- 2020-5-10
- Artist (画家について), Artwork (芸術作品)
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遠近感がなく、
ましてや写実的でもない。
アンリ・ルソーの描くジャングルの絵画は、
唯一無二のルソーにしか描けない産物だと思うのです。

「異国風景」(1910年)アンリ・ルソー
アンリ・ルソー「異国風景」(1910年)
・130×162cm、キャンヴァスに油彩、ノートン・サイモン美術館所蔵
※アンリ・ルソー(1844年~1910年)
”素朴派”を代表するフランスの画家。
アンリ・ルソーは時代的に印象派とも重なるんですが、
印象派の作風とは違った独特な絵画が特徴ですよね。
悪く言えば幼稚で誰でも描けそうな…
でもこの独特な世界観には不思議な魅力があるのです。
俗に”素朴派”と呼ばれるアンリ・ルソーは、
この独特ともいえる画風と色彩感は
魅惑的なジャングルの風景と相性はピッタリなのかもしれないですね。
アンリ・ルソーの”素朴派”とは?
”素朴派”とは
画家を職業としないで者が絵画を制作している事。正式な美術教育を受けずに絵画を制作するため、
技法や技術的な事には関心がないと言われ、
時に陳腐な画風や技術的に低いなどで批判の的になる場合も。
でも教育を受けず我流を貫いた事が、
時として個性的で独創的な作風を生み出しているともいいます。
アンリ・ルソーの場合は、
パリの税関で職員として働き、空いた時間に絵を描いていたそうです。
つまり”日曜画家”だったわけですね。
そのため”ドゥアニエ(税関吏)”とも呼ばれていました。
そんなルソーが本格的に画家として活動し始めたのが40歳頃から。
1886年(ルソーが42歳)にはアンデパンダン展に参加し、
それ以降ルソーは毎年の様に出品していました。
アンリ・ルソーのジャングルと嘘
ルソーはジャングルをテーマにした作品を数多く描いています。
どれもがシンプルな色遣いとシンプルな構図。
そして立体感や遠近感を無視した独創的な作風は、
エキゾチックで魅惑のジャングルの風景にはピッタリ合うと思うのです。

「馬を襲うジャガー」(1910年)アンリ・ルソー
アンリ・ルソー「馬を襲うジャガー」(1910年)
・90×116cm、カンヴァスに油彩、プーシキン美術館所蔵
この「馬を襲うジャガー」は弱肉強食という凄惨な場面にも関わらず、
独特な画風のためかまったく凄惨な感じはしないのが不思議ですね。
まさにこのルソーのジャングル風景は、
ルソーにしか描けない唯一無二の芸術だと思うのです。

「飢えたライオン」(1905年)アンリ・ルソー
アンリ・ルソー「飢えたライオン」(1905年)
・200×300cm、カンヴァスに油彩、
ルソーがこの「飢えたライオン」に添えた説明文。
飢えたライオンは身を投げ出してカモシカに襲い掛かり、むさぼり食う。
ヒョウはその分け前をもらう瞬間をじっと待っている。
哀れな動物は涙を流し、
その上では鳥たちが肉片を喰いちぎっている。陽が沈む。
カモシカをむさぼり食べているライオン。
それを見ているそれぞれの動物たちの様子…
弱肉強食の世界を淡々と描いていて、
まるで目の前で動物たちを見ている様な
そんなリアリティがこの絵から感じられませんか!?
でも…
実はアンリ・ルソーは生涯一度もフランスを出た事がない。
つまり一度もジャングルへは行った事がないのです。
それを裏付けるルソーのこんな言葉~
”植物園の温室より遠くへ旅行したことはない。
温室に入り、異国の変わった植物を見ていると、
まるで夢の世界へ入っていくような気がする。”
ルソーは植物園の温室で出会った植物から
ジャングルという世界を表現した様ですね。
絵画の中のジャングルは、
ルソーの想像によるところが大きかったというわけですね。
タイトルに”ルソーのジャングルと嘘”とした理由は、
ルソーはジャングルに行った事がないのに、ジャングルを描いた。
実は”ジャングルでなくルソーの想像だった”からなのです。

「ライオンの食事」(1907年)アンリ・ルソー
アンリ・ルソー「ライオンの食事」(1907年)
・114×160cm、カンヴァスに油彩、メトロポリタン美術館所蔵
美術館に行けばすぐにルソーの絵だと分かる!
今ではこの独特な画風はルソーの特徴ともなっているけれど、
当初かなり批判もあったと言います。
陳腐だ!幼稚だといった酷評もあったそうです。
でもこの独特で個性的な作風は
シュルレアリスムの前衛芸術の先駆けともなったそうです。
マックス・ジャコブ、パブロ・ピカソなどにも大きな影響を与えました。

「夢(The dream)」(1910年)アンリ・ルソー
アンリ・ルソー「夢(The dream)」(1910年)
・205×299cm、カンヴァスに油彩、ニューヨーク近代美術館所蔵
この「夢」はルソーの最晩年の作品。
作品の副題として…
”安らかにまどろむヤドヴィガ
甘美な夢に浸る彼女は心優しい蛇使いが奏でる葦笛(あしぶえ)を聴いている。
銀色の月の光は流れや木々の葉の上できらめき、
残忍な蛇たちも妙なる蠱惑的(こわくてき)な調べに耳を傾ける。”…ギョーム・アポリネールによる
※ヤドヴィガ…ルソーが恋焦がれたポーランドの女性。
※”蠱惑的(こわくてき)”…人の心を引きつけて惑わす様。
ルソーは一貫してその作風に大きな変化はなかったそうです。
絵の技法や基本について習得する時間もあったはずなのに、
でもルソーは我流で描き続けていたのは、
基本や技法には興味がなく、ただ絵を描きたかっただけなのかも…。
でも描き続けた結果アンリ・ルソー独自の画風が作り上げられたと思うと、
”素朴派”というより、”ルソー派”と呼んだ方が適切かも!?
…そう私は思うのです。
ルソーは人物画や静物画、風景画など様々描いているけれど、
個人的に好きなのは”ジャングルの風景”たちです。
実際にルソーはジャングルに行った事がなかったのに、
絵からは南国の幻想的な雰囲気を感じさせてくれるのです。
ルソーの”ジャングル”にはそんな魅力がある様に思うのです。
※ここで扱っているイラストや作品画像はpublic domainなど掲載可能な素材を使用しています。
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