バロック期の建築家で画家”ピエトロ・ダ・コルトーナ”を解説!

ピエトロ・ダ・コルトーナを解説

 

日本ではあまり作品の展示がなく、知られていない画家はたくさんいます。

今回紹介すのは、バロック期を代表する画家で建築家ピエトロ・ダ・コルトーナです。

 

普段本やネット上で度々目にするとはいえ、そのほとんどが天井画や壁画の類。日本で展示できるかと言ったら…、さすがに難しいですよね。そのため同時期に活躍したイタリアの画家と比べると、一歩下がると言うか、陰に隠れる感じになっている様です。

 

でも調べれば調べるほど、実は凄い芸術家!

というわけで、今回は”ピエトロ・ダ・コルトーナ”について私なりに解説していこうと思います。

 

目次


ピエトロ・ダ・コルトーナの代表作を2つ見てみよう!
コルトーナの画風を分かりやすく解説!
バロック期の建築家で画家”ピエトロ・ダ・コルトーナ”を解説!
コルトーナの他の作品も見てみよう!

 

 

 

 

”コルトーナ”の代表作を2つ見てみよう!

なるほど!(We See!)

先日の「永遠の都 ローマ展」で、一気に興味が湧いたピエトロ・ダ・コルトーナ(Pietro da Cortona)

ある程度美術を知っている人なら、おそらく知っている画家だとは思いますが…、如何せん日本での展示機会はあまりない様です。私の場合はこれまで本やネットで目にする事がほとんどでしたし、その多くが天井画や壁画の類でしたから。なかなか日本で見れるかと言えば、やっぱり難しいのでしょう。

 

ただバロック期を代表する芸術家なのは、間違いのない事実!

先日「永遠の都 ローマ展」でコルトーナの作品と出会い”イイ機会!”と思い、もうちょっと迫って深掘りしてみたわけです。

 

パラッツォ・バルベリーニの天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・フレスコ画、パラッツォ・バルベリーニ(ローマ国立美術館)の天井フレスコ画

天井フレスコ画神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)

おそらく多くの本や辞書で、コルトーナの代表作として紹介されていると思います。というか、最高傑作と称しても過言ではないと思います。見て分かる様に、バロック芸術を象徴するかのような大胆な人体表現は特に圧巻!これを描いたのが、コルトーナ30歳後半というから凄い。

 

実はたまに本でも目にする作品ですが、見る度に鳥肌が立ってきます。一度でいいから、パラッツォ・バルベリーニ(現ローマ国立美術館)に行って、本物の天井フレスコ画神の摂理』を観てみたいものですね。

ちなみに、作品名に”バルベリーニ家の栄光への寓意”と書いてあると思います。
※寓意=直接には表わさず、別の物や事で間接的に表す事。

画に描かれている”ある虫”が、バルベリーニ家の栄光を意味しているわけですが。それは次の”コルトーナの画風・特徴”で解説していこうと思います。

 

 

してもう一つ代表作を挙げるとすれば…

「サビニ女性の略奪」(1627‐29年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

「サビニ女性の略奪」(1627‐29年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・280.5×426cm、カンヴァスに油彩、カピトリーノ美術館所蔵

神話画サビニ女性の略奪になるかと思います。

ローマを建国した初代皇帝ロムレスが、女性が少なく将来的に国会維持が出来ないと考え、近隣のサビニから未婚の女性を略奪したとされる逸話を描いた作品。普通に考えて、初代皇帝の功績や活躍を絵にするなら分かりますが、黒歴史的エピソードを描くって…。神話画ってお堅いイメージがありますが、時には人間らしい生々しさが描かれる事もある。これが神話画のオモシロさでもありますね!

もちろん「サビニ女性の略奪」もバロック的画風が特徴的です。ドラマチック(劇的)な人物描写と装飾的な色彩表現は印象的ですね。詳しい画風については次で解説しますが、コルトーナの画風を一言で表現するならオーバーな人物描写と色彩表現といったところでしょうか。

 

 

 

ピエトロ・ダ・コルトーナの画風を分かりやすく解説!

解説

コルトーナはバロック期に活躍したイタリアの画家で、建築家です。

 

バロック…、一般的にドラマチック劇的)な表現”が特徴と言われています。

イタリアの画家カラヴァッジョは、その最たる例でしょうか。写実的で強烈とも言える明暗対比は、まさにバロック絵画を象徴する特徴だと思います。

 

ただコルトーナの場合は、カラヴァッジョの画風とはまたちょっと違います。

 

では一体どう違うのか??

パラッツォ・バルベリーニの天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』ピエトロ・ダ・コルトーナ

 

これは「神の摂理」をクローズアップ(detail)した部分ですが、明暗のコントラストというよりは、色彩のコントラストが際立っている感じがします。

私の解釈では、バロックの神髄はメリハリ”に尽きると思っています。

カラヴァッジョとコルトーナは画風に違いはあるにせよ、メリハリがあるという意味では同じ。カラヴァッジョは明暗のメリハリに対し、コルトーナは色彩のメリハリという感じでしょうか。共にバロックを代表する芸術家と言っても間違いないわけですね。

 

そしてコルトーナの最も特質すべきは、何といっても豪快な構図と人物描写!

