ローマ美術を語る上で、建国神話”ロムルスとレムス”は外せない !

ロムレスとレムスの像(Sculpture of Romulus and Remus)

 

ローマ美術を語る上で、ローマを建国した初代皇帝ロムレスと弟レムスの神話は絶対に外せない!

 

神話は様々な絵画や彫刻に描かれるくらいですし、作品を深く味わうためにも背景理解は大事!何が描かれているのか分からなかったら、作品を見てもつまらないですからね。もちろん美術鑑賞する上でも大事な話ですが、それ以前にロムレスとレムスはローマという国にとっても重要な人物です。事実サッカーのクラブチーム”ASローマ”のロゴになっているくらいですから!

 

目次

1、ロムルスとレムスの誕生
2、狼によって育てられたロムルスとレムス
3、建国後のサビニの女たちの掠奪

 

今回はこの流れで、ロムレスとレムスの神話について話していこうと思います。また随所に絵画など作品も載せているので、ストーリーを追いながら見てほしいと思います。そして今回の話を参考に、実際の作品鑑賞にも役立ててほしい!背景を知った上で作品を観ると、より一層深く愉しめると思います。

 

 

1、ロムルスとレムスの誕生

カピトリーノ美術館の外にある古代ローマ彫刻

ロムルスはローマを建国した初代皇帝というのは分かったけれど、一体どんな人物だったのか?まずはロムルス(Romulus)と弟レムス(Remus)について話さないといけないでしょうね。実際2人を題材にした作品も結構多いので、ある程度の生い立ちは知っておいて損はないと思います。

 

ころで”軍神マールス(Mars)”は知っていますか?

ローマ神話に登場する戦の神です。(ギリシア神話のアーレスと同一視されています。)「聖闘士星矢」を見ていた人なら知っていると思いますが、アーレス教皇でもお馴染みの名前だと思います。

 

マルスとレア・シルヴィア」(1617‐20年頃)ピーテル・パウル・ルーベンス

マルスとレア・シルヴィア」(1617‐20年頃)ピーテル・パウル・ルーベンス

・208.0×272.0cm、カンヴァスに油彩、リヒテンシュタイン美術館所蔵(ウィーン)

この軍神マールスとウェスタの巫女”レア・シルヴィア(Rhea Silvia)”の間に生まれたのが、双子の兄弟ロムルスとレムスでした。ただ生まれる経緯は結構微妙で、軍神マールスがレア・シルヴィアを大変気に入り、寝ている間に交わったのが事の始まりだったと言われています。(つまりは犯された?というわけです。)神話には多くの神が登場してきますが、実は私たちが思う聖人とはほど遠い場合が多い。どちらかと言うと人間らしい感じでしょうか。

ちなみに余談ですがレア・シルヴィアが巫女になった理由ですが、アルバ・ロンガの王アムリウスが王位を継ぐだろう子孫を生まないようにするためだった。でも巫女”レア・シルヴィアは双子のロムレスとレムスを産んでしまった。これでは大変!という事で、王アムリウスが取った行動は…

 

双子のロムルスとレムスをテーヴェレ川で溺死させようとした。

つまり殺そうとしたのです。

 

 

2、狼によって育てられたロムルスとレムス

日比谷公園内にある「ルーパロマーナ(ローマの牝狼)」

さて、テーヴェレ川に流されたロムルスとレムスですが、2人は精霊ティベリーヌスによって助け出されます。そして双子を牝の狼に託したという流れです。

 

こで参考に、「西洋美術解読事典」の解説も見てみようと思います。

ロムルス(Romulus)

伝説上のローマの建国者で、レムスの双子の兄弟。彼らの母はウェスタの巫女だったが、身重になったとき、軍神マルスに犯されたと申し述べた。彼女は投獄され、子供たちはテーヴェレ川で溺死させよとの命令が下るが、彼らは生き延び、牝狼とキツツキに育てられた。後者は彼らの見張りをし、食物を運んでくれたのである。狼は木の下に横たわって赤子の1人に乳を与え、他の1人が傍らで遊んでいるところが表わされる。彼らを発見することになる羊飼いのファウストゥルスが近づいて来る。テーヴェレ川の河神が水甕にもたれかかっている。ロムルスの支配下で、都市ローマは大きさと力を増した。サビニの女たちの掠奪は彼が企てたことである。

