- 2016-1-25
- Artwork (芸術作品)
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サンドロ・ボッティチェッリの「アペレスの誹謗(Aalumny of Apelles)」。
言わずと知れたルネサンス期の巨匠で、寓意画を代表する作品です。
寓意は「意味を直接表わさないで、別のものに託して表すこと」なので、作品を一見しただけだと分からない部分も多いでしょう。背景や意味が分かってこそ、作品に深みが増してくるわけですから。
まず寓意画を楽しむ秘訣は、作品の背景や意味を探る事に尽きると思います。
特に「アペレスの誹謗」は描かれている人物も多いだけに、なおさら理解するのも難しいでしょうね。今回は日本でも展示された事のあるボッティチェッリの名画「アペレスの誹謗」について、私なりに分かりやすく解説していきたいと思います。
※随所に関連する作品も挙げているので、参考に見て下さいね!
まずは「アペレスの誹謗」の”触り部分”を解説!
・62×91cm、カンヴァスに油彩、ウフィツィ美術館所蔵
いきなり背景について説明するのもなんですから、まずはどんな絵なのか簡単ですが話していこうと思います。
まず手短に説明するなら、「アペレスの誹謗」は古代ギリシアで最も有名な画家アペレスの作品を再現したもの。
アペレス(Apelles)は古代ギリシアでも特に有名で、当代最高の画家と言われた人物でした。アレクサンドロス大王の宮廷画家として仕えたと言われています。この説明だけでも、いかにアペレスが凄い画家だったかが分かると思います。でも現在アペレスの作品は消失して、現存しているものはないと言われています。どんな絵を描いたのか?知るすべはないというわけです。
ではボッティチェッリは、何を元に復元したのか??
古代ギリシアの作家ルキアノス(Lucianos)の書物を元に描いたというわけですね。
・42.5×54.0cm、カンヴァスに油彩、ゲティ・センター所蔵
ただ書物ですから、アペレスとボッティチェッリの作品を見比べる事はできない。どちらが勝っているとか、どう違うのか??そういった描写の比較が出来ないのが、何とも残念ではあります。
でも分からないからこそ、余計ロマンも湧いてくると思っています。もし今後アペレスの作品が発見出来たら、いつしか解明できるかもしれないから…。
ボッティチェッリの「アペレスの誹謗」を、さらに探ってみた!
サンドロ・ボッティチェッリの「アペレスの誹謗」は寓意画です。”意味”が人物に擬人化されているわけです。
という事は、一人一人の人物には何かしら意味が込められているわけです。寓意画は背景や意味が分かると、より深みを増してくると先ほど話したと思います。
それでは、もうちょっと人物に絞って探っていこうと思います。
・62×91cm、カンヴァスに油彩、ウフィツィ美術館所蔵
画には計10人の人物が描かれているわけですが、それぞれに意味を付けてみました。
どうでしょう??これで何が描かれているのか、少しは分かってきたかと思います。
黒い衣装を身にまとった男『憎悪』は、『無実』の青年に対し恨みでもあるのでしょうか?『誹謗』の女性を引き連れながら、『無実』の青年を王の元へ差し出します。
対して、右側で座っている『不正』の人物(王様)は、両側の女性『無知』と『猜疑』に何やら悪い噂を吹き込まれているようです。結局『無実』の青年は潔白なのに関わらず、罪の判決を下されてしまう。
こういった解釈が読み取れると思います。
でもこれだけでは、まだまだ浅い!