パラッツォ・バルベリーニの天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

 

よ~く見ると分かりますが、まるで柱の装飾?をまたいで描かれている様に見えませんか?枠をはみ出して描く豪快な構図は、コルトーナならでは!まるで人物が飛び出しているかの様ですね。

ちなみに『鑑賞のための 西洋美術史入門』では、バロック的イリュージョニスムと説明されていました。絵に奥行きがあって、立体的でダイナミックな人物描写という表現になるかと思います。

 

 

て、もう少し深掘りして見ていこうと思います。

パラッツォ・バルベリーニの天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』ピエトロ・ダ・コルトーナ

※寓意=直接には表わさず、別の物や事で間接的に表す事。

この天井フレスコ画『神の摂理』は、当時の枢機卿バルベリーニの依頼によって制作したもの。

上の中央に描かれている3匹の蜜蜂(ミツバチ)が見えると思いますが、これはバルベリーニ家の紋章を表わしています。

バルベリーニ家の人間が、枢機卿にまで上り詰めた事は栄光で名誉な事であり、今後も未来永劫繁栄は続いていく。これは神の意思でもあり法則なのだ!と。こういった強い意志やメッセージが込められているというわけです。

 

パラッツォ・バルベリーニの天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ パラッツォ・バルベリーニの天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ
※上の2枚は天井画のdetail(一部分)です。クリックして大画面でどうぞ!

これほどまでダイナミックに描かれているわけですから、実際にこの目で見てみたいものですね。

現在パラッツォ・バルベリーニは、ローマ国立美術館として作品も展示しています。ちなみに、ラファエロやティツィアーノ、カラヴァッジョの作品も所蔵されています。建物の天井画もさることながら、所蔵している作品も巨匠揃い!という訳です。

 

 

 

 

バロック期の建築家で画家”ピエトロ・ダ・コルトーナ”を解説!

Story

ここからはコルトーナの生い立ちと、作品をいくつか挙げていこうと思います。

実は調べていくと、いかにコルトーナが凄い芸術家なのかが分かってきます。

バロックといえば、一番知られている画家にカラヴァッジョが挙げられると思いますが、私の解釈では正直言って甲乙つけがたい。特に宮殿や教会などの室内装飾画の分野では絶大です。漆喰装飾とフレスコ画を組み合わせた華やかな天井画は、その後のバロック絵画に大きな影響を与えた程ですから。

 

 

こで、参考として『新潮 世界美術辞典』を挙げてみたいと思います。

ピエトロ・ダ・コルトーナ Pietro da Cortona

(本名ピエトロ・ベレッティーニ Pietro Ber(r)ettini)1596.11.1ー1669.5.16

イタリア・バロック期の建築家、画家。コルトーナに生れ、ローマで没。石工の子として生れ、フィレンツェの画家コンモディ(Andrea Commodi、1560ー1638)に師事し、1613年ともにローマに行き、はじめサッケッティ(Sacchetti)家のために、次いで枢機卿バルベリーニのために働いた。パラッツォ・バルベリーニの大天井フレスコ『神意とバルベリーニ家の栄光への寓意』(1633ー39)でバロック的イリュージョニスムを実現する。サンティ・ルーカ・エ・マルティーナ聖堂の設計で才能を認められ、1634年アカデミーア・ディ・サン・ルーカの校長となった。1637ー47年はフィレンツェでパラッツォ・ピッティの装飾を行った。ふたたびローマに戻り、キエーサ・ヌオーヴァ、パンフィリ宮にフレスコ画を描き、サンタ・マリーア・デㇽラ・パーチェ聖堂の正面(1657)、サンタ・マリーア・イン・ヴィア・ラータ(1658ー62)の正面、サン・カルロ・アル・コルソ聖堂のドーム(1668)をつくった。円柱と壁体との力強い装飾効果を用いながら、内部には彫像を俳し壮重な統一性を実現、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ、ボㇽロミーニと並ぶ盛期バロックの代表的建築家とされる

・出典元:『新潮 世界美術辞典』

 

新潮「世界美術辞典」

さて、後半に気になる一文があると思います。

円柱と壁体との力強い装飾効果を用いながら、内部には彫像を俳し壮重な統一性を実現、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ、ボㇽロミーニと並ぶ盛期バロックの代表的建築家とされる。

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ”と”フランチェスコ・ボㇽロミーニ”の2人は、バロック期を代表する偉大なる建築家です。私でも知っている程ですから、いかにコルトーナが建築家としても偉大だったかが分かりますよね。

 

 

してもう一つ気になるワードがバロック的イリュージョニスムです。

 

パラッツォ・バルベリーニの天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

天井フレスコ画『神の摂理(神意とバルベリーニ家の栄光への寓意)※detail』(1633‐39年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

 

平面でありながら絵に奥行きがあり、まるで飛び出してくるかの様な立体的な人物描写!

