ジャン=レオン・ジェロームの「灰色の枢機卿」を解説!

灰色の枢機卿

 

ジャン=レオン・ジェロームの「灰色の枢機卿(Eminence grise)」。

この作品は見れば観るほど深みがあります。画家ジェロームの描いた歴史画や神話画は、どれもが緻密に描かれています。しかも随所に意味あり気なものが散りばめられているのも特徴的!まるで謎解きの様な感覚で、深みにハマって魅入ってしまうのです。

 

「灰色の枢機卿」(1873年)ジャン=レオン・ジェローム

「灰色の枢機卿」(1873年)ジャン=レオン・ジェローム

・65×98.5cm、カンヴァスに油彩、ボストン美術館所蔵

これは現在ボストン美術館に所蔵されている作品「灰色の枢機卿」。ルイ13世の宰相を務めたリシュリュー枢機卿の邸宅の場面を描いた作品です。

書物を読みながら階段を降りてくる人物はリシュリューの腹心の修道士。左側には色とりどりの艶やかな服装をした貴族たちが、修道士に対して深々と頭を下げています。でも修道士は貴族たちに全く見向きもしていません。

鮮やかな服装をした貴族たちと、中には赤い服を着た枢機卿らしき人物もいます。普通に考えて身分の高い貴族や枢機卿が、修道士に対してここまで深々と頭を下げるのはおかしい。

 

この修道士は一体どれほどの力を持っているのか?

このジェロームの「灰色の枢機卿」は、疑問を掻き立てる深みに満ちているのです。

 

 

「灰色の枢機卿」を紐解く!…リシュリュー枢機卿って?

さて、「灰色の枢機卿」に描かれた修道士に迫っていこうと思います。

まず1つ目のポイントは、修道士の後ろに描かれているタペストリーです。これは当時ルイ13世の宰相を務めたリシュリュー枢機卿の紋章。修道士は当時実質的権力者だった人物リシュリュー枢機卿の後ろ盾があったのが分かります。

 

「リシュリュー枢機卿の肖像画」(1633‐1640年頃)フィリップ・ド・シャンパーニュ

「リシュリュー枢機卿の肖像画」(1633‐1640年頃)フィリップ・ド・シャンパーニュ

本名”アルマン・ジャン・デュ・プレシー・ド・リシュリュー
(Armand Jean du Plessis de Richelieu、1585~1642年)

リシュリュー枢機卿は聖職者でありながら、手腕を認められ政界へ進出した人物。優れた政治家であったけれど、反対に冷徹な面もあったと言われています。

例えば当時貴族たちの習慣でもあった決闘を禁止しますが、従わない貴族たちが多かったと言います。リシュリューは従わない貴族をことごとく処罰したのです。また自身がカトリックの聖職者でありながら、国益のためカトリック教会を裏切ったりした。政治家としては優秀だったかもしれないけれど、反面多くの敵も作り、恐れられた人物でもあったのです。

 

「ラ・ロシェル包囲戦を指揮するリシュリュー枢機卿」(1881年)アンリ・ポール・モット

「ラ・ロシェル包囲戦を指揮するリシュリュー枢機卿」(1881年)アンリ・ポール・モット

・112×190.5cm、カンヴァスに油彩、ラ・ロシェル美術館所蔵

ラ・ロシェル包囲戦はフランスのカトリックとプロテスタントによる宗教戦争の事。この作品はフランス王国カトリック軍が、ユグノー(フランスのプロテスタント)が立て籠るラ・ロシェルを攻撃している場面を描いています。この包囲戦によって27,000人いたラ・ロシェル人口(市民と兵士)のうち、22,000人が亡くなったと言います。

戦場で赤い衣装を身にまとっているリシュリューの姿…、枢機卿という聖職者の立場にありながら、戦場の指揮を執っている姿はまさに違和感満載です。ちなみに奥に見える修道服の人物の中に、実は灰色の枢機卿と呼ばれるジョゼフ神父が描かれているのも注目です。

さて、余談ですがこの「ラ・ロシェル包囲戦を指揮する枢機卿」を描いた画家は”アンリ・ポール・マット”。実はジェロームの弟子だった人物です。

 

優れた政治家でありながら、冷徹さも兼ね備えていたリシュリュー枢機卿。灰色の修道士は、当時恐れられたリシュリュー枢機卿の後ろ盾があり、守られていたわけです。敵に回したら怖い枢機卿の腹心だった人物なわけですから、そりゃあ頭を下げるのは当然と言えば当然。このシーンでは当時のリシュリュー枢機卿の権力を物語っているわけです。

 

 

「灰色の枢機卿」を紐解く!…灰色の修道士ジョゼフ神父とは?

灰色という地味な修道服を着ているにも関わらず、でも貴族たちから頭を下げられるほどの人物。このギャップにも興味を注がれませんか!?

さて、この絵のタイトルにもなっている”灰色の枢機卿”はジョゼフ神父という人物です。

 

本名はフランソワ・ルクレール・デュ・トランブレー
(François Leclerc du Tremblay、1577~1638)

フランス語で灰色の枢機卿(Eminence grise)の用語の起源となっている人物です。

1612年にリシュリューのと親交が始まり、そしてカプチン・フランシスコ修道会の助力もあって、後に政界入りします。そしてリシュリューの腹心となってからは、外交交渉の場にも共にすることが多く、ラ・ロシェル包囲戦にも参加しています。

リシュリュー枢機卿の相談役、腹心だった灰色の修道士”ジョゼフ神父”。まさに”影の参謀”、”黒幕”と言った存在でしょうか。

ジェロームの「灰色の枢機卿」は、まさにそんな深みのある作品だと思います。

 

ちなみに「ボストン美術館展」で展示されます。

【ボストン美術館展 芸術×力】

・2022年7月23日(土)~10月2日(日)まで、東京都美術館にて

ぜひ、間近で観るのも面白いと思います。

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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