛物語を絵画作品と一緒に!

アモルとプシュケ

物語に登場する人物を紹介!

プシュケ(Psyche):人間の娘で、そのあまりの美しさにウェヌスが嫉妬するほどだったとか。
クピド(Cupido):愛の神と呼ばれ、日本ではキューピッドでお馴染み。他には”アモル(Amor)”や”エロース”など、様々な名を持っています。
ウェヌス(Venus):愛と美の女神ヴィーナス。クピドの母。

 

前回までのあらすじ

Story

人間の娘プシュケは、女神ウェヌスから嫉妬されるほどの美しさ。嫉妬に燃えるウェヌスは、子クピドに「醜い男と結婚させなさい!」と呪いをかけるよう命じます。しかし、呪いは失敗に終わり、クピド自身がプシュケに恋をしてしまいます。そしてクピドは風の神ゼピュロスにプシュケをさらわせ、一緒に住まわせる事に…。

でもクピドは翼の生やした神。プシュケに姿を見せまいと「私の姿を見てはいけないよ!」と約束します。しかしプシュケは好奇心旺盛な性格ゆえ、約束を破り寝ている間にクピドの姿を見てしまった。これに怒ったクピドは、プシュケの元を飛び去ってしまうのでした。

 

アモルとプシュケの恋愛物語(後

アモルとプシュケ

約束を破られた事に怒り、プシュケの元を去っていたクピド。

一人残されたプシュケは途方に暮れます。あまりの喪失感からプシュケは自身の命を絶とうとするのでした。その時、野山の神(半獣の神)パンが現れ、プシュケを励まします。プシュケは愛する夫クピドを探す旅に出るのでした。

 

「パンとプシュケ」(1872‐74年頃)エドワード・バーン=ジョーンズ

「パンとプシュケ」(1872‐74年頃)エドワード・バーン=ジョーンズ

・65.1×53.3cm、カンヴァスに油彩、フォッグ美術館所蔵

プシュケは各地を探し歩きます。豊穣の神”ケレース”、そして結婚の神”ユーノー”の元へも行きますが、助けを得られないでいました。しかも、ケレースもユーノーも「ウェヌスはプシュケに対して、カンカンに怒っている!」と言う始末。さすがにプシュケも怖気づいてしまうのですが…、ついには覚悟を決め、クピドの母でもあるウェヌスの元へ行く決意をします。

 

「プシュケと王座のウェヌス」(1883年)エドワード・マシュー・ヘイル

「プシュケと王座のウェヌス」(1883年)エドワード・マシュー・ヘイル

・199×89cm、カンヴァスに油彩、ラッセル=コーツ美術館所蔵

プシュケはウェヌスの元へ行きますが、ウェヌスは当然の如く怒っています。ウェヌスは「やっと、私に挨拶しにやって来たのか!身分もわきまえず、勝手に結婚するなんて、許せない!」と。ウェヌスはプシュケを気に入らなかったのです。そして嫌がらせ混じりに、「息子の嫁にふさわしいか試してやる!」と言って、3つの無理難題ともいえる試練をプシュケに与えます。

 

「難しい試練をプシュケ与え罰するヴィーナス」(1695-97年頃)ルカ・ジョルダーノ

「難しい試練をプシュケ与え罰するヴィーナス」(1695-97年頃)ルカ・ジョルダーノ

・58.1×68.9cm、カンヴァスに油彩、イギリス王室コレクション

 

無理難題:山の様に積まれた穀粒の仕分け

小麦や大麦、粟、大豆など様々な穀物がごちゃごちゃに積まれた山があります。これを夕方までに一粒一粒ちゃんと種類ごとに仕分けしなさい!と。さすがにプシュケは不可能だと思い呆然とします。そこへ、小さな蟻がやってきます。蟻はプシュケを気の毒に思い、大勢の仲間の蟻を呼び集め、穀物の積まれた山を一生懸命に分別し片づけてしまいました。

これを見たヴィーナスは、「穀物を分別したは、お前じゃないね!」と言い、寝室に戻ってしまったのです。

 

無理難題:黄金の羊の毛を取ってくる

次の日、ヴィーナスはプシュケを呼び、こう言います。「あそこに森がみえるだろう?そこには河があって、金色の羊がいつも草を食べにくる。黄金の羊の毛を、至急取ってきて!」と。プシュケは命令に従い、取りに向かいます。すると河に生息する緑の葦(あし)が、プシュケにこんな歌を聞かせてくれます。「この時間は羊たちはとても凶暴になるから、近寄っては駄目だよ!!憐れな最後を遂げるだけだから。でも真昼になると、羊たちも穏やかになる。その時間に羊の毛を集めるのがイイよ!」と。