・出典元:西洋美術解読事典

中でも特に気になる一文は、”牝狼とキツツキに育てられた。狼は木の下に横たわって赤子の1人に乳を与え、他の1人が傍らで遊んでいるところが表わされる

実際にカピトリーノ美術館には、「カピトリーノの牝狼」と呼ばれる銅像があります。神話の一部分が銅像で描かれているわけです。またサッカーのセリエAに所属するクラブチーム「ASローマ」のロゴもここから来ています。ローマにとっていかに重要な神話なのかが分かると思います。

 

日比谷公園内にある「ルーパロマーナ(ローマの牝狼)」
ちなみに”ロムレスとレムスに乳を与える牝狼”は、東京の日比谷公園でも見る事ができます。「ルーパロマーナ」と呼ばれる銅像があるので、こちらも近くに行く機会があれば見てほしいと思います。

 

「ロムルスとレムス」(1615‐16年)ピーテル・パウル・ルーベンス

「ロムルスとレムス」(1615‐16年)ピーテル・パウル・ルーベンス

・210×212cm、カンヴァスに油彩、カピトリーノ美術館所蔵

その後ロムルスとレムスの2人は、羊飼いのファウストゥルスによって発見され、立派に成長していったのです。ここまでの話を聞く限り、波乱万丈ではあるけれど良い話の様に思える。

でも話しはこれで終わらないのです。

 

 

3、建国後のサビニの女たちの掠奪

「サビニの女たちの略奪」(1702‐03年頃)セバスティアーノ・リッチ

「サビニの女たちの略奪」(1702‐03年頃)セバスティアーノ・リッチ

・197.0×303.0cm、カンヴァスに油彩、リヒテンシュタイン美術館所蔵(ウィーン)

物語も終盤の方に差し掛かってきました。今度は”建国後のサビニの女たちの掠奪”という話です。

先ほどの話ではロムレスとレムスの双子が牝狼によって育てられ、そして羊飼いによって発見され立派に成長した。展開としてはそれなりに良い話の様に思えるでしょう。でもここからが何とも言えないのです。

ロムルスとレムスは成長し、王アムリウスを打ち破ったまでは良かった。その後新しい王国を作り上げよう!という話になりますが、2人の意見に食い違いが生じたのです。結局兄弟同士の争いとなってしまった。弟のレムスは戦いに敗れ殺され、兄のロムルスは勝利し国を建国したのです。そして”ローマ”と名付けられたというわけです。

 

「サビニの女たちの仲裁」(1799年)ジャック=ルイ・ダヴィッド

「サビニの女たちの仲裁」(1799年)ジャック=ルイ・ダヴィッド

・385.0×522.0cm、カンヴァスに油彩、ルーヴル美術館所蔵

しかし建国当初のローマには、大きな問題がありました。今後の子孫を残すための、女性の数が少なかったのです。そこで王ロムルスは、サビニから多くの未婚の女性を略奪しようとしたのです。それが俗にいう”サビニの女たちの掠奪”です。ローマは多くのサビニの女性を拉致し、多くの子孫を残す事に成功したと言いますが、でもこれに黙っていられなかったのがサビニ族です。元々好戦的な部族だったため、結局は戦争に発展してしまったのです。

牝狼によって育てられたという幼少期の愛らしい話から、後半は兄弟間の争いや女性の掠奪。神話の一部分だけを切り取れば、実に素敵な話にも聞こえます。でも全体を見ると結構生々しい話だったりするわけですね。日本の伝説といえば、神秘的だったりハッピーエンドで終わるものも多いだろうけど、西洋の伝説は意外と生々しい話が多かったりします。

 

ロムレスとレムスの像(Sculpture of Romulus and Remus)

絵画も神話もストーリーの一部分だけで見てしまうと実に勿体ない!深く味わうためにも、全体像を把握するのが一番!これが芸術のオモシロさで、醍醐味でもあると思うのです。

 

今回全体像を分かりやすく解説したつもりですが、どうだったでしょうか??

多少はローマ建国神話について分かってもらえたら幸いですね。そしてここでの話を参考に、今度は実際に作品を見てほしい!今まで以上に、より深く味わえると思います。

これが神話画のオモシロさで、醍醐味ですよ!

 

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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