西洋画と日本画の「龍(ドラゴン)」の描かれ方・違いがオモシロイ!

西洋画と日本画では、「ドラゴン」の描かれ方が違う!?

 

2024年は干支が”辰年”だからでしょうか、あちこちの美術館で(Dragon)をテーマにした展覧会が開催予定になっています。

そうなると展示される作品と言えば、屏風絵や水墨画など日本画が中心です。

対照的に西洋絵画は、ほとんどお目にかかる機会はないかと。

西洋で”ドラゴン(龍)”は退治される存在なので、さすがに正月から展示するには縁起が悪いでしょうから。

 

目次

前提として、龍とドラゴンは同じなの!?
西洋画で描かれる「ドラゴン」はこんな感じです。
日本画で描かれる「龍」はこんな感じです。

今回は自称”美術通”の私が、西洋画と日本画の「龍(ドラゴン)」の描かれ方や違いについて、分かりやすく解説していこうと思います。

 

 

 

前提として、龍とドラゴンは同じなの!?

解説

て西洋画と日本画の違いを話す前に、前提として「龍とドラゴンは同じ生き物なのか?」から、話す必要があると思います。

 

確かに辞書で調べると、”ドラゴン(Dragon)”を日本語にすると、”(もしくは)”になります。

言葉的には、ほぼ同じ意味で扱われている様です。

でも描かれ方で見ると、同じ生物とは思えないくらい違ったりします。

 

西洋画と日本画では、「ドラゴン」の描かれ方が違う!?
詳しい違いについては以下で解説しますが、一般的に日本で描かれる龍(竜)は、”巨大なワニ”という感じです。風や雷などと共に描かれ、龍は”自然に宿る神”という意味合いが強い様です。

対照的に西洋では、ドラゴンは”トカゲ”に近い描かれ方をします。そして一番の違いは、日本と違い”悪役”として描かれている点でしょうか。

 

「聖ゲオルギウスと竜」の像 龍の彫刻

それでは西洋画と日本画での「龍(ドラゴン)」の描かれ方を、代表作を挙げながら見ていこうと思います。

西洋画で描かれる「ドラゴン」はこんな感じです。
日本画で描かれる「龍」はこんな感じです。

 

 

 

西洋画で描かれる「ドラゴン」は、こんな感じです。

洋画(イメージ)

西洋画で”ドラゴン”は、頻繁に描かれる題材の一つです。

例えば、代表的なものとして「聖ゲオルギウスとドラゴン」が挙げられます。

”と付くので、キリスト教の聖人の一人。簡単にどういった話(伝説)かを説明すると、ドラゴンの被害に悩まされていた街に立ち寄った”ゲオルギウス”が、生贄となっていた王の娘を救出するという話です。

多くの画家が好んで描いていた題材で、中でも有名なのがルネサンスの巨匠”ラファエロ・サンティ”でしょう。

 

「聖ゲオルギオスとドラゴン」(1506年頃)ラファエロ・サンティ

「聖ゲオルギオスとドラゴン」(1506年頃)ラファエロ・サンティ

・28.5×21.5cm、板に油彩、ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵

現在はワシントン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されています。本やネット上でよく取り挙げられる作品なので、知っている人も多いでしょうね。

時代や画家によって「ドラゴン」の描かれ方は違ってきますが、上の作品を観る限り、蛇やトカゲの様な爬虫類がベースになっている様です。しかも比較的小さめに描かれているのも特徴的です。

日本で目にする”龍”と比べると、かなりこじんまりとした感じに見えるかと。

 

「聖ゲオルギウスと竜」(1470年頃)パオロ・ウッチェロ

「聖ゲオルギウスと竜」(1470年頃)パオロ・ウッチェロ

・55.6×74.2cm、カンヴァスに油彩、ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵 

そして一番大きな違いと言えば、”ドラゴンの扱われ方”にあると思います。

一般的に日本で「龍」は、”神格化された生き物”というイメージがある。

でも、西洋でドラゴンは退治される存在にあった。パオロ・ウッチェロの作品「聖ゲオルギウスと竜」でも、”悪の存在”として描かれているのが分かるかと。

これが西洋と日本での大きな違いになると思います。

 

(dragon)

古代東方では竜は水と関連づけられて、恵みの神とされたが、キリスト教文化圏ではサタンの象徴となった。ラテン語の”draco”が竜と蛇の双方を指すところから、時に両者は混用されている。鎖に繋がれた竜、あるいは踏みつけにされた竜は、悪の克服を象徴する。~

・出典元:『西洋美術解読事典 - 絵画・彫刻における主題と象徴』の一部参考

 

 

なぜ、西洋でドラゴンは悪の存在なの!?

