- 2022-10-31
- Impression (絵画展の感想)
- コメントを書く
東京丸の内に居るのに、一昔前の西洋にタイムスリップしたかの様な…。
そんな都会のオアシス的な場所”三菱一号館美術館”で「ヴァロットン 黒と白」展を観てきました。タイトルの”黒と白”、つまりフェリックス・ヴァロットンの木版画をメインにした企画展です。
モノクロの木版画というと、古臭さや味気無さ感じる人も多いと思いますが、でもヴァロットンの版画は一味も二味も違う!!ユーモア溢れる画風と、デザインセンスが光る版画は、あなたが思う版画の先入観をことごとく打ち破ってくれると思います。
ぜひ、三菱一号館に行って体感してほしいですね。^^
【ヴァロットン 黒と白】 ・会期:2022年10月29日(土)~2023年1月29日(日)まで ・時間:10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで) |
今回はヴァロットン展のレビューをしながら、私なりの見所について話していこうと思います。ぜひ、参考にしてもらえたら幸いですね。
19世紀に木版画!?
フェリックス・ヴァロットン(1865年~1925年)は、モネやゴーギャンとほぼ同じ時期に活躍した画家で版画家です。もうこの頃は印刷技術の発展で、木版画は時代遅れになっていた時期。そんな19世紀に木版画を制作するって、ちょっと異色というか、時代遅れというか…。
でもヴァロットンの木版画は、古さを感じさせない何か?があります。それは見てみると分かると思います。
・23.4×13.9cm、リトグラフ
・23.1×14.3cm、リトグラフ
人物の顔はしっかりと描かれているのに、胴体はかなり崩しています。こういった風刺を利かせた人物画は見ているだけでも面白いですね。初めにこの様な風刺的人物画がいくつか展示されていましたが、観ていてふと若い頃のクロード・モネを思い起こしてしまいました。実はモネも青年期は滑稽で風刺的な人物画(カリカチュア)を描いていたのです。
さて、私の持論ですがモチーフを崩して描けるのは、絵の上手い証拠だと思っています。今回風刺画を見て感じた事は、”当たり前と言えば当たり前ですが、ヴァロットンって絵が上手いんだな~”と。
・14.5×25.5cm、木版(Woodcut)
それにしても、なぜ19世紀にあえて木版画を制作する様になったのか?
それはヴァロットンの生きていた時期を考えれば、分かってくると思います。
フェリックス・ヴァロッンが木版画を制作し始めた時期は、1890年に入ってからです。ちょうど印象派からポスト印象派が流行った時期です。ここでピン!と来た人は相当な絵画通だろうと思います。この頃西洋では日本の浮世絵がブームで、画家の間でも人気がありました。浮世絵は当時の生活や出来事をテーマにした作風で、西洋画でいう風俗画の様なもの。主に多色版画による浮世絵が当時の西洋では多く出回っていた様です。
つまりヴァロットンは、日本の浮世絵に感化され木版画を制作し始めたわけです。
・20.3×32.0cm、木版(Woodcut)
・17.3×25.1cm、木版(Woodcut)
日本の浮世絵による影響が強かったと思うと、ヴァロットンの木版で事件や出来事をテーマにした作品が多いのも何となく分かる気がします。
・19.9×26.0cm、木版(Woodcut)
本来、事件をテーマにした作品は、グロテスクさや恐怖さが付きものですが、なぜかヴァロットンの版画はそんな感じがない。風刺を利かせているからか、パロディ風だからなのか?すんなりと見れてしまうのは、まるで漫画を見ている様な感覚です。
私が思うに木版の特徴を活かすために、あえて風刺を利かせていると思っています。木版画はモノクロで平面的で、線がハッキリとしてしまう。そんな木版の特徴というか、良さを活かすためにあえて漫画風、コメディチックにしているのかな?と思っています。
時代遅れになった木版画が、19世紀でもそれなりに評価された理由には、木版画の長所を最大限に活かしたからだろうと思っています。
・17.8×22.0cm、木版(Woodcut)
今回特に惹かれた作品がこの「突風」。版画は線がハッキリとする特徴だけに、煙の様な淡い感じを表現するにはあまり向かないのでは?と思いますが、ここでは煙の描写を上手い具合に描いています。煙にまみれた猫?犬の描写が実に上手い!今の漫画にも通じる感じがしませんか?
改めて思いますが、ヴァロットンの作品は挿絵との相性が実にイイ!のが分かります。この『ル・リール』誌は、1894年~1950年頃までに刊行されたフランスの風刺雑誌。有名画家の挿絵が多く使用されていて、ヴァロットン以外にはロートレックやアルベール・ギョームなどもいます。
そして後半は特に必見!
後半にさしかかると、ヴァロットンの代表作「アンティミテ」シリーズが展示されています。実はここは私なりの大きな見所だと思っています。
・17.9×22.5cm、木版(Woodcut)
”アンティミテ”は親密さを意味する言葉で、男女の肉体関係や親しい関係を覗き見した感じで描いた作品。まずこの”覗き見”した様な独特な視点はヴァロットンらしさで、一つ目の見所だと思っています。
参考)⇒ヴァロットンのセンスが光る木版画「アンティミテ」
・17.9×22.6cm、木版(Woodcut)
・22.5×17.8cm、木版(Woodcut)
さて、ここで気付いた事はありませんか?
実はヴァロットンの作風は線重視から、平面的な感じに変化しているのです。
参考ですが、ヴァロットンの版画について、こんな解説を挙げてみたいと思います。
【 ヴァロットンの木版画 】
1890年代に集中する黒と白のみの板目木版画群。黒い地の面に白い図柄の効果を巧みに利用した、明快で潔い構成は、当時「木版画のルネサンス」と評された。ジュネーヴ美術歴史博物館には全作品がある。
出典元:西洋絵画作品名辞典
この解説文で注目して欲しいポイントが!
私が思うに”潔い”という言葉は、ヴァロットン版画の凄さ!を象徴していると思っています。ヴァロットンは徐々に面を重視した作風に変化していきました。あれこれと線でモチーフを表現するのでなく、シンプルな面で表現する。最小限の彫り数で、人物の動きや様子を表わしているわけですね。ここにヴァロットンの画力の高さが凝縮されていると思うのです。
私の経験談にもなりますが、シンプルになればなるほど、いかに表現するのが難しいか?一見すると細かい描写ほど上手いと思いがちだけれど、実は限られた線と面のシンプルな画ほど画家の画力が問われると思っています。この画力の高さは、「ヴァロットン展」での一番の見所だと思っています。
「ヴァロットン 黒と白」展は、2023年1月29日まで開催します。
東京駅から歩いてすぐの三菱一号館美術館で観れるので、ぜひ行ってみてヴァロットンの画力の高さ!を堪能してほしいと思います。
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。