特にコルトーナの室内装飾画は、この”バロック的イリュージョニスム”が大きなポイントだろうと思います。

 

ピッティ宮殿のフレスコ画「銅の時代(Age of Bronze)」(1641年)ピエトロ・ダ・コルトーナ

ピッティ宮殿のフレスコ画「銅の時代(Age of Bronze)」(1641年)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・ピッティ宮殿のフレスコ画(フィレンツェ)

 

ピッティ宮殿のフレスコ画「鉄の時代(Age of Iron)」(1641年)ピエトロ・ダ・コルトーナ

ピッティ宮殿のフレスコ画「鉄の時代(Age of Iron)」(1641年)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・ピッティ宮殿のフレスコ画(フィレンツェ)

俗に『人類の四時代』と呼ばれるコルトーナの大作!です。

各200×100cmの大きさで、ピッティ宮殿の一室”ストゥーファの間”に飾られているフレスコ画。

コルトーナがフィレンツェ滞在時、当時トスカーナ大公フェルディナンド2世の住居パラッツォ・ピッティ(ピッティ宮殿)に描いた装飾画。上の「鉄の時代」「銅の時代」以外に、「黄金の時代」と「銀の時代」の計4つの画で構成されています。

余談ですが、ピッティ宮殿は1982年に「フィレンツェ歴史地区」の名で世界遺産(文化遺産)に登録。現在は美術館として公開されています。以前日本で展示されたラファエロの「大公の聖母」も所蔵しています。

 

 

 

 

コルトーナの他の作品も見てみよう!

考え

代表作の多くは天井画やフレスコ画になりますが、もちろん絵画作品も忘れはいけない。人物の立体感や躍動感では、フレスコ画に一歩譲るとはしても、バロック絵画を象徴するダイナミック(劇的)な表現はしっかりと表れていると思います。

 

「教皇ウルバヌス8世の肖像」(1624‐27年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

「教皇ウルバヌス8世の肖像」(1624‐27年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・199.0×128.0cm、カンヴァスに油彩、カピトリーノ美術館 絵画館所蔵

『永遠の都 ローマ展』では、コルトーナのパトロンでもあったウルバヌス8世の肖像画が展示されていました。この人物の支援もあり、代表作『神の摂理』を制作するに至ったわけです。

 

「聖母子と聖人たち」(1626‐28年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

「聖母子と聖人たち」(1626‐28年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・296×205cm、カンヴァスに油彩、ブレラ美術館所蔵

 

「聖母子と聖人たち」(1626‐28年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

「聖母子と聖人たち」(1626‐28年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・285×188cm、カンヴァスに油彩、サンタゴスティーノ聖堂所蔵

宗教画ではあるのだけど、極めて装飾的です。カラヴァッジョの明暗のコントラストと違い、コルトーナは色彩のコントラストが際立っている感じがします。

 

「聖ラウレンティウスの殉教」(1653年)ピエトロ・ダ・コルトーナ

「聖ラウレンティウスの殉教」(1653年)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・320×210cm、カンヴァスに油彩、サンティ・ミケーレ・エ・ガエターノ聖堂(フィレンツェ)

なぜバロック絵画が、これほどまでダイナミックだったのか?

それは当時の宗教観が大きく影響していたと言われています。バロック期のイタリアはカトリックが主流でした。プロテスタントの勢力に押され気味だったため、カトリックは派手な宗教画を好んでいたという背景があったのです。

 

 

「アエネイアースの前に現れるヴィーナス」(1631年)ピエトロ・ダ・コルトーナ

「アエネイアースの前に現れるヴィーナス」(1631年)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・127×176cm、カンヴァスに油彩、カピトリーノ美術館所蔵

 

「ロムレスとレムスを拾い上げるファウストゥルス」(1643年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

「ロムレスとレムスを拾い上げるファウストゥルス」(1643年頃)ピエトロ・ダ・コルトーナ

・251×266cm、カンヴァスに油彩、ルーヴル美術館所蔵

ローマの建国神話を語る上で重要な場面を描いた作品。

牝狼によって育てられたロムレスとレムスを、羊飼いファウストゥルスが拾い上げる場面が描かれています。

 

一見カラヴァッジョの陰に隠れる感じではあるけれど、調べれば調べるほどコルトーナがいかに優れた芸術家だったのか!バロック期を語る上で、ピエトロ・ダ・コルトーナが外せないのが分かるかと思います。

画家の生い立ちや背景が分かってくると、作品もより深みを帯びてくる。そして画家の偉大さも分かってくる。これも芸術のオモシロさであり、醍醐味ですね。

 

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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