「鉄道と美術の150年」を観てきました。in 東京 ST ギャラリー

「鉄道と美術の150年」…東京ステーションギャラリーにて

 

鉄道と美術”をテーマにした企画展が開けるのは、東京駅の丸の内駅舎内にある東京ステーションギャラリーならでは!

この鉄道と美術の150年が開催された背景には、今年(2022年)で鉄道開業150周年という節目がある様です。それだけに展示作品は浮世絵から洋画、写真と質量ともに充実!しかも鉄道の歴史も知れたりと観ているだけでも面白いと思います。

 

東京駅
さて、東京ステーションギャラリーは、駅舎の煉瓦壁をむき出しにした展示室が特徴の美術館です。館内に居るだけで、時代をタイムスリップしたかの様か感覚を味わえてしまいます。そんな雰囲気の中で、鉄道、電車をテーマにした作品を観れるわけですから、ちょっと味わい深く感じてしまいますね。ある意味今回の企画展には最適な場所だと思います。

 

東京ステーションギャラリーの煉瓦壁 東京ステーションギャラリーの煉瓦壁
毎回来るたびに思う事ですが、目の前で歴史ある煉瓦を観れるのは、おそらくここくらいだけではないだろうか!?ほとんどの人はただ通り過ぎるだけだろうけど、時には立ち止まった見てみるのもイイと思います。

では、「鉄道と美術の150年」の内容にちょっと触れながら、見所やレビューをしていこうと思います。ぜひ参考にしていただけると幸いです。

 

 

道と美術の150年

鉄道が開業したのが今から150年前になるわけですが、もうちょっとさかのぼって話をしていこうと思います。

まず日本に鉄道の存在が知られる様になったのは、1854年のペリー来航の時でした。実はペリーからの献上品に蒸気機関車の模型もあったそうです。今展では献上された模型の絵図も展示されていて、意外と歴史的な資料が多く観れるのも見所の一つ。

そして1858年の日米修好通商条約により神奈川港、翌年には横浜港が開港。日本での鉄道建設が一気に進んでいったのです。

 

「横浜海岸鉄道蒸気車図」(1874年)歌川広重(三代)

「横浜海岸鉄道蒸気車図」(1874年)歌川広重(三代)

・35.5×74.3cm、木版 紙、神戸市立博物館所蔵

今から150年前の1872年、ついに新橋と横浜間で鉄道が開通します。たった29キロという距離でしたが、日本の歴史にとっては大きな出来事だったようです。鉄道の建設が決定したのが1869年だったので、開通まで3年ほどで漕ぎ着けたって事でしょうか。当時の日本のスピード感が早かった事に驚きですね。

 

知っての通り明治時代と言えば、文明開化の時代。日本にやって来たのは鉄道だけでなく、西洋の印刷技術もこの頃にやってきました。でもまだまだ出来事を知らせるメディア的な役割は、江戸時代からの浮世絵が主流。鉄道開通の出来事も浮世絵を通して庶民は情報を仕入れていた様です。今展でも浮世絵が多く展示されていて、歌川広重(三代目)歌川房虎月岡房年など浮世絵の雰囲気を活かした異国情緒あふれるものばかり!特に三代目歌川広重の浮世絵は特に必見!どれも赤色が多く使われて、鮮やかで目を惹く作品ばかりです。

ちなみに、三代目の歌川広重(1842‐1894)は江戸時代から明治にかけて活躍した浮世絵師。初代広重の門人で、1865年に3代目を襲名。三代目も初代広重の代表作「東海道五十三次」を制作もしていますが、明治という時代だけに文明開化を伝える浮世絵も多く描いていました。俗に”開花絵”とも呼ばれ、三代目広重の場合は鮮やかな赤を多く用いたため”赤絵”とも呼ばれていたそうです。

 

「新橋ステンション」(1881年)小林清親

「新橋ステンション」(1881年)小林清親

 

これは小林清親(きよちか)の作品。1847年~1915年の明治から大正にかけて活躍した浮世絵師です。この明治時代という時期に、浮世絵師として活動した画家も珍しいと思います。もうこの頃になると西洋の画風を取入れ、洋画家として活動した画家が多かったから。当然清親に対する評価もまちまちで賛否あった様です。”古典的だ!”との意見もある一方、”新たな可能性を表現した絵師”との意見もあった。時代に逆行する形になるわけだから、こういった賛否もあって当然でしょうね。でも浮世絵という媒体を通して、僕らは江戸から明治へと変化する日本を垣間見れるわけですから、これも小林清親のお陰という事になるでしょうか。

 