またもや不可能かと思われた試練でしたが、プシュケはアドバイスをもらい無事クリアします。

しかし、2つ目の試練についてもウェヌスは気に入らなかったのです。どうせ、誰かが手伝ったくらたからだと言い、認めてくれようとしません。そして、「今度こそ本当の試験だからね!」と言い、3つ目の試練をプシュケに与えます。

 

無理難題:プロセルピナから美の小箱を持ち帰る

ウェヌスは手箱をプシュケに渡し、「冥界のプロセルピナから容色(ようしょく)、つまり美貌を分けてもらってきて!」と命じます。

さすがに今回の試練には死を覚悟したプシュケ。なぜなら、冥界は死の場所だからです。プシュケは高い塔へ行き、そこから真っ逆さまに身を投げようとします。すると、塔からこんな声が聞こえてきました。「なぜ、あなたは死のうとしているの?確かに、冥界へは行けるけれど、二度と戻ってくる事はできなよ!それよりも、ラケダイモーンという町に向かいなさい。そこには冥界へと通じる道があるから。」と親切にアドバイスをしてくれます。

ようやくプシュケは冥界に到着。そして、プロセルピナから「決して箱を開けてはいけないよ!」と言いつけされた上で、快く美の詰まった手箱をもらい受けます。

 

「小箱を開けるプシュケ」(1904年)ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

「小箱を開けるプシュケ」(1904年)ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

・117×74cm、カンヴァスに油彩、プライベート・コレクション

さて、本当なら急いでウェヌスの元へ戻るところ。でも、安心したせいか?好奇心にも駆られ、プシュケは手箱を開けてしまったのです。すると、地獄の眠りが立ち上り、プシュケを包み込みます。プシュケはその場で崩れ落ちてしまいます。まるで、死んでしまったかの様に…。

プシュケの危機を察知したクピドは、急いで駆けつけます。そして、プシュケの目を覚まさせ、こんな言葉をかけるのでした。「またしても、お前は好奇心に駆られ、死ぬところだったじゃないか!無事試練は片づけて、後は僕が何とか後始末をするから。」と言って、ウェヌスの元へと戻るのでした。

「プシュケとアモルの結婚」(1744年)フランソワ・ブーシェ

「プシュケとアモルの結婚」(1744年)フランソワ・ブーシェ

・93×130cm、カンヴァスに油彩、ルーヴル美術館所蔵

そして、ウェヌスからも許しを得て、最終的にはクピドとプシュケは結婚します。

 

 

「アモルとプシュケ」は、”嫁姑問題”解決のヒント!?

何が見所!?

後半の「アモルとプシュケ」の話は、見方を変えると非常に面白い事に気が付きます。

まるで現代版”嫁姑問題”に似ていると思いませんか?

プシュケが嫁で、女神ウェヌスが姑に当たります。最初ウェヌスは、プシュケの美しさに嫉妬していましたが、つまり女性として嫉妬したわけですね。それが後半になると、ちょっと違います。ウェヌスは女性としてではなく、母親としてプシュケに接していたように見えます。

「プシュケと王座のウェヌス」(1883年)エドワード・マシュー・ヘイル

「プシュケと王座のウェヌス」(1883年)エドワード・マシュー・ヘイル

 

女神ウェヌスは、子”クピド”と結婚した事を知り激怒します。なにせ自分の知らない間に結婚していたわけですから。しかもその相手が”あのプシュケ”だった。さらに、プシュケは約束を破りクピドを傷つけてしまった。親でもあるウェヌスにとっては、たまったものではないでしょうね。

そうしてウェヌスは試練と称し、様々な難題をプシュケに課しますが、まるで現代版の”嫁姑”の関係に似ている感じがしてならないのです。(決してすべての嫁姑の関係性についてではなく、一般的に仲が良くない嫁姑の関係についてですが。)

ただウェヌスが与えた試練が、決して生易しいものではないのもポイント!ハッキリ言って”殺意”が感じられます。プシュケを殺すつもりで無理難題を課しているからです。

最終的にはウェヌスの許しを得て、ハッピーエンドになっていますが、それまでの過程がちょっとえげつないですね。

 

それでも、後半の話は嫁姑問題解決のヒントも含まれている様で、実に奥の深いストーリーにも見えてきます。

私の周りでも姑と上手くいかない…と嘆く女友達がいますが、ぜひこの「アモルとプシュケ」の話を伝えてあげたい!!

ヒントは夫であるクピドでしょうね!!母ウェヌスに許しをもらえるよう交渉したりと、嫁と姑の間に割って入り、仲介役をしているからです。一般的に嫁姑問題で上手くいかないのは、やっぱり夫の存在が大きい様です。このクピドの行動は、嫁姑の関係修復の大きなヒントになると思いませんか??

まさに、生きた教材ですね。

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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