- 2022-3-29
- Impression (絵画展の感想)
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印象派の絵画展では、たまに目にする2人の画家ル・シダネルとアンリ・マルタン。
日本で単独の絵画展が開催されるなんてほとんどないだけに、今回のようにシダネルとマルタンの2人展という試みはオモシロイ!しかもある程度まとまって作品が展示される機会はそうそうないので、個人的に楽しみにしていた企画展でした。
最近フランスなどヨーロッパでは評価が高まっているそうですが、日本ではあまり知られていないシダネルとマルタン。活躍していた時期が19世紀末から20世紀初期で、ちょうど印象派と前衛芸術に挟まれる時期。このタイミングの悪さも今まで注目されなかった理由なのかもしれませんね…。
さて、今回SOMPO美術館で開催となった「シダネルとアンリ・マルタン展」。
【最後の印象派、二大巨匠 シダネルとマルタン展】 ・会期:2022年3月26日(土)~6月26日(日) |
実は約10年前に日本初の個展「アンリ・ル・シダネル展」が開催した場所でもあったのです。これも何かの縁なのだろうか!?
如何せん日本での知名度は低いシダネルとマルタンですが、当時フランスでは共に高く評価されていた画家でした。もちろん作品を見れば分かりますが、イイ作品が多いです。知名度と作品の良し悪しはあまり関係ないって事でしょうね。
とにかく結構イイ作品ばかりなので、ぜひ行ってみる事をおススメします。
「シダネルとマルタン展」の見所!
最後の印象派画家と言われているル・シダネルとマルタン。ほぼ同時期に活躍した画家で、しかもお互い深く親交もあった2人。でも作風は全くと言ってもいいほど真逆です。今回の2人展の最大の見所は、シダネルとマルタンの違いを見比べて見れる点でしょうね!
さて、印象派と言えば、光の描写が最大の特徴です。
まず見比べてほしいポイントその1!それは”光の描写の違い”です!
まるで霧がかかったような薄暗さと異様なまでの静寂さ。夢を見ている様なぼやけた世界感。ハーグ派を彷彿とさせる雰囲気ですね。
シダネルの作風は地域性が大きく関係している様です。シダネルは主にフランスの北部を拠点としていました。比較的穏やかな気候が特徴だけれど、でも冬は冷たく湿気も高くジメジメとしている。夏は穏やかだけれど、カラッとした晴天は続かないと言います。薄暗くジメッとした雰囲気はこの気候が影響している様です。
対してマルタンは南部を拠点としていました。鮮やかな色彩感。それから陽光に照らされた眩い風景。シダネルとは対照的な画風なのです。
ちなみに新潮世界美術辞典では、シダネルとマルタンについて、この様に描かれていました。
ル・シダネル(Henri-Eugène-augustin Le Sidaner)
…1862.8.7-1939 フランスの画家。モーリス島に生まれ、ヴェルサイユで没。1894年サロンに初出品。その後サロン・ナショナルや1900年のパリ万国博覧会に出品。印象派や新印象派の影響を受けながら、どこか暗い霧に包まれた様な静謐(せいひつ)な風景や室内を描く。※静謐は静かで落ち着いている様。マルタン(Jean-Guilltaume Henri Martin)
…1860.8.5-1943.11 フランスの画家。トゥルーズに生れ、パリで没。早くよりパリに出てジャン=ポール・ローランスに学ぶ。1883年、サロン初出品。1885年イタリアに旅行し、その明るい風土にひかれ、作風は華麗となる。新印象派の点描画法を取入れた華やかな色彩により、多くの人物像、風景を描いた。1895年にはパリ市庁舎の装飾画を制作した。※「新潮世界美術辞典」より
そしてもう1つ大きな違いを挙げるとすれば、それはタッチ(描き方)の違いでしょうね!この描き方の違いは、実際に作品を間近で観るのが一番だと思います。
まるで絵具を薄く塗る感じのシダネル。
対して、マルタンは絵具を置いていく感じの描き方。絵具を置いていく感じ…、つまりゴッホの様な厚塗りを思わせる描き方です。大きな筆触と大胆な絵具の乗り!鮮やかさの理由はこの筆のタッチによるものかもしれませんね。
印象派は筆触をあえて残す描き方が特徴なので、実際に作品を近くで観察するのも楽しみの1つ!印象派の作品の醍醐味でしょうね。もちろんシダネルとマルタンについても言える事です。
ちなみにマルタンは装飾画も多数制作しています。彼の鮮やかで華やかな作風もあるだろうけど、当時それだけ評価も高かった証だと思います。今回私的におススメの作品がありますが、これも装飾画でした。
・「舗装工」フランス国務院の装飾画「コンコルド広場での仕事」のための習作(1925年頃)
・「建設現場」パリ6区役所の壁画≪パリ司法院の建設≫のための習作(1914年頃)
今回の「シダネルとマルタン展」の図録の言葉の受け売りになりますが…
マルタンはアカデミックな様式を出自とし、サロンを活動の拠点としながらも、マルタンは、象徴主義、印象主義、点描技法等様々な表現を柔軟に吸収し、それらを壁画が体現すべき理念を明瞭に訴求するに適した様式へと昇華させた。
※「シダネルとマルタン展」の図録P125より
美術館で作品を見終わった後、図録を見ていたのですが、この言葉が妙に惹かれてしまいました。
ここまで作風の違いがあるシダネルとマルタン。もちろん個性が違うが故、好みも分かれると思います。個人的にはマルタンの方が好きですが、でも…後半に展示されたル・シダネルの作品「ヴェルサイユ、薔薇に覆われた家」(1936年)も捨てがたいですね。
今回の「シダネルとマルタン展」ですが、比較的個人蔵が多いようです。それだけ普段お目にかかれない作品も展示している様なので、ぜひ興味のある人は行ってみる事をおススメします。
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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