もう少し深堀していこうと思います。
画像をちょっとドアップ気味にしているので、人物描写がより分かるかと思います。
右側には巨大な驢馬(ロバ)の耳を持ったミダス王が座っています。通常”驢馬”は愚かさを意味する動物と言われているそうです。そんな王の脇には『無知』と『猜疑』の2人の女がいます。2人はミダス王に悪い忠告でも吹き込んでいるのでしょうか。
※猜疑(さいぎ)…人をうたがったり、ねたんだりする事。自分にとって不利になるのではないか?と思い、人をうたがったりする事です。
まるで病気でも患っているのだろうか?青ざめた表情と刺すような目つきをした男性『憎悪』に導かれるように、『誹謗』の女性が王の元へ近づいていきます。『誹謗』の女性は美女として表されていますが、興奮で我を忘れてしまっている。左手には燃える松明を持ち、もう一方の手で若い男の髪を掴んで引きずっています。青年は『無実』な人間で、両腕を天に差し上げ神へ潔白だと祈りを捧げています。青年は不当に告発された『無実』の擬人像を表わしています。
そして『誹謗』の背後には『嫉妬』と『欺瞞』の2人の女性が付き従っている。2人の女性は『誹謗』の女性の髪を花で飾っています。王(裁判官)の印象が良くなるよう、『誹謗』の女性を着飾っているわけですね。
左側にはボロボロに破れた黒衣をまとった『後悔』の女性が描かれています。『後悔』の女性は恥じ入り、涙を浮かべながら後ろを振り向いています。その先には『真実』を擬人化した裸の人物が、天を指さし立っているのでした。
※『西洋美術解読事典』や『新潮世界美術辞典』などを参考に、私なりに分かりやすくまとめてみました。
いかがでしたでしょうか!?
寓意画は意味や背景を探る事が大事!だと思っています。作品により深みを増してくるからです。そして同時に、様々な解釈も生まれてきます。これが”寓意画”の一番の醍醐味かもしれませんね!
最後にまとめと、私の解釈はこうです!
ボッティチェッリの「アペレスの誹謗」は、東京都美術館で開催した「ボッティチェッリ展」で展示された作品でした。
そういえば、最初私が見た時は物凄い違和感を覚えたものです。とても厳かな神聖なる神殿で、手を挙げている聖人らしき人物がいれば、対してボロボロの黒装束を着た怪しい人物も描かれている。確かに何かしら意味あり気なのは分かりますが、それでもちょっと不気味と言うか怖さもあったからです。
でも作品を探っていくと、いろんな意味で作品への印象も変わってくるし、新たな解釈も生まれてくる。つくづく”寓意画”って面白いな~と思いますね。
・62×91cm、カンヴァスに油彩、ウフィツィ美術館所蔵
さて、締めに「アペレスの誹謗」の私的まとめ解釈をしようと思います。
『無実』の青年が王の前へ突き出されるまでの描写では、青年に対して誰一人手助けする者がいなかった。青年を憎む者もいれば、そそのかされ利用される者。保身のため王に告げ口をする者。その告げ口の言いなりになってしまう愚かな王。様々な人間たちによって、無実の人間が処罰されるという場面がこの1枚に集約されているわけですね。
ただ唯一の救いは、左側に描かれた『後悔』と『真実』の2人の人物。青年が処罰される前に『後悔』の女性が到着していれば、『無実』の青年を救えたかもしれない。私が思うに『後悔』の女性は、青年の母親なのでは?と思うのです。これは私の解釈なので正解かどうかは分かりませんが、『後悔』の女性の姿や年齢から推測してこうなるわけです。
・113.3×180.1cm、カンヴァスに油彩
ボッティチェッリが生きていたルネサンス期では、学ぶべき歴史画として「アペレスの誹謗」が取り挙げられたそうです。当時多くの画家たちが「アペレスの誹謗」を再現しようと、こぞって挑戦していた事からも伺い知れますね。もちろん、それだけ深みがあるって事なんでしょうけど、今回深掘りして改めてその理由が分かった気がします。
なにせ、ここまで深みのある作品なわけですから。
「寓意画」は調べれば調べるほど、深みが生まれてくる作品です。だから面白い!!
「アペレスの誹謗」は様々な画家が描いた題材でもあるので、今後見る機会もあるでしょう!!今回の話をちょっとでも参考にしてもらえると幸いですね。
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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