そして1900年代になってくると、鉄道の発展に伴って、日本の美術界にも西洋画の波がドッと押し寄せてきます。特に注目して欲しい画家を挙げるとしたら、長谷川利行小林猶治郎(なおじろう)、鈴木亜夫(つぎお)になるでしょうか。

 

「田端変電所」(1923年)長谷川利行

「田端変電所」(1923年)長谷川利行

・23.8×32.6cm、カンヴァスボードに油彩、広島県立美術館所蔵

長谷川利行は鉄道をテーマにした作品をいくつも制作していますが、中でも代表作と言われるのが「田端変電所」。長谷川が32歳の頃に描いた作品で、これによって「新光洋画会第1回」で初入選を果たしたそうです。

荒々しく、そしてダイナミックな筆づかいは必見で、見ていてゴッホを思い起こさせる作風です。大胆でありながら、それでいて繊細な感じもある。目まぐるしく変化する日本を”ゴッホ目線”で描いた。そんな感じに見ると、面白いと思います。

 

「汽罐車庫(きかんしゃこ)」(1928年)長谷川利行

「汽罐車庫(きかんしゃこ)」(1928年)長谷川利行

・112.0×194.0cm、カンヴァスに油彩、鉄道博物館所蔵

この「汽罐車庫」の方がよりゴッホっぽい感じがしませんか?長谷川利行は独学で絵を学んだと言われているけれど、西洋画からの影響もかなり受けているのでは?と思います。

 

長谷川利行(はせがわとしゆき)明治24.3-昭和15.10.12(1891ー1940)年

洋画家。京都山科に生れ、東京で没。中学時代から詩や短歌に親しみ、大正8年(1919年)歌集『木葦集』を出版。同15年上京して絵画制作に没頭し、ニ科会その他に出品。昭和2年(1927年)ニ科会で樗牛賞(ちょぎゅう)を、同3年一九三〇年協会展で一九三〇年協会賞を受けた。浅草や新宿の下層街を転々と放浪し続け、夜の酒場や娼家を描いたその作品には、激情的な色調と筆触のうちに独自の詩情と純真さがこめられている。昭和13年一水会展に『ノア・ノア』などを出品したが、最後は窮民として東京市養育院板橋本院で死去。

出典元:「新潮 世界美術辞典」

 

そういえば、松本竣介の作品も展示されていたので、ちょっと挙げたいと思います。

「駅の裏」(1942年)松本竣介

「駅の裏」(1942年)松本竣介

・50.0×60.6cm、カンヴァスに油彩、三重県立美術館所蔵

これは東京駅の裏側、つまり八重洲側を描いた作品。当時関東大震災の復興に伴い再建された八重洲橋が架かっていて、松本竣介はこの景色をよく描いていたそうです。暗く、閑散とした風景画は松本らしい作風だと思います。

 

それから、画像では挙げられませんが、今回私的に惹かれた作品をいくつか紹介したいと思います。どれも後半に展示されている作品なので、ぜひ行った際はチェックしてほしいと思います。

・「ターンテーブル」(1916年)鈴木亜夫
…ターンテーブルは機関車の方向転換をおこなう装置。通常は電動機を使用して行っている作業を、当時は人力によって回転させている様子を描いた作品。苦役という表現が合っているかどうかは別として、何とも時代の流れを感じさせる作品だと思います。

 

・「タイトル不詳(汽車)」(1928年)小林猶治郎
…煙を噴き出す機関車を正面から描いた作品。これまであった様で、なかったダイナミックな視点は必見だと思います。

 

転轍機」(1932年)榎倉省吾
…車両を他の路線に移すための装置で、通称”ダルマ”を描いた作品。何気ない装置を描くという、榎倉省吾の独特な視線が面白いと思った作品です。

 

・「駅にて:夜」(1993年)相笠昌義(あいがさ まさよし)
…電車を待つ間に立ち話をしたり、考え込んでいる人たちの人間模様を描いた作品。普段当たり前に目にする光景を、可もなく不可もなく当たり前に描いていて、ちょっと滑稽だけれど、現代の日本人を象徴する様な…。自然と魅入ってしまう作品でした。

 

後半に差し掛かるにつれ、絵画だけでなく写真も多数展示されていたりと実に多彩!作品を観ながら、気が付けば鉄道の歴史までも知る事が出来る。ある意味学びと発見のある企画展「鉄道と美術の150年」だと思います。この「鉄道と美術の150年」は2023年1月9日まで開催します。

 

東京駅 東京駅

東京駅内にある美術館なので、ぜひ行く機会があれば、立ち寄ってみるのもイイと思います。

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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