「聖ミカエルとドラゴン」(1504‐1505年頃)ラファエロ・サンティ

「聖ミカエルとドラゴン」(1504‐1505年頃)ラファエロ・サンティ

・30.9×26.5cm、板に油彩、ルーヴル美術館所蔵

解釈はいくつかある様ですが、一般的には宗教上の理由があると言われています。
(ここで言う宗教とは、キリスト教を指していますが)

『新約聖書』の「ヨハネの黙示録」に記載があり、ドラゴンは悪魔(サタン)と呼ばれるヘビの様な姿をした存在だった。そして天使ミカエルと戦って敗れたとあります。

西洋ではイエス・キリストが神として神格化されているのに対し、ドラゴンは”悪の存在”として見られていたわけですね。

 

 

 

 

日本画で描かれる「龍」は、こんな感じです。

日本画(イメージ)

日本画で描かれる”龍”は、”神格化された生き物”と考えられていた様です。

 

よく方角を司る霊獣として、「四神」があります。

元々は中国から来た考えで、”東の青龍に南の朱雀、西の白虎に北の玄武”。”青龍”は東の方角を守護する霊獣という位置づけだったのです。

同じ龍(ドラゴン)でも、西洋と東洋で全く違った考えなのが興味深いですね。

 

「龍虎図屏風(龍図部分)」(1895年)橋本雅邦

「龍虎図屏風(龍図部分)」(1895年)橋本雅邦

・(各)縦160.5×横369.5cm、絹本着色 六曲一双、静嘉堂文庫美術館所蔵

これは橋本雅邦の代表作『龍虎図屏風(重要文化財)』です。

まずドラゴンの描かれ方、姿形が西洋画と大きく違います。

日本画で描かれる龍(竜)は、例えるならワニに近い感じがするかと。しかもかなり巨大に描かれていて、神秘的な力も感じられる。

屏風からも”聖なる生き物”という感じが分かりますよね。

参考)⇒また観たい! 橋本雅邦の代表作『龍虎図屏風』について解説します。

 

ちなみに、書物『易経』には”龍吟ずれば雲起こり、虎嘯けば風生ず”とあり、龍は雲を巻き起こすような強大な力を持った存在として書かれています。まさに自然に宿る霊獣なのが分かるかと。

 

『雲龍図(detail)』(宝暦13年、1763年)曽我蕭白

『雲龍図(detail)』(宝暦13年、1763年)曽我蕭白

・(各)165.6×135.0cm、8面 紙本墨画8面、ボストン美術館所蔵

これは江戸時代の中期頃に活躍した絵師曽我蕭白(そがしょうはく)の『雲竜図』です。

曽我蕭白は水墨画で知られ、独創的ともいえる構図と大胆な描き方が特徴。白と黒のシンプルな墨画ですが、何により”龍”の迫力は凄い!これぞ”奇想の絵師”と言ったところでしょうか。

 

『雲龍図』(宝暦13年、1763年)曽我蕭白

『雲龍図』(宝暦13年、1763年)曽我蕭白

・(各)165.6×135.0cm、8面 紙本墨画8面、ボストン美術館所蔵

繊細な描写もあれば、時には大胆な描き方もする。何より奇抜な構図は、唯一無二の存在ではないでしょうか。

実は曽我蕭白については、生い立ちなど不明な点も多いと言われています。ただ京狩野の流れをくむ高田敬輔(けいほ)に師事したのは、現在のところ有力な説の様です。

とにかく蕭白が34歳頃に大作「雲龍図」を描いたわけですから。つくづく凄い画家だな~と。

 

 

 

 

まとめとして…

考え

同じ”龍(ドラゴン)”でも、西洋と日本では全く扱われ方が違うのが面白いですね。

本当なら、日本の「龍図」を展示するなら、西洋画の「ドラゴン」も一緒に展示してほしい。

同じ題材でも地域によって全く描かれ方が違うわけですから、比べて鑑賞するのが何よりオモシロイと思うから。

 

でも”縁起”を重視する正月に、ドラゴンが成敗されている姿を見るのも…
(ん~、さすがに微妙な気持ちになりますね。)

 

龍(ドラゴン)の画像

とにかく、『龍虎図屏風』や『龍図』を見る機会があったら、今回の話を参考にしてみるのもイイかと思います。

意味や背景を知った上で作品を見た方が、より深く味わえると思うから!

 

参考

また観たい! 橋本雅邦の代表作『龍虎図屏風』について解説します。
また観たい! 狩野山楽の代表作『龍虎図屏風』を解説します。

 

 

※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。

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